鮫島正洋です。今回はゲストとして,我が事務所気鋭の若手弁護士である松島淳也くんに登場してもらいました。インターネットで起きている新しい動きにかかわる法的問題を論じてくれました。


 近年,RMT ビジネスに関するWebサイトを多数見かけるようになった。

 RMTとはReal Money Tradeの略で,オンラインゲームで獲得したアイテムや通貨を本物の現金に換金するビジネスのことである。

 このようなRMTビジネスを運営しているのは,ゲームメーカーとは独立した法人である場合が多い。しかも,ゲームメーカーが提供するオンラインゲームの公式サイトの利用規約を見てみると,RMTビジネスの利用を禁止する条項が含まれている場合がある。

 このような現象は,なぜ起こるのだろうか。ゲームメーカーにとっては、RMTビジネスを手がければ,ゲームとRMTの両方で利益を得ることができるように思われる。

 なぜゲームビジネスの主体とRMTビジネスの主体とが分離しているのか。この現象について法的な視点から検討してみる。

RMTビジネスと賭博罪の関係

 RMTビジネスをめぐる課題については,すでに詐欺罪などの成否を巡る議論が行われている。しかし,ここでは,ゲームメーカーが,RMTビジネスの主体とならず,利用規約でRMTを禁止する条項を設けていることとの関係を検討するため,賭博罪(刑法185条)の幇助(同法62条)や賭博開帳罪(同法186条2項)との関係を取り上げる。

 一見すると,RMTビジネスと賭博とは無縁のように見えるかも知れない。そこで刑法の賭博罪でいうところの「賭博」とはどういうことを指すのかを検討した上で,オンラインゲームとの関係を明らかにしてみよう。

 まず,刑法における「賭博」とは「偶然の事情によって財物・財産上の利益の得喪を2人以上が争う行為」とされている。そこでオンラインゲームにおいても「偶然の事情によって財物・財産上の利益の得喪を争う」に該当するような要素があるのかどうかを考える。大きく分けて「偶然の事情」という要素と「財物・財産上の利益の得喪を争う」という2つの要素があるので,順番に検討してみる。

「偶然の事情」とは

 ロールプレイングゲームを想定してみよう。

 ゲームプレーヤーは,ゲームが進行するにつれて,ゲームに登場する敵のキャラクターを倒し,通貨やアイテムを取得する場合がある。このような場合,敵のキャラクターを倒すことができるか否かは,敵のキャラクターがどのような攻撃を仕掛けてくるのかによって,結論が変わり得る。

 敵キャラクターの攻撃が乱数等によって決定されているとすれば,ゲームプレーヤーが敵キャラクターを倒せるか否かは「偶然の事情」にも左右されることになる(もっとも、花札などの典型的なギャンブルよりも偶然性は小さいであろう)。

 従って,賭博の定義のうち「偶然の事情」という点については,オンラインゲームでも満たすと考える余地があるのである。

「財物・財産上の利益の得喪を争う」について

 次に「財物・財産上の利益の得喪を争う」という要素が満たされるかどうか検討してみる。RMTビジネスが存在しないと仮定して,単純にオンラインゲームで遊び,通貨やアイテムを得たというだけでは,ゲームプレーヤーが財物を得たと評価することは難しいであろう。しかし,RMTビジネスの登場によって,ゲームプレーヤーがゲーム中に獲得した通貨やアイテムが現実の金銭に換金できるということになると,これらを財物・財産上の利益であると評価しやすくなる。

 仮に敵のキャラクターを倒すことができれば,通貨を獲得し,ゲームプレーヤーが負けてしまった場合には手持ちの通貨が減少する。というような設定になっていたとしたら,「財物・財産上の利益の得喪を争う」という要素を満たしていると評価する余地がある。

 従って,オンラインゲームもRMTビジネスと結びつくことによって,ゲームプレーヤーは,財物・財産上の利益の得喪を争っていると評価されかねないのである。

RMTビジネスと賭博罪が無関係とは言い切れない

 このような検討をすると,必ずしも,オンラインゲームやRMTビジネスと賭博罪がまったく無関係であるとも言い切れないと考えられる。

 即ち,オンラインゲームとRMT ビジネスが結びつくことによって,これらのビジネスを運営する企業はゲームプレーヤーに賭博行為をさせ,企業は,賭博行為を容易ならしめる役割を演じていると評価する余地がでてきてしまうのである。

 そこで,このような評価を排除するための配慮として,オンラインゲームを提供するメーカーは,利用規約等でRMTビジネスの利用禁止条項を設けるなどして,リスクヘッジしているものと考えられる。

 もっとも刑法の賭博罪や賭博開張罪は,もともとオンラインゲームなどの仮想空間における事象を想定したものではない。オンラインゲームやRMTビジネスにおいて,刑法の賭博罪や賭博開帳罪を適用できるか否かについては罪刑法定主義との関係でも問題がある。仮想空間での事象を規制する必要があるのであれば,今後の立法整備によるべきであろう。

◎関連資料
刑法185条 賭博罪
刑法62条 幇助
刑法186条2項 賭博開帳罪


松島 淳也(まつしま じゅんや)氏
内田・鮫島法律事務所 弁護士
静岡県浜松市出身。1995年3月,早稲田大学理工学部電子通信学科卒業。1997年3月,早稲田大学大学院理工学研究科修了,コンピュータグラフィックスを利用した医学用画像処理の研究に従事。1997年4月,富士通株式会社入社。マイクロプロセッサの開発,電子商取引システムの開発等に従事。2006年10月,弁護士登録,内田・鮫島法律事務所に入所。