製品開発スケジュールにしても,不具合やバグ修正のスケジュールにしても,日本とアメリカでは根本的なアプローチの仕方が異なります。それがネックとなって,意見が噛み合わないことが少なくありません。

 あくまでも一般論ですが,アメリカ企業のスケジュールは,遅れることはあっても早まることはあまりないです。「90%の確率でこのスケジュールを守れる自信があります」とか,「もし2週間前倒しをするとなると,実現確率は50%になります」というコメントがよく聞かれるのは,彼らのスケジュールがスタッフの人数や稼動時間を考慮した現実味のあるものであることを示唆しています。

 アメリカ流は,開発プロセスの各工程とその内容,次のステップへの移行条件が明確に定義されているので,各工程にかかる員数と時間が計算しやすいというのが特徴です。言い換えれば,開発が想定通りに進んだ時のベストケースで基本スケジュールが立てられることが多いのです。

 もちろん,バグが見つかったり,不具合が見つかったりすることは当然予測していますから,試験は2度実施することを前提に必要日数を計算していたりするわけです。このような順調に進まなかった時のリスク管理分もスケジュールには計上されていますので,通常日本がたてるスケジュールの中で「含み」として持たせている部分が,アメリカのスケジュールでは明示されているのです。

 アメリカ側から提示されたスケジュールを見てどこまで前倒しできるかを交渉する際,そのスケジュールには「含み」の部分がないので,削れる部分があまりないというのが現実です。でも日本側は,自分達の作成するスケジュールには,通常各工程ごとに遅れた場合を想定してのバッファーを持たせ,ワーストケースを想定したスケジュールになっているので,そのバッファーが不要になれば(即ちベストケースに近づけば)その分スケジュールが短縮できるだろう,納期を前倒しできるだろうと考えてしまうのです。

 このバッファーについての考え方は,ハードウエアの製造の際に,各コンポーネント単位でマージンを持たせ,それを積算するとシステムレベルではかなりのマージンを持っているのと似ています。

 アメリカ式スケジュールでは,「想定通りに物事が進めばこのスケジュールになる」いう考え方ですから,想定外の問題が発生するとリリースや納期が遅れるということになるわけです。スケジュールが遅れそうな場合,急に人員を増強するわけには行かないので,超過勤務をしたり,週末も仕事をするなどして対応します。それがいわゆる「バッファー」になっており,それ以外の「予備日」はほとんどないのです。

 スウェーデンでは週末に仕事をする「超勤」は法律違反になるのだそうですし,以前アリアンスパースというフランスの衛星打上業者と仕事をした時に,クリスマス休暇中に稼動したのは史上初めての事件だと言われたことがありました。日本には休日返上も当たり前という商慣習がありますが,グローバルにはその常識が通用しないことがあるというのは意識しておく必要がありそうです。

 アメリカ式スケジュール管理の方が現実的だとか,日本式の方が理に叶っているとかいう議論をするつもりは毛頭ありませんが,両者のアプローチの仕方の違いを念頭において,スケジュール交渉をした方がより建設的,効果的な交渉になることは言うまでもありません。

 それでは次に,スケジュール交渉に使えそうな表現をまとめてみましょう。