少し前のことになるが,6月1日付朝日新聞朝刊(科学面)に先のNTT東西会社と全日空(ANA)のシステム・トラブルについての論評記事が載っていた。「単純ミス・修理が『大事件』に」といった雰囲気の見出しで,その記事には本位田真一・国立情報科学研究所教授のコメントが寄せられていた。そのコメントに付けられた小見出しは,「技術者の育成と検証プログラムを」というものだった。筆者もそれは必要だろうと同意した。一方で筆者はこうした一連の報道を前に,NTT東西とANAという当事者は,今回の「事件」をどうとらえているのかを知りたいと思った。

ADSLに逆戻りする顧客がいてもおかしくない

 記事によると,NTT東西のひかり電話のシステム・トラブルは,「誤った命令文を入力した結果,ハードディスクのデータの一部が壊れ,サーバーがダウンする事態に発展」してしまったという。この説明の通りだとすると,NT東西のマネジメントの稚拙さが透けて見える。

 普通,プログラムは稼働前にデバッグする。誤りがないか検証する作業抜きにこのような重要なシステムを動かすことは通常,考えられない。プログラムの品質管理活動として当然実行しているはずだ。

 だとすれば,その実行されていたはずのデバッグ作業をすり抜けて,誤った命令文が実行されてしまった,というのが今回の「事件」ということになる。

 日本人の一般的な感覚としては,電話がつながらないという体験は非常に少ない。大震災が発生した時などを除けば,電話が繋がらないという事態に遭遇することは,あまりない。ところが今回,ひかり電話のユーザーは,そんな珍しい事態に遭遇することになったわけだ。

 利用者はその時,何を感じてどう行動したのだろうか。筆者にはこのようなシステム・トラブルで電話が繋がらなくなったという経験がないので,あくまで想像するしかない。ただ,停電で電話が使えなくなったという経験はある。

 筆者は以前,神奈川県三浦市に住んでいた。ある日,停電が発生した。落雷による停電だった。復旧に12時間以上を要した。発生時間が夜の10時過ぎだったので,とても不安なまま朝を迎えなければならなかった。その時,電力会社に確認の電話を入れようとしたのだが,あいにく安価なコードレス電話機を使っていたので,停電のため使えなかったのだ(携帯電話があるではないかと言われそうだが,筆者は携帯電話嫌いである。三浦に在住時,携帯電話は使っていなかった)。

 夜が明けて,筆者が最初にしたのは,電車に乗って家電量販店に行き,電源が必要ない電話機を購入することだった。電話機を買い足したのは,停電による通信の断絶を防ぎたかったからだ。電話回線には微弱だが電圧がかかっている。だから,停電しても前世代型の電話機であれば通話は確保できる。通話さえできれば,情報が集められる。そうすれば,どう対処すべきか考えることができる。停電などということを相当長い期間経験したことがなかったので,あらためて無防備に受け入れていた電化生活の危うさを体験させられた思いだった。

 ちなみに筆者は停電時,電池で動作するラジオを持っていた。ラジオ局のニュースを聴き続けたが,三浦市での停電を伝えるニュースはなかった。筆者は結局,電話機の他に小型のUPS(無停電時電源装置)も買った。そのUPSにパソコンと電話機を繋いだ。前世代型の電話機は,停電に備えて,電話線モジュラーの側の壁にマウントして,停電時には繋ぎ換えられるように準備した。

 この経験で,筆者はIP電話であるひかり電話へ切り替えると危ういと考えるようになって断念した。IP電話では,使用する機器類にはすべて電力が必要だと分かったからだ。

 NTT東西は積極的にひかり電話への転換を勧めているが,一連のトラブルを経験したことは,転換推奨策にどれほどの影響を与えるだろうか。また,ひかり電話もしくはインターネット接続サービス「Bフレッツ」からADSLへと逆戻りする顧客はいないのだろうか。もともとNTT東西は,顧客とのリレーション醸成には不慣れで不熱心な電話会社だ。CRMを専門とする筆者としては気になる事項である。

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