過去2回にわたって,ねんきんあんしんダイヤルというコンタクト・センターの無謀さを説いてきた。前回解説したように,ねんきんあんしんダイヤルの回線数は絶対的に少なく,どうやっても殺到する電話をうまくさばくことはできない。

 そもそも電話受け付けは,最も原始的なオンデマンド・サービスだ。コンタクト・センターで話中になる,あるいは応答できないといった状態は,サービスのオンデマンド化に失敗したことを示す。公共性・公益性の高い事業者が電話応対サービスを十分に提供できないのは,社会正義に反するものである。筆者はこう声高に申し立てておく。このような思想は,昔,米国カリフォルニア州にある401Kのコンタクト・センターを訪ねた際に,センター・マネジャから聞かされた。

 だが,とりあえず着信呼が何らかの形でつながる状態――つまり話中にならないようにしたいのであれば,邪道だがやり方がある。筆者はこういう方法は好きではないのだが。

 まず,NTTコミュニケーションズなどが提供するフリーダイヤルに申し込む。ねんきんあんしんダイヤルであれば,万単位の回線数を確保する必要がある。その回線のコンタクト・センター側に,着信呼の転送機能である「ネットワークACD」を設置する。当然だが,万単位の回線を一つのコンタクト・センターに収容するわけではない。センターを複数カ所設置し,着信を各センターに分散させる。ネットワークACDは着信呼を設置した回線すべてに負荷を均等となるよう配分できるのだ。ネットワークACDで待ち呼と呼ばれる「ウェイトキュー」に投入することもできるが,今回のアイデアはすべての電話を受けることが目的なので,ウェイトキューには回さない。

 着信した発信呼は,すべてIVR(自動音声応答システム)に引き継ぐ。この時,ネットワークACDからIVRに発信者番号も引き渡す。フリーダイヤルは発信者側で番号通知を拒否していても,裏では発信者側の番号を認知しているのだ。発信者の所在地を確認するためである。

 フリーダイヤルで常に番号が通知されていることは,一般にはあまり知られていない(通信分野の関係者にはよく知られている)。非通知での発信呼を流用することに抵抗があるならば,着信時の案内で「番号を通知する設定に変更してお掛け直しください」と知らせればよい。

 IVRにそれら発信者の番号を認識させれば,電話番号を記録として残すことができる。記録として残せれば,その記録を元に電話をかけ直すことが可能になる。

 つまり,即応体制を採ることを諦め,後ほどねんきんあんしんダイヤル側からかけ直す体制にすれば,ほぼ数日で100%“つながるコンタクト・センター”に変ぼうさせられる。

 「電話がつながらない」と散々の悪評を得ていたあるパソコン・メーカーのヘルプ・デスクが,これと似た方式を採用した。ところが,悪評は改善しなかった。理由は,「いま解決したい」というユーザーのニーズを満たすことができなかったからだ。

 ユーザーはパソコン・メーカーのヘルプ・デスクに電話をかける理由は,まさに今,目の前に立ちはだかる問題を,すぐに解消したいからだ。ユーザーが電話をかけ,何分後か,何十分後か,場合によっては何時間後。ヘルプ・デスクから電話がかかってきた頃には,ユーザーは困惑と怒りが絡み合って,すっかり頭から湯気が上がっている状態である。だからユーザーはついつい,ヘルプ・デスクの担当者に荒げた物言いをしてしまう。つまり,ユーザーを「怒りの塊」にしてしまうアプローチでもあるのだ。このため,パソコン・メーカーは程なくしてこのアプローチを止めてしまった。

 ただ,とりあえずすべての着信呼はつながる。

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