「本を書いてみたい」と思ったなら、まず企画書を書いてください。自分でも読んでみたくなるような企画書ができたら、「ぜひこの出版社にお願いしたい」というところに送ってみましょう。コネがなくても「編集部企画担当者様」という宛名で郵送すれば、きっと適任者に見てもらえます。でも、どんな風に企画書を書けばよいかわからないですよね。そこで、今回は、私が2年前に書いた「標準C#入門(ソフトバンククリエイティブ刊)」の企画書を例にして、書き方のポイントを説明しましょう。少しでも参考になれば幸いです。

----- 企画書ここから -----

★★★★★ コンピュータ書籍企画書(案)★★★★★
2005年5月14日
矢沢久雄

企画書のタイトルは、いつも「コンピュータ書籍企画書(案)」としています。様々なジャンルの書籍を発刊している出版社さんに、この本がコンピュータ書籍のジャンルに属することを伝えるためです。「コンピュータ書籍の担当者さん、ぜひ見てください!」というわけです。

【書名】
JIS C#でプログラミングを学ぶ入門書(仮称)

最初の項目は「書名」です。書名は、企画が通った後に変更できるので、あまり奇抜なものとせず、わかりやすい仮称にした方がよいでしょう。

【キャッチコピー】
新たにJIS規格に制定された標準言語で、今風のプログラミング技法を一気に学ぶ!

キャッチコピーとは、本のオビに書かれる宣伝文句です。実際のキャッチコピーは、出版社の営業担当者さんが決めてくれます。企画書にキャッチコピーを書くのは、書名だけでは本の内容が見えないからです。書名とキャッチコピーを見ただけで、出版社さんに「これは面白そうだ!」と思ってもらえるぐらいのものを考えましょう。

【著者】
Microsoft MVP for Visual Developer - Visual C#
矢沢久雄

著者の名前だけでもOKですが、自分をPRできる肩書きがあるなら、それも必ず書き添えましょう。運よく私には、C#の本を書く著者としてバッチリな肩書きがありました。IT企業に勤務されているなら、それだけで十分な肩書きです。問題ないなら会社名を書き添えてください。この本を書くのに、自分が適任者であることを強調するのです。

【ページ数】
300ページ程度
付録CD-ROMなし(サンプルプログラムは、Webからダウンロード)

きっとこのぐらいになるだろう、という目安のページ数を示します。コンピュータ書籍は、それほど数が出るものではないので、最低でも2,000円ぐらいの価格を付けなければペイしません。2,000円で100ページというわけにはいきませんね。300ページぐらいが適当でしょう。価格に影響するCD-ROMを付けるかどうかも明記しておきましょう。

【趣旨】

 C#がJIS規格に制定され(JIS X 3015、プログラム言語C#)、2005年3月22日に公示された。これにより今後、教育機関での導入、情報処理技術者試験への採用などが進んで行くと思われる。マイクロソフトは、教育機関へのC#普及に向けて、盛んにPR活動を行っている。電気通信大学でC#が教科に採用されるといった、具体的な動きも出てきている。

 こうした動きにより、従来はC言語やJavaで行われてきたプログラミングの初心者教育が、C#によって行われるケースが増え、そのための教科書となる入門書の需要が高まることが大いに期待される。そこで、C#を使ってプログラミングをゼロから学べる入門書を発刊し、市場のニーズに応えるとともに、教育機関での教科書採用を目指す。

「趣旨」は短い方がいいでしょう。くどくど長いと、読んでもらえません。趣旨の内容で大事なのは、自分が書きたいという熱意を示すのではなく、この本にニーズがある理由を示すことです。

【読者ターゲット】

  • (1)プログラミングの初心者(高校生、専門学校生、大学生、企業の新人など)
  • (2)他のプログラミング言語の経験があり、短期間にC#とOOPを学びたい人
読者ターゲットを明確にしましょう。ただし、あまり狭すぎるターゲットではいけません。この本は、プログラミングの初心者と経験者の両方をターゲットにしました。教科書採用された場合、読者は初心者です。ただし、それではターゲットが狭すぎます。そこで、経験者もターゲットに加えました。

【特徴】

  • (1)はじめてプログラミングを行う読者を対象として、「プログラムをどう書き」「どう動かすのか」というレベルから解説する。
  • (2)他のプログラミング言語の経験がある読者を対象として、「C#ならではの特徴」「オブジェクト指向プログラミングのポイント」をわかりやすく解説する。
  • (3)変数、データ型、演算子、制御構造、クラスなど、C#プログラミングに必要な基礎概念を知るだけでなく、それらを使って目的の処理を実現するコツを習得できる。
  • (4)掲載するサンプルプログラムは、できるだけ短いものとし、本書を片手にコードを実際に入力しながら読み進むか、もしくは読んだだけでも理解できることを目標とする。
  • (5)JIS規格対応をうたうため、JIS用語とマイクロソフト用語の対応表を掲載する。
  • (6)教科書採用を目指すので、練習問題(プログラミング課題)を掲載する
「初心者と経験者の両方をターゲットにした本なんて書けるのかなぁ?」と心配されないように、それをどうやって実現するかを示しています。

【構成】

  • 第1章 プログラミングとは何か?
  • 第2章 データ型
  • 第3章 演算子
  • 第4章 繰り返し、条件分岐、例外処理
  • 第5章 クラスとインスタンス
  • 第6章 継承
  • 第7章 カプセル化
  • 第8章 多態性
  • 第9章 高度なプログラミングテクニック
  • 第10章 主要なクラスライブラリ
  • 第11章 C# 2.0の新機能
  • 第12章 練習問題集
本の構成を示します。これは、ちゃんとアイディアが固まっている証となるものです。初心者は、第1章からお読みください。経験者は、第5章から読み始めてもOKです。最新のC# 2.0も紹介します。練習問題もあります。というわけです。

【スケジュール】

  • 6月初 執筆開始
  • 8月末 脱稿
執筆スケジュールは、ゆとりを持ったものとしましょう。ここでは、3ヶ月にしていますが、6ヶ月ぐらいでもOKでしょう。1年では、ちょっと長すぎますが。

以上よろしくご検討ください。

最後に、企画書を締めくくる言葉を書きます。「以上」だけでは味気ないので、少し言葉を添えましょう。

----- 企画書ここまで -----

 この企画書は、無事に採用され、書名「JIS規格対応 標準C#入門」、キャッチコピー「新しくJIS規格として制定された標準言語で、正しいプログラミング技法をわかりやすく学ぶ!」、348ページ、定価2,000円(税別)で発刊されました(写真)。自分の本ができたときって、本当に嬉しいですよ。さあ、皆さんも企画書を書いてみましょう! もしもボツになっても、ガッカリしないでください。私の企画だって、しょっちゅうボツになっています。10回に1回ぐらい企画が通れば大成功だと思っています。


この企画書によって生まれた本です