首長ブログの可能性を探る3回連載の最終回は,私が考える「理想の地域情報ネットワーク=ブログ合衆都市」への展開です。

 これは,その地域を愛する首長,議員,行政職員はもちろんのこと,古くから住む旧市民,マンションなどで新しく住み始めた市民,オフィスで働く昼間市民,週末だけ地元で休む土日市民を,さらには地域に関わる企業,団体,学校,NPO(非営利組織)もすべて巻き込んで,情報の受発信と連携を行う「ブログ・SNS複合体」です。

 思い思いの言葉で「地域の魅力」を語り「長所や魅力」を伸ばしていく「個々の活躍」が,ゆるやかにやわらかく集積していくネットワーク。それでいながら必要とあればアメーバ,いや粘菌のごとく連携して,その時々の問題点を,各自の底力を結集して解決しては離合集散していくネットワーク。

 それは,企業経営に生かすべく提唱している「社長ブログが指揮するオーケストラ経営」の地域拡大版と言えます。いわば,役所の壁を越えて,市民や企業・団体が自律分散しながら,行政組織が在って無いように機能する「メタ行政組織」と言えます。

 誰もが半ば自発的に情報発信し,それぞれの本分で活躍する「メタ行政組織」は,おそらく,コスト最少,公益リターン最大の,超効率&効益運営となるでしょう。行政にぶらさがる人,何もしない人も自ずと少なくなるはずです。

 その理想的なネットワークに近づくために,首長と役所のリーダーが,お金と手間をかけずに,まず何から始めるべきか考えてみました。それは,首長の強い意思さえあれば,今日からでも始められることばかりです。

 なお,来る2007年6月22日 (金) 13:30-17:00,東京港区浜松町で情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)主催による情報通信月間特別企画シンポジウム「ICT利活用による地域活性化」が開催されます。私もパネリストの一員として,当コラムで提言している首長ブログ,地域振興ブログ・SNSの可能性について発表します。興味のある方は,情報通信ネットワーク産業協会の案内ページをご覧ください。

まずは首長がブログでNPO,市民を指揮する「オーケストラ経営」

 先日,ある会合で千葉県健康福祉部で活躍される古川室長と隣席になり,「わが意を得たり」と感じるお話を伺いました。

 いただいた名刺には,童話「ブレーメンの音楽隊」に登場する4匹の動物がプリントされていたのです。その意味は,ただ行政主導で自ら福祉活動を行うのではなく,NPO法人(特定非営利活動法人)はもちろん,市民もそれぞれ協働しあって「地域福祉」に取り組もうというお話でした。そこで,地域福祉に取り組む人たちのために助成をしていると聞きました。

 助成というとお金の話ばかりが思い浮かぶかもしれません。しかし,首長はじめ役所のリーダーが,今すぐお金をかけずにできる「言葉の助成=ブログでの和言愛語」から始めてはいかがでしょう。

 決して難しいことはありません。首長ブログや部長ブログで「ほめるべき活動を素直に賞賛する」ことから始めれば良いのです。

 事業主体がNPOにせよ民間企業にせよ,斬新で長期的に役立つ試みほど,最初は怪しげで理解が得られないものです。また,ネットで情報発信をしても,アクセスは限られ,信憑(しんぴょう)性も乏しいでしょう。そこで,より知名度も社会的信用もある首長が,まさにオーケストラの指揮者となって,自らの個人ブログで,「良い音を出した奏者に,人々の目と耳を傾けさせる」ようにします。

 公職にあるものは,立場上「エコひいき」できないとおっしゃるかもしれません。だからといって,「誰にも拍手を贈らず」に「事なかれ」で過ごしては,誰もやる気がでないでしょう。自ずと,地域で奏でるシンフォニーも盛り上がりません。相変わらず「何も起こらない」「何も始まらない」ときめきのない現況が続くだけです。

 考えれば,延々と「あるパートのある奏者のソロが続く」交響曲などありません。次は,このパート,その次はこの奏者と,めまぐるしく主役が代わるのです。その中で,それぞれの良さを最大限に引き出して,全体の調和を生み出すのが「指揮者」の役割です。

 例えば私が,地元の墨田区にある魅力的な場所について自発的にブログで書いたとしましょう。その翌日,突然,コメントに区長からの「おほめの言葉」や「応援メッセージ」が入っていたり,「区長ブログに私の記事が紹介」されていたらどうでしょう。

 別に,謝礼や公職などいただかなくても,「もっと書こう」と思うでしょう。ほめられて嬉しいだけでなく,さらにアクセスが増えて読者の厚みも出ることが,何よりのご褒美であり,ブログを書く原動力になるのです。それを見ていた同好の士も,私も書こう,もっと書こうと思うでしょう。

 首長のみならず,役所の部長,課長であっても,同じ重要な役割を果たすことができます。ブログの記事やコメントひとつで,地域に根ざした「元気な人」が「もっと元気」になるのですから,こんなに「楽で楽しいこと」はないはずです。

 ニコン・エシロール前社長兼CEO(最高経営責任者)で,2000社を超える企業再生で知られる名経営者 長谷川和廣さんの新著が示す通り「5%の人を動かせば仕事はうまくいく」のです。頼まれなくとも,地域のためにNPOを設立したり,ブログを始めている人は,まさにこの「5%」に属するイノベーター・リーダーでしょう。

 そんな心ある未来の地域リーダーたちが,さらに個性を輝かせられるように「ブログでエールを贈る」ことは,助成金を出したり,仕事を振ったりするより,はるかに簡便かつクリーンな助成ではないでしょうか?

首長&幹部ブログで毎日が「タウンミーティング」

 タウンミーティングと「やらせの問題」が話題になっています。タウンミーティングを開くこと自体が目的となっていたり,とりあえず開けばいいとエクスキューズにしかなっていないような気がするのは私だけでしょうか?

 首長&幹部ブログをうまく活用すれば,毎日「タウンミーティング」をしているような効果を期待できます。貴重な意見をいただくばかりか,やる気のあるリーダー候補を見つけたり,多くの人に一度に広報をすることもできるのです。

 その方法は簡単ですが,ちょっとした心得と作法があるでしょう。

 ネットでは,ただ漠然とご意見をお聞きすると,個人レベルのリクエストやクレームばかりが集まって収集が付かなくなり大変です。そこできちんと下準備をした上で,ブログを通じた「タウンミーティング」の新しい心得と作法を示すのです。

 まずは,首長や幹部ブログを通じて,3つの資料を示すことが大切です。

  1. 今回議論したいテーマ
  2. それを考える上で必要な参考資料とリンク
  3. 現在検討中各案の長所・短所の一覧

 そうすれば,「単なる思いつき」や「わがままな要望」ばかりを無責任に発言する前に,今回のテーマについて話さざるを得ません。さらに,検討材料を吟味して,どんな案も長所・短所が裏表であることを理解した上で発言することでしょう。

 さらに,こうした公開討論に慣れない人たちのために,3つのルールを徹底して不安と揉め事を解消します

  1. 所属と実名を公開して発言すること
  2. 意見が異なる人を非難したり攻撃しないこと
  3. 公開発言で不利益を被った際は,役所が断固発言者を守ること

 これは,毎回毎回繰り返し徹底する必要があるでしょう。匿名での無責任な発言や,勇気ある発言をした人を貶める行為こそが,恥ずべきものであるということを,首長が毎回宣言をしてメンバーに伝えます。そうすれば,首長への信任と安心感が高まると同時に,タウンミーティングの格式と価値も向上するでしょう。

 そして,お互いの発言が比較しやすくなるように,次の3点も問いかけのブログで明記しましょう。

  1. 回答をお願いする期限
  2. アンケート式,表形式など回答しやすい簡便な書式
  3. 回答例の見本

 最初は,発言が集めらない場合も多いので,区内のキーマンに声をかけて投稿してもらう必要があるかもしれません。月に1回ぐらいの問いかけから始まって,意見が活発化してきたら,やがて毎週1回でも開けるようになるでしょう。

 そして,志が高く,視野が広くて見識も深く,各々専門や関心の領域が異なるコアメンバーが集まってくるでしょう。その時こそ,実際に顔を合わせるタウンミーティングを定期開催すれば,ネットとリアルの相乗効果が生まれるはずです。自分の言いたい放題の意見だけ言って終わりではなく,事前に話し合い,当日に確かめあい,事後にしっかり実行をする流れができるでしょう。

 そんなコアメンバーが,それぞれブログを始めて,お互いにリンクをし始めたら「ものすごいこと」になりそうです。役所が,それぞれのメンバーが書いたホットニュースを一覧掲示したり,カレンダーや地図に書き込める「共通広報ブログ」を1つ用意するだけで,それが「地域ポータルサイト」の代わりになります。まさに,指揮者が首長,コンサートマスターが役所・区内のNPO・企業・団体リーダー,さらには心ある市民が,それぞれ自分の言葉で奏でるアーティストとして協調する「ブログオーケストラ→ブログ合衆都市」の基本ができるのです。

公益ブログCANPANで「首長ブロガー特集&大賞」

 とはいえ,ここまで踏み込んで始めようという首長は,まさに全国で5%もいるかどうかわかりません。

 そこで,私もお手伝いをしている「日本を元気にする公益ネットワーク【CANPAN】」で,まずは5%のチャレンジ精神あふれる首長ブロガーを応援するアイディアを思いつきました。

 幸いにして,CANPANブログには,今後,心ある首長を応援する右腕となるであろう,NPOなどの公益法人や,公益志向の強い個人が参加しています。また,CANPAN CSRには,一部上場企業を中心にCSR(企業の社会的責任)志向の強い民間企業が集まっています。

 首長がブログで熱く情報発信をしていることに,こうした志の高い法人,個人が注目してくれれば,大きな相乗効果が期待できます。それこそ,地域振興に欠かせない頼れる「ヨソモノ・ワカモノ・バカモノ」が集まって,自発的にネット上で知恵を交したり,広報のお手伝いをしてくれるでしょう。

 だからこそ,「CANPANブログ大賞」,「CANPAN CSR大賞」に続いて,「CANPAN首長ブログ大賞」を新設したらどうかと考えつきました。

 地方自治体の規模や属性を問わず,次の観点から「可能性を秘めた首長ブログを」,毎週トップページで紹介し,年に1回は大賞を表彰するのです。

  1. 毎日のように積極的に
  2. 地域を活性化する目的のために
  3. 市民に限らず誰もが読みたくなる情報を
  4. コメントやトラックバックにも対応しつつ
  5. 外部のブログも紹介,連携しながら
  6. 発信し,蓄積し,分類整理して
  7. 地域で最も役立つサイトの1つとなる

 こうした首長ブログに拍手をする読者が増えれば,ますますそのブログが影響力を持ち,ます。さらに,マスメディアなどに紹介されるようになれば,他の首長も,きっとやる気になるでしょう。

「影の首長ブログ」で年中無休の「公開討論会」

 「首長がブログで情報公開することが当たり前」の時代を早期実現するには,いくつかの仕組み「アメとムチ」が必要でしょう。首長がブログを始める「アメ」が「首長ブログ大賞」「選挙対策」だとしたら,「ムチ」にあたるのは「影の首長ブログ」が普及して「市民が注目する」ことでしょう。

 英国では,次期政権をねらう野党が「影の内閣」を作って,現職の閣僚と意見を戦わせています。日本でも,国政レベルでは似た試みも始まっているようです。しかし,地方行政レベルでは,「影の内閣」どころか,与野党が相乗りで一人の首長を推薦しているケースも見られるようです。そうなると,首長は長期安定政権になりやすく,短い選挙戦だけでの情報発信では,強力なタレント候補でも出てこないと政権交代は難しいでしょう。

 だとすれば,次の首長候補として立候補する予定の候補や野党は,常日頃から「影の首長ブログ」を発信してはいかがでしょうか?

 わが政治理念,政策マニュフェストなどのカテゴリーは,ライバルとなる現職首長とほぼ同じで良いでしょう。内容はともかく,ブログに書くテーマも似通っていてかまわないはずです。その方が,市民にとっては,現職首長と意見が重なる部分と意見が異なる部分とが比較しやすいからです。

 もちろん,首長ブログなどで展開されるネット上のタウンミーティングにも積極的に参加したいものです。議会の代表質問などで敵対するよりも,意見が重なる政策については,現職首長にプラスアルファの提言をした上で,その成功を応援するぐらいの度量を示したいものです。その大きな働きやバランス感覚を,地元のリーダーたちが注目しないはずがないからです。

 未来の首長を目指す人は,ブログも活用しながら,現職の首長以上に斬新かつ効果的な政策提言をする必要があります。そして,一市民として自ら「できる地域貢献はすべてやっている」ことが多くの人に伝わるようにします。それこそが,最強の選挙活動になることは間違いありません。

 CANPANでも,首長ブログ大賞と合わせて,影の首長ブログ大賞を表彰すると意義深いかもしれません。合わせて,首長や影の首長向けの共通カテゴリーや共通のポータルページを用意した,首長専用ブログサービスもあれば,きっと注目を浴びることでしょう。

首長ブロガー同士の連携で「バーチャル姉妹都市」

 5%の強力な首長ブロガーが,地元内外の市民を巻き込みながら「ブログ合衆都市」を作りつつある一方で,首長ブロガー同士の連携も自然に進むでしょう。

 お互いの強みを生かしたり,乏しい資源を補ったりする地域連携は,「姉妹都市」といった半ば儀礼的なつながりで行われていることが多いかもしれません。しかし,首長ブログの実践者なら,心あるブロガーが誰しも自然に実践している工夫に習って,あたかも「バーチャル姉妹都市」のような提携効果を上げることができるでしょう。

 気の合う首長ブロガー仲間を,それぞれのブログでほめつつ紹介することから始めるのです。そして,お気に入り首長ブログというリンク集やカテゴリーを作ることが,姉妹都市に近い連携を始める第一歩になるのです。首長ブロガーが熱く紹介しながら連携していけば,自然に幹部ブロガーや市民ブロガーも右にならうことになるでしょう。

 特に「ブログ合衆都市」に近いブロガー天国となる地域同士の連携は効果的です。観光,産業,教育などジャンルを問わず,大きな広報効果を上げ,資源の相互活用が進むきっかけになる。私は,そう確信しています。全国向け,海外向けの共同プロモーションや共同ブランディングなど,可能性は多々あります。

 おそらく,昨今の企業経営者が常にM&Aやアライアンスを考えているのと同様に,ブロガー首長は,どの地域どの首長と連携するかを考えることに,時間と労力の多くを割くことになるでしょう。

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 武豊町の籾山町長ブログに感激したことから始まった,首長ブログの大きな可能性をお伝えする3回連載はいかがだったでしょうか?

 心ある首長ブロガーが,ここに書いたことを少しずつ始めていただければ,必ずや先行者利得を得られると確信しております。5年後にこのネットコラムを読み返しながら,首長ブロガー成功例の代名詞となるような「ブログ合衆都市」を訪ねることを,今から楽しみにしております。

 いちはやくスタートを切った首長ブロガー,地域幹部ブロガーのみなさんのメールも楽しみにしております。ぜひ,当コラムでもご紹介,応援させてください!!