「背丈は伸び、恰幅もよくなった。だが、血液検査をすると、内臓脂肪があり悪い状態」。NTTデータの次期社長に6月末に就任する山下徹副社長は、同社の現状をこう厳しく評価する。

 NTTデータは、04年度にスタートした中期経営計画の大きな目標である売上高1兆円を06年度に達成した(参照)。次の目標はこれからの3年間で営業利益率を10%にすること。04年度から06年度までの前半3年間は量を追い求め、07年度から09年度の後半3カ年は質を最優先にする作戦を展開する。その実現に向けて、山下氏は(1)顧客満足度の向上、(2)国際競争力の向上、(3)労働集約から知識集約型への転換、の3つを挙げる。

図●NTTデータの業績推移(億円)

 浜口友一社長が掲げた顧客満足度でナンバー1企業になるという目標は引き続き取り組むものの、「顧客満足度は改善しているが、まだ当たり前の品質に満足している」と山下氏は不満。しかも、「開発期間は自分達の都合を押し付けているのではないか。本当にベストプラクティスな提案をしているのか。こうしたことに自信があるのかだ。まだまだ欠陥がある」と改善の必要性を説く。

 日本の製造業を例にあげて、山下氏は「高いサービスを安く提供する努力をしているのかだ。コスト削減に努力している製造業に対して、(当社の取り組みを)胸を張っていえるのだろうか。日本の自動車産業を参考にさせてもらう」と語る。顧客からNTTデータの提供するサービスは、「高価格」と言われていることが背景にある。

 最大の問題は個別開発志向にある。人数さえ増やせば、売り上げは増えるのがITサービス会社のこれまでの構造的な特長。「図体は大きくなったが、そのスケールを活かせていない」(山下氏)ので、顧客に満足される安価なサービスを提供できない。規模の拡大がサービスの向上、利益の向上に結びついていないということだ。「提案の魅力が増す、利益が増す仕組みができていない」(同)ことになる。

 そのために、「仕事のやり方を近代化させる」(山下氏)。人月単価の契約からシステムの価値、サービスのレベルに応じた契約形態に変えることで、それが労働集約から知識集約への構造転換につながる。まずは仕事の見える化で、そこから見えてきたのは、「職人の集まりで、1人1人が仕事を抱えこんでいる」(同)姿。しかも、「家を建てるときに、顧客に完成図を見せるが、システムはそれがうまく出てきてない。個別に作るのではなく、SaaSなどサービス形態にしていくことだ」(同)。もちろん1件1件のシステムをカスタマイズする世界は残るが、可能な限りサービス化する。ITサービスの提供構造を変える大きな一歩でもある。

 提供するサービスの価値から価格を決めることにも取り組む。「こんなことができる」といった機能と、品質や信頼性など非機能がある。「家に、鉄筋を何本使っているのか、顧客からは直接、見えないだろうが、ここを理解してもらうことがサービスにも重要。震度5と震度3に耐えられる家が同じ価格なのかだ。問題はどうメジャーするかだが、経産省のモデル契約などを土台にできるだろう」(山下氏)。

質的な転換を図る

 浜口氏は5月9日の決算説明会で、「顧客満足度ナンバー1を追求するには、受身の仕事からの変革がいる。顧客から言われたことを作り上げるのではなく、顧客が求めている変革に対応することだ。これが質への転換でもあり、システムを売る会社から変革を売る会社になること」と語った。浜口氏は6年間(04年度から09年度)のスパンで考え、前半の3年間で売り上げ拡大に重点を置き、企業向け事業などを伸ばせたので、「100点を取れた」と自己評価する。だが、これから取り組む質の面では「60点から70点のできだった」とし、山下氏が100点を取る役割になる。

 顧客からの価格や納期のプレッシャーは強まるだろうし、得意の公共分野への対策も必要になる。官公庁を中心した安定的な大規模システムは減少傾向にあるし、ダウンサイジングも進展する。そこに、新規システムが増加すれば、一時的に利益は低下することになるかもしれない。人手不足への対応策も大きな課題である。6月11日に発表した開発の自動化はその対策の1つでもある。

 こうしたNTTデータを取り巻く環境は変化している。ソフト開発の抜本的な生産性向上、グループ経営の効率化、低採算ビジネスの見直しをはじめ、NTTデータが構造転換を図れるかが、営業利益率10%以上を持続させるカギを握るだろう。