あなたの職場の新入社員の方々は,元気よく仕事をしておられますか?「なかなか頼もしい」「真面目によく頑張っている」先輩や上司からみるといろいろなご意見がありそうです。「何を考えているのかわからない」「コミュニケーションが図れない」中にはそんな声も聞こえてきます。当の新人ITプロの方々は,どんなふうに思っているのでしょう。

 最近の新入社員の方々は,学生時代の専攻にかかわらず,何かしらのITに関する知識を既にもって入社される方も増えています。この業界にやってきた理由に,「スキルを身につけられるから」というのを挙げる人も多く,自分の成長に対する意欲は満々です。ところが,ベテランの方々からみると,どうもギャップを感じるということもあるようです。

意思の疎通がむずかしい

 「文章や会話によるコミュニケーションがうまくない」これはよく耳にします。同世代の仲間には通用するけれど,本来の用法・意味合いとは異なるような言葉を使用するため,本人の意図が相手に伝わらないことがあるようです。その用法が正しいと信じているためか,何故うまく伝わらないのか,本人にも分からないという様子もみられます。また,相手の話に対して,「へぇそうなんだ」などと相づちは打つものの,本音での反応は示さないということもあるようです。相手の話している内容に対する自分の意見を表明しないと,互いに言いっぱなしになるだけで,議論になりませんよね。これでは,相手の言っていることを深く理解するとか,自分の思いを伝えるということが十分にできないでしょう。これは確かに困ったことです。

 新人さんたちはどう思っているのでしょうか。ある調査()によると,新入社員の方が不安を感じる能力の第1位に「表現力」があげられています。新人さんも自分の思いや考えを表明するのは上手くないと自覚しているようです。それとは別に,「どんな人に対してストレスを感じますか」という問いに対しては,「協調性のない人」が第1位となっています。協調性がないと相手にストレスを感じさせるとか嫌われるかのように,捉えていることがうかがわれます。

協調性を気にするあまり

 少子化が進む中で学生時代を過ごしてきた人たちのなかには,1学年の人数が少なくクラス替えもあまりないため,一旦ある集団のなかで嫌われてしまうと取り返しがつかないということで,周囲との和にとても気を遣ってきた人も多くなっています。また,地域のコミュニティやクラブ活動への参加率が下がり,年齢を超えた付き合いが減少。同時に,子供の頃から携帯電話が身近にあったという背景もあり,気心の知れた仲間とだけ常に繋がっているという関係しか体験していない人も増えています。そうしたなかで,仲間内だけに通用する言葉を使う人や,ちょっとした失敗や否定されることを,まるで取り返しのつかないことのように捉えてしまう人もいます。就職して新しい世界にやってきたばかりなので,嫌われたり集団から外れたりすることを恐れる気持ちがより強く働くこともあるのでしょう。少し注意されるだけでも大きなショックを受けることもあるようです。

自分らしさへのこだわり

 「自分らしさとわがままを混同しているのではないか」そんな話も耳にします。「この仕事は自分に合わない」とか「もっと自分のキャリア形成に役立つ仕事をさせてほしい」などと言い出す新人さん。「仕事らしい仕事もまだしていないのに」と半ば呆れているベテランもいるようです。おそらく実際には,仕事の中身やキャリア云々の本質は,まだ本人には充分に理解されていないのでしょう。自分が何にやりがいを感じるかも,働きはじめた早々にはわかりにくいでしょうし。しかしそれでも,新人や若手メンバーにしてみれば,本気で心配し焦ってもいるのです。

 新人さんの多くは(当然一人ひとり異なりますが),仕事は自分のやりがいや成長のためにするものだと考えています。先の調査においても,新入社員が会社に求めるものの第1位は「やりがいのある仕事内容」(63.2%)で,2位の「給与などの待遇」(21%)を大きく引き離しています(「組織としての連帯感」や「社会への影響力」などは5%未満)。新入社員世代の人たちは,幼い頃から,家庭でも学校でも,自分らしさや個性を大切にするようにと,教育されてきています。限られたコミュニティやコミュニケーションのなかで,協調性を損なわないようにしながら,個性も出さなければならないと思い込んでいると,なかなか大変です。「忍耐や何がなんでもやるという粘りがない」といった,若者に対する意見もありますが,得意不得意さえも個性として,「無理してやらなくてもいいよ」と言われ続けてきたとすると,「上手くできないことは,自分には合わないこと。もっと他に自分に合うことがあるはず」という思考になるのもうなづけます。

本気でそう思っているのです

 そのうえ,彼らは,「忙しそうなひとに声をかけるのは悪いことだ」と本気で考えているので(協調性がないと思われたらオシマイだと信じているから?),疑問があっても然るべき人に質問せず,「いえ,大丈夫です!(ニコッ)」のように振る舞いながら,密かに「この仕事は自分に合っていない」という思いを深めていたりすることがあります。周囲への配慮は大切ですが,そこまで思い詰めるのは行き過ぎですよね。

 「言いたいことがあるなら言えばいいじゃないか」「君の成長のために仕事があるわけじゃない」「疑問を解決しないのは責任感が足りない」などなど,先輩や上司の方々のご意見もあるでしょうけれど,とにもかくにも,これが(あなたのところにやってきた新人さんだけでなく)今年の新入社員世代の現実ですから,それを前提として,共に前進することが必要です。新人も真剣なのです。

こだわりと本気を良い方向へ

 「今どきの若い者は」とは大昔から言われてきた言葉で,どんなベテランも,若い頃にはそう言われてきたわけです。コミュニケーションなどのスキルの教示もさることながら,先ずは,今の若者が育ってきた背景や価値観を理解するところからスタートしましょう。加えて,同じ世代の人の中でも一人ひとり異なる経験や価値観があることもお忘れなく。そして,今やっている仕事が今後の本人の成長に繋がるステップであることや,本人の(現時点での)キャリアイメージと今やっている仕事との関連を伝えること,また,本人にとっての‘やりがい’や‘できる感覚’を実感できるように工夫することなどが,先輩や上司に求められています。

 やりがいや成長を強く求めている若い人たちは,仕事そのものに対して前向きです。人と繋がっていたいとか,自分を認めてもらいたいという気持ちも,本来的には健全なもので,バイタリティのもとにもなります。できれば先輩のほうから彼ら彼女らに歩み寄って不安を取り去り,共感と,大切にされているということを伝えてください。安心して失敗もし,伸びていけるようになれば,彼ら彼女らは思いもかけない力を発揮してあなたをサポートする存在となり,本人だけでなく,チームとしても会社としても,より大きく成長することができるでしょう。

 それでは,今日もイキイキ☆お元気に。

4年制大学を卒業し今年4月から就職した人1万人を対象とした調査(アール株式会社)