「SEと営業が,お互いの関係をどう考えて,いかにうまく協業するか!」---この問題は,IT業界の昔からの課題である。

営業との関係は小さな問題ではない

 だが,この問題はいまだになかなか解決しない。行政もマスコミもそしてIT企業も「ITスキルだ。プロジェクト管理だ。PMBOKだ。ネットワークだ。Web2.0だ」とは騒ぐが,「営業とSEの関係はこれで良いのか」という論議はなかなか表面に出てこない。忌憚のない意見を言わせてもらえば,筆者は「これでよいのだろうか」と思う。

 なぜなら,筆者の長年の経験から言えば,この問題は軽視できるほど小さな問題ではないからだ。すなわち,営業とSEの関係の良し悪しがビジネスの成否や顧客関係はもちろん,SEのモラルや育成,そして最近3Kと評されているSEの仕事環境にまで,少なからず影響するからである。

 きっと読者の中には,その問題認識をもって,営業との良い関係作りに頑張っておられるSEマネジャの方もおられると思う。筆者も現役時代,この問題に真正面から取り組んだ。そしていろいろな経験をした。七転八倒したこともあった。現役を退く時には「俺のSE人生は,ある意味では営業との闘いだった」とさえ思った。

 その経験を基に,これまでSEと営業との関係について,「営業とSEが一緒に仕事をすれば1+1>2でなければならない。営業は営業らしい仕事を,SEはSEらしい仕事をすることが肝要だ。決してSEは営業の言いなりになったり,遠慮したり,迎合したり,またSE勝手だったりしてはならない」と筆者の基本的な考え方を論じた。そして更に,「1+1>2を全うするための営業に対するSEの戦略的処し方」や「SEの改善すべき点」についても述べてきた。

 今回もその「営業とSEの関係」について,前回に引き続き述べてみたい。

何でも言うことを聞く,杓子定規,では営業は育たない

 営業とSEの良い関係作りのキーは,SEマネジャである。SEマネジャが良い関係を作ることに積極的だと,部下のSEもそうなる。SEマネジャが営業に迎合したり,言う通りにしたり,またつっけんどうだったり,愚痴ばっかり言っていると部下もそうなる。これは読者の方も重々ご存知だと思う。

 そんな目でIT企業のSEマネジャを見ると,いろいろなSEマネジャがいる。

 彼ら彼女らの営業に対する姿勢を大別すると3つのタイプに分かれる。

 1番目は営業と壁を作らずに,積極的に協力しあって仕事をしているSEマネジャ。2番目は営業の言う通りに仕事をするタイプで,このタイプは無茶な要求をする営業に文句も言わないで従う。3番目は営業の要求などに対して「それは営業の問題だ。SEは関係ない」などと冷たく杓子定規に対応する。以上の3タイプだ。

 言うまでもなくIT企業で望ましいのは1番目のタイプだが,現実にはどこのIT企業でも,2番目や3番目のタイプのSEマネジャが結構いる。そして彼ら彼女らは「これが当然だ」とばかりに振る舞っている。しかもそれを後輩が真似をする。

 読者の周りのSEマネジャはどうだろうか。

 筆者はそんな2番目,3番目タイプのSEマネジャには「皆さん,ちょっと視点を変えて,営業を育てるのも自分の仕事だと考えてみたらどうか」と言いたい。

 と言うときっと「何? 営業を育てるのは営業マネジャではないか。なぜSEマネジャが…」と思われる方もおられると思う。だが,仮に「SEマネジャの仕事だ」とは言い過ぎだとしても「SEマネジャは営業を育てることにも,少なからず責任があるはずだ」と筆者は言いたい。

 納得いかない人は考えてほしい。SEマネジャが営業に迎合したり,無茶な要求にペコペコ頭を下げたり,営業の嘘も見抜けなかったり,言いなりになったりして営業が育つだろうか?そんなSEマネジャはひょっとすると,わがままな,脆弱な営業作りを助長しているのではないだろうか?

 またSEマネジャが営業の相談や要求に「それは営業の問題だ。SEは関係ない」などと冷たく杓子定規につっけんどんに対応して営業が育つだろうか? つっけんどんではなく,もう少し親切に「君はそれはこうしたらどうか」など助言すべきではないのだろうか? などと自問自答してみてほしいと思う。

 SEマネジャがいい加減では,営業マネジャがいくら部下の営業をしっかり育てようと思っても,その足を引っ張りかねないのではなかろうか。

営業を指導できるだけの力を持つ

 少なくとも筆者は現役時代「営業を指導する責任が,SEマネジャの俺にはある。営業を育てるのも自分の仕事だと思おう」と考えて,日頃仕事をしていた。そして営業が「なるほど」と納得することが言えるだけの力を身に付けるために,彼らの責任を知る,仕事感や悩みを知る,思考の仕方を知る,顧客の状況を知る,販売戦略に強くなる,などを一生懸命やった。

 SEマネジャが「営業を育てるのもSEマネジャの仕事だ」と自覚すると,2番目,3番目のタイプのSEマネジャも自ずと一番目のタイプのSEマネジャになるべき努力をするはずだ。そして営業と丁々発止できるだけの力を身に付けるよう頑張るはずだ。すると営業とSEのコミュニケーションもよくなり,信頼感も増し,1+1>2の土壌ができビジネスも伸びる。

 このブログの3月9日号の読者コメントに「営業とSEはミッションが違うから対立は避けられない」という意見があった。このコメントが代表するように,SEやSEマネジャの方々は往々に「営業のことは関係ない。我々はSEのことだけ考えればいい」と考えがちだ。

 だが,対立していては何の解決にもならない。単なる自己満足だ。それよりもどうすれば営業と良い関係が作れるか,どうすればビジネスが上手くいき顧客に良いサービスができるか,SEマネジャは知恵と工夫を発揮してその方策を探るべきである。

営業とSEは一つのチームだ

 以上色々述べたが,いずれにしてもSEマネジャは「SE」「SE」と言ってSEだけの狭い世界にとらわれず,視野を広げて「営業を育てるのも自分の仕事だ。営業とSEは一つのチームじゃないか」と思って1+1>2の世界作りを目指して頑張ってほしいと思う。すると自ずとお互いのコミュニケーションも良くなりチーム力も強化できビジネスも伸びる。自分の殻に閉じこもっていては何の進展もない。それが今日の一言である。

 なお,SEにとって「顧客との関係」と「営業との関係」,この2つの関係の良し悪しが,SEがイキイキ働けるかどうかを大きく左右する。もちろんビジネスや生産性もだ。そのためにIT企業の経営陣やSEマネジャは,その良い関係作りにもっともっとエネルギーを傾注すべきでる。

 特にSEマネジャは,そのために,以前述べたが「ぶらっと顧客訪問」を行い顧客を知る,顧客に顔が効くようにする,現場を知る,日頃の営業やSEの働き具合を知る,ことが不可欠である。またプロジェクトのレビューを自らやったり,商談の際に販売戦略を営業と討議するなど,ビジネスに強いSEマネジャになることが重要だ。

 SEマネジャの方はSEのやりくりやトラブルなどで忙しいとは思うが,会社の机に座っていたり会議ばかりしていて顧客や営業との関係が強化できる訳はない。もっともっと汗をかくことが重要だ。そこに明日を担う営業とSEの成長がある。