ある大手ITサービス会社の人と、最近ニーズがホットな「仮想化」の話で盛り上がっていたら、その人が面白い話を教えてくれた。ユーザー企業はなぜ、仮想化に強い関心を持つのか。「そんなの分かりきったことじゃん」との声が聞こえそうだが、答えはちょっと違う。サーバーを入れる“容器”の方に主な要因があるというのだ。

 サーバー資源を有効活用できる仮想化技術は、ユーザー企業内でのサーバーの増殖を食い止めるのに効果的と、誰しも思う。それはもちろん正しい。コスト削減にもつながるし、運用の手間・負荷の軽減にもなる・・・しかし、よく考えたら、こちらはどこまで正しいのか。

 PCサーバーなら低価格化と高性能化が進んだから、お気楽に導入してもITコスト面でのインパクトは少ない。運用の大変さと言っても、1カ所で集中管理できるなら、多少増えてもそんなに問題はないはずだ。

 「問題は入れ物」と冒頭の人は言う。つまりサーバールームだ。アウトソーシングしている企業は別にして、大手・中堅クラスの企業は自前のサーバールームを持つ。さて、情報システム部門としては当たり前のことだが、サーバールームを増やさなければいけない事態は絶対に避けたい。サーバールームの“増設”は情報システム部門の予算のやりくりで済む問題ではない。経営マターだし、総務部門にも頭を下げなければならない。

 従って、サーバーがサーバールームから溢れそうな状態のユーザー企業は、とりわけ仮想化技術に高い関心を示し、その導入に熱心になる。だから「仮想化の案件、ありや、なしや」を知りたいITベンダーは、ユーザー企業のサーバールームの状況を聞き出せば、一番手っ取り早いわけだ。

 ただ、サーバールームという容器の問題は、単に物理的容量だけではなから要注意だ。物理的にはサーバーをまだ押し込めることができても、空調面で限界に来てしまうことがある。サーバールームといえども空調施設は、管轄が総務部門であることが多い。同じスタッフ部門の総務部門と情報システム部門はだいたい仲が悪いから、サーバールームにおける空調の問題を事前に検討していないケースが多い。

 かくして、こうした企業はこれ以上サーバーを詰め込むと、熱暴走してシステムダウンに見舞われるという恐ろしい状況になる。情報システム部門としては、総務部門に頭を下げたくないし、下げたところでどうにもならないだろうから、サーバーをより高速で発熱量の少ないものにリプレースし、仮想化技術を導入してサーバー資源をより効率的に使うことに必死となる。

 そんなわけで極論すれば、組織間の風通しの悪いユーザー企業ほど仮想化に熱心ということになる。まあ低次元な話だが、そうしたサーバーや情報システム部門の置かれた状況を無視して、仮想化技術導入のメリットについて“きれいごと”を並べていても仕方がない。ユーザー企業の現実を“仮想化”していては、商談は“実在化”しないのだ・・・おあとがよろしいようで。