「中国のネットなんて監視と規制だらけでつまらないに決まっている」。このようなイメージを持たれている方は多いと思います。しかし実際には,強力な監視体制がある一方で,“放任”とも言える自由があります。今回から数回に渡り,中国ネット世界の両面を個人的な経験を踏まえながらお伝えしたいと思います。

 筆者は以前,某メーカーでネットワーク管理者の仕事をしていました。その時に華南地域の広東省深セン市の工場と,そこから夜行列車で11時間かかる江西省(広東省の北隣)の新工場との間に,専用線を設置する仕事がありました。2Mビット/秒のE1回線が月額5500元(日本円で約9万円)という格安の利用料金でしたので稟議もすんなりと通り,すぐに発注をかけました。まさかその後,この回線が別の意味でも「超格安」だと知ることになるとは思いもよりませんでしたが・・・。

 新工場の立ち上げのため,私も江西省の現地に乗り込んで作業を行いました。現地はお化けの出そうな旧式の国営工場跡地でしたが,ネットワークを引き込んでパソコンを導入するとシステム稼働の見込みが立ち,工場に命が吹き込まれた感じがしました。IT部門の同僚によるERPシステムの導入も順調に進んでおり,後は回線をつなぐだけとなりました。

 ところがです。回線開通当日,ルーターのインタフェースはリンク・アップするものの,プロトコル部分がアップしないというトラブルに見舞われました。この回線を引っ張らないとERPシステムが利用できず,製品の生産開始ができません。ネットワークの責任者である私は回線が開通するまで日本に帰れません。ものすごく焦りました。不慣れな中国の,さらに奥地なので,何があってもおかしくないとある程度の覚悟はしていたのですが,気持ちが暗くなったのを覚えています。

 落ち込んでもしようがないので,現地の電話会社の担当者にループテスト(回線の部分切り分けをして障害箇所を特定するテスト)をするように依頼しました。しかし,どうやら担当者はループテストという概念を知らないようです。結局,深センの電話局に連絡をしてループテストを実施し,障害地点を特定しました。そこで判明した驚きの結果はというと・・・。

深セン側担当者「北京と武漢(中国中部)の間の交換機のプロトコルが一致していませんでした」
筆者「何で江西省と広東省(両方とも中国南部)の間の回線が北京と武漢を通っているのですか!!!」

 思わず電話相手にツッコミを入れてしまいました。中国では専用線であっても北京経由となり,北京で「何か」をされているようです。残念ながら,なぜ北京経由になるのか,北京で何をされているのかは明確には分かりませんでしたが・・・。北京を経由する深セン-江西の距離を計算すると,日本から深センまでの距離よりも長くなるような気がします。そういう意味で月額5500元というのは超格安の専用線でした(監視事情2へ続く)。