小泉首相が歴代の首相としては初めて「知財」に言及し,知財により国家競争力を高める戦略である「知財立国」をスローガンとして打ち出してから5年が経過した。

 その間,知財に関する話題は一般のメディアでも取り上げられるなど,知財はビジネスの一ジャンルとしてすっかり定着した感がある。法整備(表1)も一段落し,大企業は啓もうから実践の段階へと突入した感じである。

制度改正

施行時期

内容

知的財産基本法の制定

2003

基本理念、知財本部の設置、推進計画の策定 等

関税定率法等の改正 (1)

2003

特許権等の侵害物品の輸入挿止、育成者権侵害物品を輸入禁制品に追加

不正競争防止法等の改正 (2)

2004

営業秘密の不正取得、使用、開示した者への処罰

特許法等の改正 (3)

2004

出願手数料・特許料の減額、審査請求手数料の増額、異議申立制度と無効審判の統合

著作権法の改正 (4)

2004

送信可能化権の拡大、実演に係る人格権の創設

知的財産高等裁判所設置法    の制定

2005

知的財産高等裁判所の設置

破産法の改正

2005

倒産時等における知的財産のライセンシーの立場保護

裁判所法等の改正

2005

知財事件における裁判所調査官の権限の拡大・明確化、営業秘密の保護強化

信託業法の改正

2004

知財権を受託可能財産とし、信託業の担い手を株式会社一般に拡大

 さて,そんな大企業による知財マネージメントノウハウを集積した「知財戦略事例集」が,このたび,特許庁から発刊された。

 この事例集は特許の創造・保護・活用の三つのステージをより詳細なマネージメントステップに分けて,それぞれの項目について,100を超える企業のマネージメントノウハウを掲載したものである。言うまでもなく,特許庁職員が各企業に出掛けていき,詳細なヒアリングをした結果生まれた「労作」であり,現在の日本企業の知財マネージメントの水準を示すものである。

 「企業秘密」との名目でこれまで対外的には封印されていた知財マネージメントノウハウは,その実,知財部の業界団体である日本知的財産協会の会合では,公然と論じられていた。いわば「知財ムラ」の閉鎖的な構造の代名詞ともなっていた事柄である。

 この事例集は,各企業の知財マネージメントノウハウを白日の下に明らかにすることによって,外的な批判にさらしたという点で,知財ムラの閉鎖構造を取り払う契機となるであろう。同時に,知財関係者が広く知財マネージメントノウハウを共有することにより,その相互利用性を高め,ひいては知財立国の実現に資するものとなることを確信している。知財の業界が自らをオープンにすることは,必ずしや業界の社会的認知度を上げる事につながるはずであり,その先鞭をつけた特許庁に対して深く敬意を表したい。

 一方,中小・ベンチャー企業の知財マネージメントは出遅れている。特に,地方においては,情報・人材の面ともに大都市に劣り,「知財デバイド」が一層深刻になろうとしている。「中小企業・ベンチャー企業こそ知財戦略を重視すべきである」というセオリが定着する中で,中小・ベンチャー企業に対する知財啓もうは遅々として進んでいない。こんな現状を打破すべく刊行されたのが,上記「事例集」の姉妹版「知財で元気な企業2007」である。

 「知財で元気な企業2007」は知財を有効活用して競争力を上げた全国の中小・ベンチャー企業の実例を紹介したものである。読み物としてもおもしろく,中小・ベンチャー企業の経営に携わる方々にぜひ読んでもらいたい一冊である。これを読んで知財戦略に対してより具体的な実践を模索する経営者が参照すべきなのが,「中小・ベンチャー企業知的財産戦略マニュアル2006」である(残念ながら現時点ではダウンロードのみ。書籍・冊子として発刊されていない)

 このマニュアルは筆者自らが知財戦略理論部分を執筆したもので,中小・ベンチャー企業が知財戦略を実践するときのステップを丹念に浮き彫りにしたつもりである。ぜひご笑読いただければと考えている。