このところ忙しくて、コラムの更新を少しサボっている間に、IT業界もいろいろあった。特にANAの大規模システム障害は大きな“事件”。以前の東証のトラブルでは、トラブル当日にITベンダーへの損害賠償を口走る人がいたりして、あまりの驚きに いろいろと書いたが、今回のANAのケースでは、さすがにそんな理不尽な話は聞かない。で、書くことはないかとも思ったが、やはり気になることがあるので少し書いておくことにしたい。

 今回のANAのケースは、障害から2週間近く経った今(6月8日時点)でも、原因がよく分からない。国内線の予約や搭乗手続き、手荷物管理などのシステムの反応が遅くなり、結果として国内線の欠航や遅延が続出、約6万9000人が影響を受けた。明らかになっているのは、いまだにそれだけだ。

 「トラブルに責任があるのでは」と疑われたITベンダーは翌日株価を大きく下げたが、ANAの場合、完全なマルチベンダー体制。原因が明らかにならないことには、責任の所在も分からない。

 そうした情報不足も手伝ってか、このところ相次いだシステム障害と十把一絡げにして、問題点を指摘する論調が目に付く。まあ言われてみると、確かにその通り。サッカーくじのシステムやNTT東西のIP電話、JR東海の新幹線ネット予約システムなど、最近システムにまつわるトラブルが立て続けに起きた。

 で、問題点の指摘。「技術者不足という構造問題があるのでは」。うーん全面的に同意はできないが、そんな側面もあるでしょう。「なぜフェールセーフなシステムを作っておかない」。それはおっしゃる通り。

 ただ、この手のトラブルで、相変わらずシステムの範囲だけで原因追及、責任追及がなされるのは、どうしてだろう。サッカーくじのシステム障害なんかは、話題の高まりで購入希望が集中した典型的なトラフィックバースト。システムの失敗というよりも、マーケティングの失敗だろう。

 ANAのケースでも、手作業で搭乗客をさばく緊急対応ができなかったのか疑問が残る。東証のトラブルの時も、「 機械は必ず壊れる、人は必ずミスをする」という話を書いたが、フェールセーフは人間系も含めて考えることだと思う。

 それと、いろんなトラブルを同列に扱うのも、どうかと思う。その意味ではサッカーくじのトラブルは“ゴミのような話”。一方、ANAのトラブルは一大事。ある意味、東証の一連のトラブルより影響大かもしれない。幼い子供を抱え、家に帰れなくて呆然と佇む母親。ニュースでこんな映像を見せられたら、世間の人は心がざわめく。そこにシステム障害が原因と聞かされれば、ITに対する不信感が生まれ、増幅してしまう。

 それともう一つ気になるのは、ITベンダーのリスク管理体制。システムトラブルを起こさないようにプロジェクト管理をしっかりやりましょう、という話ではない。東証のトラブルの時もそうだったが、ITベンダーから「調査中」以外の発言がないのはなぜか。顧客のことを慮るのは分かるが、実際に株価が下がるなど“風評被害”のリスクはすさまじい。

 顧客以外のステークホルダーのことを考えれば、自分たちの責任範囲、トラブルとの関係などの情報を何らかの形で公開していく必要があるあるだろう。顧客との事前の取り決めなど、その辺りのリスク管理も考えるべきときだと思う。