写真●Webアプリケーションの「行き先案内板」
写真●Webアプリケーションの「行き先案内板」  Webブラウザから使える“ホワイトボード”アプリです。
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 私たちは燃えていました。イントラネット向けWebアプリケーション「行き先案内板」をインターネットでダウンロード販売するのです。どれくらい需要があるのか,さっぱりわかりません。しかし,多くの企業では,いまだにホワイトボードの行き先掲示板が使われている。そこにはマーカーで「外出 15:00 戻り」とか書かれている。近くにいる人しかホワイトボードは見ることができないけれど,Webアプリケーションにすれば遠隔地の人でも確認できるようになる。これは便利だ。安ければ売れる。そう信じていました。

 ソフトを作るとともに,ダウンロード販売をするためのホームページを作成しました。とにかく試してもらいたい。そうすれば便利さが伝わるはず。そう考えて,ホームページには「無償試用可能」と大きく書きました。その下には大きなダウンロードボタンを置きました。インストールガイドも操作マニュアルも,すべてHTMLで用意しました。印刷されたマニュアルはありません。なんとエコなやり方だと自己満足していました。

 あとは,このホームページに人を連れてこないといけません。人に知られなければ,一本も売れるはずがありません。インターネットの商売では,いかに人をホームページに連れてくるかが商売の鍵になると考えました。道路の脇に出店したお店なら,通りを歩く人の目に付くようにすればよいわけです。しかし,広大なインターネットに置かれたホームページは,積極的に集客の仕組みをつくらない限り,まったく人の目に付きません。逆に,うまく集客すれば,全国どこからでもお客様を集められます。そこに大きな可能性を感じました。

部門のキーマンに情報を届けるには

 さて,どうやって人を集めようか。SEOも検索広告もなかった時代です。

 私には,対象顧客のイメージがありました。国内の大企業は当時,パソコンの導入とネットワーク化を進めていました。情報システム部門がそれを先導していましたが,各ユーザー部門には,それをサポートするキーマンがいることを知っていました。情報システム部門ではなく,そちらのキーマンを最初の対象顧客にしようと考えました。

 今でも,ほとんどのビジネスソフトは,情報システム部門に営業をかけて販売しています。しかし,ユーザー部門には,自ら進んで情報収集する人がときどきいて,その人たちは,情報システム部門に頼ることなく自分でソフトを比較し,コスト対効果を考えて自分の部門にソフトを導入していました。この人たちの特性は“積極的で合理的”です。便利で安いソフトであれば,ブランドがなくても買ってくれます。ですから,無名の私たちにもチャンスがあると考えました。

 さらに,私は事業部時代の経験から,5部門あれば1部門くらいの割合で,部門キーマンが存在することを知っていました。私も事業部時代はその一人でした。50部門ある会社なら,10本は売れる。全国で考えれば,十分商売になるはず。そう考えました。

 では,その人にアプローチするには,どこに広告を出せばよいのか。当時,コンピュータ情報は,日経BP社やインプレスが出版しているコンピュータ雑誌からが得るのが一般的でした。しかし,雑誌に広告を出すほどの費用はありません。広告を作成するにも専門家の助けが必要です。

 そのころ,ちょうど「メールニュース」なるものが始まっていました。毎朝,コンピュータ業界の情報をメールで送ってくれるサービスです。メールニュースには,五行広告と呼ばれる文字だけの広告枠があり,こちらの広告費は10万円程度でした。低価格で,しかも,ホームページに誘導しやすい。私は集客にメール広告を使うことに決めました。

 知名度もない。お金もない。でも,インターネットは,私たちにチャンスを与えてくれました。