大企業の管理職ともなれば,社外はもちろん,上司や部下からも仕事が次々に舞い込んで,日々目まぐるしい忙しさでしょう。

 ところが,そんな要職にありながら,10年間にわたって毎朝の通勤時間に一冊ずつ本を読破しては書評メルマガやブログを配信。人気ネット書評家としての地位を確立した「早朝起業家」がいます。それだけではありません。バランススコアカードやマインドマップなどの独創的な著書を毎年のように出版する人気著述家兼講師としても知られているのです。さらには,大学院の客員教授としてもお声がかかって活躍するうちに,自社の有志と社内カレッジを作って初代校長になってしまいました。

 それが,Webook of The Day発行人Jカレッジ校長金沢工業大学大学院客員教授などの多彩な活動で知られる松山しんのすけ(松山真之助)さんこと,(株)JALUXの松山真一さんです。

 今回は,松山さんが,ブログやメルマガといった個人エンパワーメントツールを活用し,「いかにして,企業の管理職としての重責を果たしながら,時間を生み出したのか。自己実現を図ったのか」についてご紹介しましょう。ITproの読者層と重なる松山さんの成功事例は,きっと参考になるはずです。

それは1日1冊の早起き書評メルマガから始まった

 松山さんと私が出会ったのは,今から10年近く前でした。親しいメール縁者から,1日1冊本を読み,毎日1通の「書評メルマガ」を発行しているすごい人物がいると教わったのです。

 毎日1冊の本を読むだけでも大変なことなのに,さらにメールマガジンまで発行していると聞いて驚きました。最初はプロの書評家か,あるいは出版関係者や編集者だと思ったのです。しかし,初めてお会いした時に,JALグループのシステム関連子会社の管理職で活躍されているとお聞きして驚いたのです。

 松山さんは,一体,どうやって時間を捻出し,大量の本を入手しているのでしょうか?また,ご自身専用の情報メディアをどのように構築したのでしょうか?

 その秘密をお聞きして,さらに私は仰天しました。そこで,すぐさま仲間内の勉強会にお呼びして,松山さんの貴重なノウハウをご披露いただいたのです。

 まず,松山さんは,毎日,遠距離通勤をこなしていらっしゃいます。ともすれば「自分の時間が奪われる」と考えがちな遠距離通勤を「逆手」に取りました。ほとんど始発に近い,5時台のガラガラの電車に悠々と座って通勤することにしたのです。そうすると,頭もすっきりしている上に,ちょうど本を1冊読むのに最適な「時間と空間」が生まれるのです。

 さらに,会社に着くと広々としたオフィスに自分1人しかいません。もちろん就業前ですから,自分の時間として自由に使っても良いでしょう。読後感がまだ生々しいうちに,今朝読んだ本の書評を悠々と書くのです。静まり返ったオフィスでは,知的な作業も自ずとはかどります。

 一方,毎日1冊のビジネス書や文芸書をどうやって入手しているか気になります。実は,その大半を自宅近くの図書館で借りているのだそうです。私も知りませんでしたが,多くの図書館では,「新刊をリクエストすると購入してくれた上に,真っ先に読めるシステム」があるそうです。

 これなら,貴重な毎月のおこづかいを減らすことはありません。また,書棚が大量の本で埋まることもありません。そして,書評メルマガ発行者としての揺るぎなき地位を確立してからは,松山さんのブログやメルマガで紹介されると本が売れるようになりました。それからは,著者や出版社謹呈の本も増えたと聞きます。

 そして,自前で情報を発信するためのメルマガは,無料配信ポストの「まぐまぐ」を活用して始めました。これもお金はかかりません。今でこそ,独自のブログも構築されていますが,ご存知の通り,ブログを自分で更新する限りにおいては,さほどコストはかかりません。また,人気書評ブログやメルマガを通じて,アマゾンなどの書籍販売アフィリエイトをすることで,システム代と書籍購入代は十分にペイするでしょう。

 こうして,松山さん独自の工夫で,時間も経費も無理に捻出しなくとも,毎日好きな本を読み,思うがままに書評を発信する仕組みができあがりました。

早朝起業と読み聴かせのために早帰りという選択

 こうして,松山さんは,大企業に勤めながら,早朝の時間を生かして自己実現を図りました。そして,早朝通勤をテコにした新しい自己活性化の「行」を「早朝起業」と命名して同名の著書も出版しました。

早朝起業
「朝5時から9時まで」の黄金時間を自分のために使う方法 松山 真之助著

「朝の生産性」はふだんの6倍! 航空会社の要職にありながら,メルマガ発行,講演,執筆と人生大回転。時間活用の達人が教える「早起き・パーソナルブランド構築」への道。

 こうして生活を早朝型にシフトすると,読書量が増える以外にも,思いがけず,人生を豊かに好転させることが多いと気づくのです。

 例えば,帰宅時間が早くなって,家族と過ごす時間も増えたのは,多くの大企業管理職にとって奇跡のようなことかもしれません。これには,いくつかの要因があるでしょう。

 まず,「早朝起業」により,仕事が前倒しで素早く終わるようになります。朝一番の頭が働いている時に,書評メルマガのみならず,知的生産性を必要とする仕事や,メール受発信などを終わらせてしまうのです。この生産性向上効果は絶大でしょう。早朝のひとりオフィスなら,管理職を悩ませる上司や部下はもちろん,取引先からの突発的な相談もありません。

 さらに,社内外に「早朝起業家」としての活躍ぶりが知られれば,ビジネスにつきものである「夜のお誘い」を断ったとしても文句を言う人は少ないでしょう。また,松山さんは「毎日の家族そろっての夕食」までは無理でも,子供が寝る前には帰って,読み聞かせることを実践しました。これも,通常なら社内の反発を買って出世に響きそうな話です。しかし,本業はもちろんのこと,早朝起業での社外での実績が裏付けとなって,無言の説得力になったのでしょう。

 つまり,松山さんは,早朝起業で,ビジネススタイルもライフスタイルも一新して,仕事,家族,個人という3つの人生をそれぞれバランスよく充実させることができたのです。