インターネットやIT技術の発達により,メールや大容量のデータを瞬時に数千キロ離れた海外の取引先に送ることが可能となりました。また,映像や音声で海外の責任者と直接話しができるようになりました。

 しかし技術の発達に比べ,海外担当者とのコミュニケーションはあまりうまくできていないように思います。今回はこのコミュニケーションの問題について触れてみたいと思います。

 オフショア開発では,メールを送っても返事が来ず,回答を催促するメールを幾度も送信したりするケースがよくありました。そしてメールで意思疎通がうまくできないまま放っておいたため,大問題に発展したケースを幾度も経験しました。今回は,コミュニケーション方法を工夫することで難局を乗り切った話をします。

顧客から不具合や仕様変更への対応を要求される

 ある年の12月中旬のこと,「不具合および仕様変更など合計21項目のソフトウェア変更を翌年3月初旬までに完了して欲しい」という要求が顧客から入りました。

 その時点では不具合内容や仕様変更の情報はバラバラになっていました。情報をそのままベトナムのオフショア開発の現場に送ると,オフショア側の検討や対応が日本側の要望と食い違ってくることが経験上わかっていましたので,すべての情報を整理し,一式の資料にまとめて海外側に送付しました。

 その中で,海外側で事前に確認対応すべき項目,1月半ばからの日本でのオンサイト作業で確認すべき項目なども整理して渡しました。これでうまく対応できるはずだと安心し,資料1式をサーバーにアップロードして海外側からの連絡を待ちました。

 しかし,通常なら翌日には何らかのレスポンスが入るはずが,なぜか何の連絡もありません。おかしいので電話してみました。すると,サーバー不具合で送付資料が届いていないことが判明しました。そこで再度アップロードし,すべての情報が間違いなく先方に届いていることを確認しました。海外側でプロジェクトの状況はわかっているはずなので,満足できる回答が届くことを期待していました。

 ところが,海外から届いた回答は期待から大きく外れている内容でした。例えば,アクション欄に,「We will check more…(もう少し調べてみます…)」などの曖昧な記述が列挙されていました。

 「これはまずい!日本側の緊急度が伝わっていない。重要度や問題大小の分類もできていない。アクションプランも明確でない。このまま放っておけば大きな問題になる」と直感し,双方向のコミュニケーションによって,日本側の要求と海外側の認識及び対応のスタンスを刷り合わせることが急務と判断しました。

台湾沖地震で海底インターネットケーブルが損傷,通信状況が悪化

 そこで早速,海外側とインターネットによる音声交信を行うことにしました。しかし,音声がぶつぶつ途切れてうまく会話することができません。また,添付ファイルをつけたメールが相手側にいつものようにスムーズに届かなくなってしまいました。

 日本国内ではそのような通信不具合は発生していないため,先方に確認したところ,台湾沖地震で海底インターネットケーブルが損傷し,復旧に1カ月はかかるとの情報が入ってきました。どうも先の連絡の直後に地震が発生し,その影響でインターネット通信状況が悪化したようでした。

 出張すれば最低2~3日の期間と費用が必要となりますので,通常の電話でのコミュニケーションを考えました。すると,海外側から「チャットでやりとりしたい」との連絡が入ってきました。

 チャットはタイピングの手間がかかりますが,相手側の海外責任者が音声交信よりチャットを好むため,やむを得ずチャット中心で対応することにしました。一般的に海外でも国内でも技術者の多くはシャイであり,直接的,即時的な電話コミュニケーションより,少し考える時間のあるチャットを好む傾向があります。