写真1 街角はあっという間に市場に早変わり
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写真2 街角で売られていた動物の角。おそらくチベット・アンテロープ
写真2 街角で売られていた動物の角。おそらくチベット・アンテロープ
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写真3 オリンピック・キャラクター「迎迎(インイン)」は左から2番目のオレンジ色
写真3 オリンピック・キャラクター「迎迎(インイン)」は左から2番目のオレンジ色
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 北京オリンピックが近付くにつれ,海賊版ソフトの販売はさすがにこっそりと行われるようになりました。海賊版ソフトは店頭には出さず,買い手が店員に話をすると足元から取り出す仕組みになっています。ところが,海賊版映像ソフトに関しては,現時点でもかなりおおっぴらに販売されています。

 北京の街を歩けば,あちらこちらで物売りの人力車を見かけます(写真1)。彼らの荷台に満載されているのは果物や本,生活雑貨,そして海賊版DVDです。海賊版DVDは1枚10元(150円)程度と安く,タイトルもほぼ最新の映画がそろっています。先日,この現状をみかねたアメリカ政府は,中国をWTO(世界貿易機関)に提訴すると発表しました。

 中国政府は海賊版工場や倉庫を頻繁に摘発していることをアピールし,国内各種メディアはその様子を報じています。しかし同時に,中国だけがことさら問題にされることには不満を持っているようです。国家版権局の王自強スポークスマンは「(著作権侵害による)一人当たりの損失額ではカナダの方が中国よりも大きい」と主張しています(参考記事「版権局:盗版是全球現象 中国盗版很多来自美国」(海賊版はグローバルな現象,中国の海賊版の多くは米国から来ている)。また,国家知識産権局の田力普局長は「海賊版映像製品の多くはアメリカから来たものである。国をまたいだ著作権侵害を取り締まるには双方の協力が必要で,一方的な非難は問題解決につながらない」と発言しています。

 ところで最近,筆者は「えっ!」と叫び声を上げたくなるようなものが路上で売られているところを見ました。しかも,北京の筆者の部屋のすぐ側でです。それは大小二つの立派なツノでした(写真2)。おそらく絶滅危惧種の動物のツノであると直感しました。

 実は筆者の最初の就職先は環境保護団体でした。ただ,私の専門分野は植物だったため,そのツノが何の動物のものか,すぐには分かりませんでした。そこで動物分野担当の先輩に写真を送ったところ,「おそらくチベット・アンテロープ(チベットカモシカ,またはチルーとも呼ばれる)だろう」との見解をもらいました。

 乱獲・密漁により絶滅の危機に瀕したチベット・アンテロープは,パンダと同じく国家1級保護動物として中国国内で最重要保護対象に指定されています。国際的にもワシントン条約において国際商業取引が原則禁止されています。さらに言えば,北京オリンピックのマスコット・キャラクターの一人「迎迎(インイン)」も,このチベット・アンテロープです(写真3)。

 後日,話を聞いてみるためにツノを売る露店に向かいました。売っているのは2人の幼い子供を連れたチベット族の夫婦。彼らの顔を見ると一見50代に見えます。しかし子供の年齢から考えると,30過ぎのはずです。話をするためにちょっと高い値段でしたがチベットの腕輪を数個買い求め,彼らの子供と遊んで打ち解けてから話を聞いてみました。彼らの北京語は聞き取りづらいのですが,なんとか半分程度は理解できました。

筆者「どこから来ましたか?」
夫婦「西蔵(チベット)。鉄道(先日開通した北京-ラサ間の青蔵鉄道)で来た」
筆者「このツノ,いくら?」
夫婦「650元(日本円で約1万円)。これは蔵薬(チベット薬)だ。ひざなどの関節を治すときに削って煎じて飲むんだ」
筆者「小さい方のツノは何の動物?」
夫婦「この動物の子供だ。100元(日本円で約1500円)」

 これが本当にチベット・アンテロープのツノだとすると買った瞬間に違法となるので,「持ち合わせがないので,今日は買えない」と言って立ち去ろうとしました。すると「小さいほう,100元より安くするから,買ってくれ。いくらなら買うんだ?」と手をつかまれました。おそらく私と同年代である彼のざらざらの手の感触に,法律や環境意識を超えたものを感じました。そもそも天の恵みとして天然資源を利用するのは彼らにとっては本来自然なことだったのです。この動物が国際的にどれほど重視されているのか,ツノを売っている彼らはそれを知らないのだと思いました。

 中国の著作権問題や環境問題の多くは,国内の経済格差と教育問題を解決しない限り,どのような対策を講じても焼け石に水だと感じました。根本的な問題解決に向けた中国政府の努力に期待を寄せたいと思います。