先日,「日本で初めてづくし」の独創的な「エコアパート」の上棟式に招かれて,深く感銘を受けました。

 このエコアパートの建築プロジェクトは,地域緑化に取り組む足立グリーンプロジェクト代表の平田裕之さんが「賃貸で畑つきの物件をつくれないだろうか?」と発案したことから始まりました。

 施主であるご父君のご理解と,建築家 山田貴宏さんとの出会いにも恵まれて,「台所と畑がつながった空間」「畑を拠点に広がるコミュニティ」「自然の力を活用した暮らしやすい様々な仕掛け」といった斬新なコンセプトが膨らんでいきました。「持続可能な社会を実現する夢のような建物を作ろう」とするエコアパート計画は,まずブログで発信されました。

 その結果,多くの人たちの共感を得て,平成18年度のCANPANブログ大賞を受賞したのです。平成18年足立区環境基金助成対象事業に選ばれ,今秋の竣工に合わせて書籍化されることも決まりました。現在も,ブログを通じて,こだわりのエコ建材や地元の職人たちの仕事ぶりが日々発信されています。

 今夏には,この4戸で新しい生活とコミュニティづくりに挑戦する「住まい手」がブログで募集されます。おそらく特別な方々が特別な家賃を払ってまで殺到して,ここでしか味わえない特別な暮らしを満喫することになるでしょう。

グリーンプロジェクトは足元からの緑化を目指す

 発案者である平田 裕之さんが,なぜ,ここまでこだわったエコアパートを建てるのか?

 それを理解するには,平田さんのプロフィールと,平田さんの発案で始まった足立グリーンプロジェクトについて知る必要があるでしょう。

 平田さんは,大学卒業後,米国留学時に野外教育NPO(非営利組織)に参加されます。そして,帰国後,いったん就職したものの,日本の森と川を歩くために旅に出ます。2年間をかけて,巨樹の絵を描きながら,神社仏閣近くでキャンプをしながら日本を縦断するのです。

 その旅を通じて,平田さんは,日本の川・森・土のつながりが分断されようとしていることに危機を抱きます。そして,生まれ育った東京・足立区で「足元から考える環境問題」をテーマに,足立グリーンプロジェクトを立ち上げたのです。

 グリーンプロジェクトは,区画整理事業用地として確保された700坪の空き地を,地域の住民が開拓して,エコ農園・キウイ棚・ビオトープなどに変えるという地域緑化の取り組みです。台所から出たゴミをエコ農園で堆肥にし,おいしい無農薬野菜を育てる試みは,クチコミで仲間がどんどん増えています。

 別に,難しい環境問題の意見を戦わせるわけではありません。大地に根ざした農作業をして,汗をかくのが気持ちいい。ふるさとが身近に感じられる。畑で腹を抱えて笑うのが楽しい。緑の手を持つ仲間たちと作った農作物を,一緒に食べるとおいしい。そんな身近な実感から広まった運動なのです。

 みんなで畑作りをする楽しさと,農作業で人々の笑顔を広がる経験を目の当たりにしている平田さんだからこそ,エコアパートの発想が自然に浮かんだのでしょう。

父所有の古いアパート建て替えで一念発起

 きっかけは「畑がついてるエコアパートをつくろう」ブログにもある通り,お父様が所有するアパート「花園荘」の老朽化でした。築40年のアパートは老朽化して,住まい手にとって魅力的とは言えなくなっていました。

 その一方で,「花園荘」から徒歩5分のところに,つくばエクスプレス「六町駅」ができて,秋葉原までわずか16分で結ばれました。そこで不動産のミニバブルと住宅建築ラッシュが巻き起こり,平田家にはディベロッパーやハウスメーカーが日参したそうです。

 普通ならば,易(やす)きに流れて等価交換にて大きなマンションを建てるか,お手軽プレハブアパートを建てて,相続対策と収入増加を目論むことでしょう。

 しかし,平田親子は違いました。

 自らの退職金を原資にした「建て替えようか,駐車場にしようか迷ってるんだけどさあ,どう思う?」というご父君の問いかけに,息子は「そうだ,エコアパートを建てよう!」と突飛な提案で答えます。おそらく,予想外の提案にご父君は戸惑ったことでしょう。

 ブログ記事には,「安く建てて,人を住ませ,利益を得る」だけではなく「環境に配慮した良き隣人とともに地域交流を深め,地域全体の調和の中で持続可能なビジネスモデルを展開していく手法」をエコアパートで実現したい,との理想が書かれています。しかし,言い換えれば「高く建てて,人を住ませ,利益が得られないかもしれない」ということでもあるのです。

 ところが,驚くことに,施主であるご父君は,このリスクある「エコアパート計画」を受け入れるのです。

 それどころか,先日の上棟式の時に,誰よりも喜び,誰よりも働いて,職人さんや来賓の方々をおもてなししていたのが,平田さんのお父様なのでした。そのことに,私は何より深い感銘を受けたのです。

企画段階からブログ発信でCANPANブログ大賞

 1年前に,旧知の平田さんから,エコアパート計画をお聞きしたとき,即座にブログでの情報発信をお勧めしました。日本で初めての「志こそあれ無茶とも思える計画」は,ブログで発信する価値があります。そして,すぐに「畑がついてるエコアパートをつくろう」ブログが開設されたのです。

 それから1年間。発案から,企画,設計,そして建築開始から上棟式にいたるまで,「エコアパート計画」は,微に入り細に入りブログで報告されてきました。施主の平田さんはもちろんのこと,設計をしている山田先生の想いもひしひしと伝わってきます。

 ブログ開設から数カ月。読むと元気になる記事,世界を和ませるブログを表彰する「日本財団CANPANブログ大賞」にエコアパートブログが選ばれるという,追い風が吹きました。私も審査委員長として,20人もの審査委員のみなさまのご意見を拝聴しました。この見たこともないアパートに,多くの人が期待を寄せたのです。

 日本で初めて,地域で初めての企画は,通常の方法で広報や営業をしても,クチコミが広がらなかったり,賛同を得られなかったりする場合が多いはずです。エコアパートに習って,斬新で夢のある企画はブログで発信して,広く理解者と賛同者を増やすことが重要です。

 さらに,公的なブログやインターネットの賞などにも応募して,入賞を目指したいものです。仮に受賞できなくとも,ノミネートされる段階で,さらに多くのメディアや団体個人から注目を浴びることになるからです。

エコアパートブログ発信の5大効果

 最終的には,このエコアパートの成功は,「よき住まい手」が集まり,良好な住環境と畑発のコミュニティーの生成と,アパート経営とが両立するか永続するかにかかっています。

 もし,私がここに住むことを検討している住まい手だとしたら,このブログで発信されるどんな情報に興味を抱き,その結果,住みたくなるか。以下,5つの効果にまとめてみました。

効果1.どんな施主と建築家がどんな想いで建てるかがわかる

 住まい手にとっては,どんな施主=大家さんか,事前に顔を見て人柄を知りたいはずです。このブログを通じて,大家さんである平田さんが,地元の地域緑化や市民農園で力を発揮していることを知れば,大きな安心につながるでしょう。

 さらに,大家さんが,安かろう悪かろうのアパートではなく,住まい手の健康はもちろん,畑で近隣の人たちとつながる楽しい暮らしぶりまで心配りをしている理想のアパートを作ろうとしていると知れば,ぜひ住みたくなるでしょう。

 さらにこのアパートを設計監理している建築家=山田先生についても,ブログで知ることができます。山田先生が追求する“パーマカルチャー”という耳慣れない言葉が,自然と人間を深く知り共生する知恵だと知れば,単なるデザイン重視のデザイナー物件ではないこともわかるでしょう。

効果2.どんな公的機関がどんな評価や応援をしてるかがわかる

 エコアパートのブログを見れば,このプロジェクトが足立区環境基金助成対象事業であることや,日本財団CANPANブログ大賞を受賞して,社会的にも期待されていることがわかります。またグリーンプロジェクトのホームページを見れば,環境goo大賞や,コカ・コーラ環境教育賞などを受賞していることもわかるでしょう。

 こうして,エコアパートプロジェクトや施主が関わる団体が,地方自治体や公益団体,そしてCSR(企業の社会的責任)を重視している大企業からも表彰されていることを知れば,大いに安心できるのです。

効果3.どんなエコ素材とエコ装置で快適かがわかる

 このエコアパートは,単なる国産材ではなく,東京の気候にあった東京の木材で作られています。また,屋根の断熱材は,ペットボトルを再生した素材が使われていると,商品名付きでブログに紹介されていました。

 まさにトレーサビリティで,産地や生産者がわかるわけです。完成後は住まい手の目につきづらい細部まで,ブログで詳しく解説しているのは安心できます。

 また,塗料や左官材をはじめとして室内の建材についても,シックハウスの問題の無いエコ素材を使うそうです。さらに,まだ詳しくは教えていただけませんでしたが,夏涼しく冬あたたかいエコ装置も日本で初めて導入されると聞きました。今後,工程に合わせて,こうした追加情報もブログで紹介されるのが楽しみです。

効果4.どんな職人がどんな仕事をしたかがわかる

 今回,平田さんは,あえて建築家の親しい工務店よりも,地元の大森工務店を優先しました。地元の家は地元の工務店で作り,何かあれば飛んできてくれる,良い家が建てばクチコミが広がる,というのが理想だからです。

 平田さんのお話では,ブログを通じて仕事ぶりが写真入りで紹介されるので,職人のみなさんの気合が違うそうです。ブログを毎日見ることを楽しみにしている職人さんもいらっしゃると聞きました。ブログでの紹介は,つくり手にとっても,住まい手にとっても嬉しいことなのです。

 顔の見える職人衆が,誇りを持って手仕事で立てた家なら,手抜きができないどころか,深い愛情が感じられるはずです。そんな特別な家なら住んでみたいのです。

効果5.どんな住まい手がどんな暮らしをしたいかがわかる

 住まい手が建築家や建築会社と一緒に集合住宅を作る「コーポラティブハウス」が静かなブームだそうです。しかし,一方で隣人との人間関係や,コミュニティが育たないことに不満を持つ人もいるようです。

 もちろん,エコアパートには,隣人とのご縁を育む「畑と,みんなの庭やビオトープ」という工夫があります。とはいえ,限られた4件に住まう人たちが「かけがえのない隣人同士」になるためには,どんな住まい手が集うか,隣人は誰かが,何より大切でしょう。これこそ,エコアパートに住もうとしている人たちの最大の関心事かもしれません。

 エコアパートのブログでは,入居希望の人たちが書いた「ここでこんな暮らしをしたいか」というメッセージや子どもの絵などが掲載されることになるかもしれません。また,完成時のオープンハウスで感じたことを入居したい人たちが発信して,想いを競いあうことも考えられます。

 つまり,どんな人が住もうとしているか,どんな住まい手を大家さんが望んでいるかが,ブログを通じてわかるようになるでしょう。そうすれば,隣人の心配は小さくなるはずです。

高付加価値のエコアパートが高収益なら日本が変わる

 一見すると,日本初のエコアパート計画は無謀とも思えるかもしれません。

 しかし,ブログを読めば読むほど,エコ建材・装置と職人の手仕事を奢(おご)ったエコアパートは,特別な住まいに見えてきます。なにしろ,既に,エコ木造住宅を建てて住む私でさえ住みたくなったのです。

 この高付加価値エコアパートに心ある人が集まり,通常のアパートよりも高い家賃を喜んで払ってくれるようになれば,日本の住環境や街並みが変わるはずです。

 まず第一に,快適で健康的な住環境で,隣人と楽しみながら安心して暮らす人が増えるでしょう。

 それだけではありません。地元の木材が使われ,森と山が守られます。地元工務店の職人と手仕事も継承されます。エコ建材が広く使われるようになり,つくり手も住まい手も健康になります。都会でもちょっとした緑が増えて美しくなります。エアコンなどに過度に頼らずとも大丈夫です。無理せず地球にやさしい暮らしができます。

 何より,こうしたアパートを建てようという地主さんが増えます。こうしたアパートを作らなくては,というメーカーも増えます。

 そんな大団円をめざす物語の第一章として,平田さんのエコアパートに期待しています。その成功を目指す大切な手法として,これからもブログは先進的に活用されることでしょう。