社会保険庁のシステムは,長年のメンテナンスや改良維持のため,ソースコードはスパゲッティ状態。改造改築の温泉旅館の曲がりくねった渡り廊下状態になっているはずです。メンテナンスコストも幾何級数的にはね上がっているでしょう。「年金記録問題検証委員会(年金検証委)」の中間報告では,使い勝手の悪い旧式システムを更改せずに使ってきた,と業者の責任にしていますが。とんでもない! 業者(ITベンダーやSE)には再構築したい!という強い気持ちがあるはずです。

 年金記録の紛失問題を,システムの問題にすり替えることは断じて許せません。NTTデータも,我々IT側を代表し,主張すべきは主張して欲しい。政府・自民党はITを“犯人”として前面に押し出すことで,国民やメディア,野党の目をそらし欺こうとする魂胆のようです。

 ITは経営システムを実現するためのツールに過ぎません。コンピュータの黎明期から40年経った今でも,「ITは神聖」なんでしょうか? ITオタクや特殊な技術を持っている人間達の閉鎖的世界なんでしょうか? こうした考え方こそが,ユーザーの無理解と技術を妄信するIT屋の奢(おご)りを生み,無数の「動かないコンピュータ」の温床になっているのです。ITの世界にいるトナチャンは,何か情けない気持です。

 そもそも“IT”という軽薄な言葉が,間違っているんです。“情報システム”と言わねばなりません。この連載で何回も繰り返していますが,「システムとは異なる要素が有機的に組み合わされまとまりをもった,部分に分解できない全体系」なのです。人間やITは,その要素なのです。

 正確に言うと,情報システムの要素の一つがITです。私は技術一辺倒のIT屋ではなく,情報システム屋です。「IT関連サービスの提供に必要とされる能力を明確化・体系化した指標」(独立行政法人情報処理推進機構のサイトより引用)とされるITSS(ITスキル標準)は,IT屋のスキル標準であり,開発の下流で使われるスキルです。上流では“デスマーチ・プロジェクト”という言葉の生みの親であるエドワード・ヨードンが言うように,政治力,交渉力,人間力が艱難(かんなん)を避けるために役立ちます。

 社保庁の宙に浮いた5000万件の問題は,情報システムの問題ではあります。しかし,ITの問題ではありません。まして,名寄せのような矮小(わいしょう)な話ではありません。

 政治家が逃げの手で使う“事務方”という言い方は,キャリアに対するノンキャリ。幹部に対するヒラ,セレブに対する大衆…,全くの差別用語です。百歩譲って事務方という言葉を使うとしても,事務方がやっている詳細が分からなくても全体を掴(つか)むことができなければ,上に立つ人間ではありません。

SE諸君,腐った政治に巻き込まれず毅然たる態度であれ!

 今回も,ITベンダー害悪説を唱えるITコンサルタント,大学の先生,政治家や評論家が,わかったようなことを言っています。私もITサービス産業をボロクソ言いますが,これは身内だからこそ,その不甲斐なさに腹を立てているわけです。勝手なようですが“部外者”である外資系コンサルタントやベンダーが適当なことを言って,政治家やジャーナリストを唆(そそのか)すのは許せない。

 選挙が終われば,マスコミも国民も野党も年金問題が頭から去ります。4000億円近い「グリーンピア」をたった48億円で売却したり,今回,社保庁はいかに杜撰(ずさん)でデタラメな組織だったかが白昼の下にさらされました。

 そんな政治の圧力を受け,SE諸君は良くやってきたと思います。NTTデータと社保庁の癒着構造がメディアで叩かれています。メディアが動くと政治が直ぐ反応します。選挙目当ての何でもアリです。しかし,どんなITベンダーが入っても,これらの問題の原因はビューロクラシーと政治にありますから,真面目なSEは泣くでしょう。e-Japanがどうだったのかを振り返れば,それは明らかです。

 NTTデータのSE諸君,毅然たる態度であれ! ただし,SEとしてやましいところがあるなら去れ! 腐った政治に真っ当なSEは巻き込まれるな。堂々とSEとして主張しよう!