「美味しいものを懸命に作ってお客様に喜んでもらいたい!」
この気持ちがなければ,商売繁盛はありえません。コンサルタントの彼女は,お客様の視点,生活者の視点でビジネスを見ています。それにそぐわない提案・行動は言下に“No!”です。顔はニコニコ笑っていますが,お客様を観察する目は鋭い。ピンポイントの会話をします。
彼女は,お客様に「美味しいですよ」とだけ言うのではなく,「卵と牛乳とバターの香りが一杯に広がりますヨ」とか,食感の具体的なイメ-ジをお客様に与えています。また来たい,とお客様の心に刷り込んでいきます。約束した売り上げ2倍は,間違いなく軽く突破です。
最後に,「最大のポイントは?」と彼女に聞いたら,「リニューアル前の店でのことは一切忘れる!」とのご託宣。デティール戦術の積み重ねです。でも彼女の戦略には大局観があります。戦略に基づいたタクティクスや執行です。優秀なコンサルタントでも難しかったと思います。
それで,思うんですが,問題解決で一番求められているのは,専門知識や業務知識やITの知識ではなく,本質的問題の発見です。それができたら7割は解決できると言われています。問題を発見するには,本質を見切る洞察力が必要です。経営システムやメソッドを勉強するのとは違うスキルです。経営や人間に関する深い洞察力と徹底的にゼロからトコトン考えられる「脳みその力」とも言えます。
昔は「IT革命」「IT戦略」と,恥ずかしげもなく簡単に言いました。今も「戦略IT」や「ITの戦略的利活用」と生意気に分かったように言っています。昔,SIS(戦略的情報システム)ってありましたが,計算機の中で蓄積されている情報をひねくり回しても経営戦略に繋がる有意義な情報はなかった,ということでブームは結局下火になりました。重要な情報は外にあったのです。
ITによる省力化や効率化により,生産性は間違いなく向上します。しかし,これらをIT戦略とは呼びません。ITが無ければ,仕事に携わる人数が増え,仕事は不正確かつ遅くなります。企業競争に負けないためのIT投資です。IT自体に過分な期待をしたり,派手なスローガンを唱えるのは,サプライヤ側からの煽動的プロパガンダです。言っている方も良く理解しないまま,勢いで言います。
IT屋はITというツールの使い手です。もちろん,戦略コンサルにも,豊富なメソッドやツールの器用な使い手のような,本末転倒コンサルが少なくありません。しかし,対象を素直に見て本質的問題を発見・洞察することができなければ,これら道具(IT,戦略メソッド)は全て無価値です。「ITという素晴らしいツールを戦略的に利活用して,森羅万象の問題を解決しまっせ!」と軽口を叩くことと,「売上を倍にするため,パン屋を食パン屋にする」とは全く事象の違うこと。そう言われれば,私も謙虚に納得しますね。
ブランド価値を毀損する安いサンドイッチ
POS(販売時点情報管理)のタンピン情報管理でも,品切れの売り逃し(機会損失)データは蓄積されていません。お客の好みや売れる商品のヒントがあるわけではありません。閉じられた販売情報での統計分析の隘路(あいろ)を承知されているのは,タンピン管理のカリスマ,セブンイレブンの鈴木敏文さんです。重要なのは仮説検証での人間知恵力なんです。鈴木敏文さんが優れているのは,原理原則の本質を見て考えられるところです。セブンイレブンでは最初のタンピン管理は,コンピュータを使ったPOSシステムではなく,手書きの正ちゃんマークで売上実績となる商品の個数を数えていました。
コンサルタントの彼女は,その意味で鈴木敏文さんと同じく天才かも知れません。SWOT(強さ,弱さ,機会,脅威)の分析から事業ドメインを確立します。どんな顧客に何を売るのか,企業のケーパビリティやコアコンピタンスはどうか。経営はアートかテクノロジーか?下方半分はテクノロジーです。「勝ちに不思議な勝ちあれど負けに不思議な負けなし」です。正しい戦略に基づいた執行はゴーイング・コンサーン(継続を前提とする存在)の肝です。
最近になってパン屋のオヤジさんにも余裕ができ,新商品のサンドイッチを出しました。飛ぶように売れています。オヤジさんは嬉しくなって彼女に自慢しました。彼女は値段を聞き,驚いて,サンドイッチの販売を止めるように言いました。
サンドイッチの何が問題だったと思います?値段設定です。オヤジさんは安く美味しいものを食べて欲しいのです。でも,その安さは今まで培(つちか)ってきたブランド戦略を水の泡にします。オヤジさんはブランド戦略を中々理解できなかったのです。正しい戦略が理解できていない,もしくは現場感覚が研ぎ澄まされていないからです。ですから繁盛店は少ないのです。