『これも,日本語:みんなで国語辞典!』という本が,『問題な日本語』に続いてヒットしていますね。日本語に対する関心の高まりが感じられます。

 読み物としても楽しく,苦笑したり,大笑いしたり。現代っ子,ネット世代の鋭敏なことば感覚,創造性には感心させられる部分がたくさんあります。いくら専門用語でも隠語は隠語であることを意識してTPOを考慮しながら使いたいものです。

 短縮(圧縮)する,「名詞+る」で動詞化する,「名詞+い」で形容詞化する,といった造語が目立つ若者言葉ですが,略語はIT用語でも昔からよく使われてきました。いわゆるTLA (Three Letter Acronym);三文字略語)と言われるものです。

・You use too many TLAs.(三文字略語を使いすぎるよ)

 こんな本末転倒な表現も,冗談交じりによく使われます。

電子メールに対して,従来の郵便は“カタツムリ”

 さて今回は,隠語やIT業界用語としてよく聞かれる言葉の英語表現をいくつか考えてみました。大括弧 []の中は「みんなで国語辞典!」に掲載されている定義です。

・陸電 [家の電話]
 固定網という意味の英語にはfixed line, terrestrial lineという表現があります。後者はまさに「陸電」そのもの。海底ケーブルはsubmarine cable。サブマリンは潜水艦(水の下)の意です。地下埋設ケーブルならunderground cable,架空ケーブルはaerial cable。専門家はアンテナを空中線と呼ぶそうです。

・ケータイ
 携帯電話もカタカナ表記になるとケータイ「文化」のニュアンスが感じられますね。移動体通信はwireless communication。固定網のwired communicationと対になっています。

 厳密にいうと現在の携帯電話はセルラー方式を採用しているのでcellular phone。でも通常はmobile phoneと言う方が多いです。一方,PCやPDAを接続するワイヤレス通信(無線LAN)はWi-Fiと言って区別されます。

・亀レス [メールの返信が遅いこと]
 亀レスに対応する英語表現は聞いたことがありませんが,電子メールに対して従来の郵便のことをSnail Mail(カタツムリメール)と呼んでいます。“I will send it by snail mail.(郵便で送るわね)”という使い方をします。

・アマゾる [Amzon.comで買い物すること]
 アマゾンが登場した頃,“Amazoned”と受身形で使う用法が流行ったことがありました。通信販売が急増し,店舗(brick & mortar)販売が激減したという小売形態の変化を意味しています。日本語の「アマゾる」とはちょっと意味が違うことは意識しておく必要がありますね。Brick & mortarはレンガ(brick)をモルタル(mortar)で接着した3匹の子豚の一番下の弟が立てた家のイメージ。

・ググる [グーグルで検索すること]
 既にto googleとして動詞化されています。意味は日本語と同じ。

・キリ番 [ホームページの来訪者カウントできりのいい番号]
 アメリカでは,ホームページの来訪者カウントというよりはキリのいい電話番号をVanity Numberと呼びます。電話機がプッシュホンではなくロータリー方式だった頃は,1111番などダイヤルが戻ってくる時間が短いキリ番は大手百貨店の大代表によく使われていました。西海岸ではSBC(現AT&T)という電話会社に申し込みする際に,キリ番を含む特定の番号が空いているかどうかは(有料ですが)調べてもらえます。通常は3つまで電話番号が提示されその中から1つ選びます(無料サービス)

・ホームページ
 英語ではWeb site(ウェブサイト)といいます。ホームページはメインページと同義で,ウェブサイトの筆頭のページを指します。日本語ではよく略してHPと書きますが,英語でHPと書くと,通常はHewlett-Packard社を指します。

・ワンコ [One Callの略。電話の呼び出し音を1回または数回鳴らして,接続せずに切る事]
 あらかじめ電話をかける側と受ける側で取り決めたルールや合図として使う。和製英語(Janglish)ですね。英語風にするならOne ring。Callは呼び出し音ではなくて通話の意味です。ただし発信側で聞こえる呼び出し音(Ring back tone)と着信側で鳴る呼び出し音(Ringing tone)とは同期されていないので,呼び出し音が鳴らないうちに相手が出たということもあり得ますが。

・ワン切り
 携帯電話が急速に普及した頃,日本で流行した迷惑行為の一つ。誰からだろうと不思議に思った着信側が電話をかけなおす(call back)する行為でしたが,アメリカでは「ワン切り」に相当する行為はあまりなく,私が知る限り,ワン切りに相当する表現は造語されておらず,解説付で通訳していました。

・火消し部隊 [起きた問題の後始末をする人]
 英語ではfirefighter。日本語は部隊ですが,英語では火消し人。個人とグループという文化の違いが感じられます。Firefighterに本来担当ではない人が火急の対処をする場合に駆り出される,自主的に発動するというニュアンスを含む場合もあります。

 「火消し部隊が出動する」の英訳は消火する(to put out the fire)を意味するto go out to put out the fireでしょう。IT企業のクリスマスパーティーで,その年のFirefighter賞が,ボーナスとは別に提供されることもあります。

・バリ3 [携帯電話の信号強度が高く,アンテナがバリバリ3本立っている状態]
 よく見ると携帯電話のメーカーによって,アンテナの数が異なるのですが,アメリカの携帯は4本が多い。アンテナは英語ではbar。3 bars, 4 barsといいます。圏外は,No signal。アメリカの面的カバー率は日本よりも低いですよ。私のホームオフィスも丘の斜面に入るため圏外です。

 普段は,無意識に使っている表現が,実は造語や短縮語だったとあらためて気づかされた思いです。次回は,英語圏における造語,新語を拾ってみたいと思います。