図1
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図2
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図3
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 筆者はここ最近このコラムで,CRM(Customer Relationship Management)アプリのマーケティング・コミュニケーションについて論評を続けてきた。読者の方々からは「具体的にはどうすべきか」とか「成功している事例はないのか」という意見を頂戴した。

 そこでこれからしばらくの間はITベンダーへの取材を交えつつ,CRMとマーケティング・コミュニケーションの実際について解説を続けたい。

日本に欠けている「三種の神器」

 日本国内のITベンダーは,CRM製品のマーケティング・コミュニケーション「三種の神器」を揃えていない。三種の神器とは次のようなものだ。

■書籍などの刊行物(含むホワイトペーパー)
■展示会出展(含むユーザー企業向けのコンベンション)
■Web上のバーチャル・セミナー

 これらを上手く組み合わせて顧客に訴求すれば,CRMアプリは売れる。売れることでCRM市場の裾野は広がり,結果としてCRMは発展する。顧客,ベンダーの双方がハッピーになる。それでは,CRMの三種の神器それぞれについて解説していこう。

三種の神器その1「書籍」

 CRMソフト・ベンダーの米Sibel Systems社(米Oracleに買収された)を創業したトーマス・シーベル氏は書籍を数冊執筆している。日本で翻訳されているものは2冊ある。「バーチャル・セリング―営業の情報武装革命(原題:Virtual Selling,東洋経済新報社)」と,「E‐ビジネス戦略(原題:Cyber Rules)」である。

 一方,営業支援ソフトを開発・販売しているソフトブレーン社の宋文洲氏は,14冊の書籍を刊行している。特に有名なのは「やっぱり変だよ日本の営業―競争力回復への提案」だろう。宋氏は今年3月に発行された「[ソフトブレーン式] 最強の営業組織構築の手順書」を監修している。

 こうして見ると分かるように,CRMアプリのブランド認知度を向上させるためには,書籍は欠かせない。成功しているCRMアプリは,書籍をうまく活用している。ブランドの認知だけでなく,製品のコンセプトを丹念に説明するうえでも,まとまった情報量をパッケージとして届けられる書籍は最適なメディアと言える。

 米国をみると,書籍を使ったマーケティング・コミュニケーションは当たり前のように行われている。例えば,米Microsoftは同社の業務パッケージ・ソフト「Microsoft Dynamics」について,かなり多くの書籍を刊行している。特にCRMアプリについて述べた書籍は,次の4冊である。

■「Working with Microsoft Dynamics CRM 3.0 」
■「Microsoft CRM 3 For Dummies」
■「Special Edition Using Microsoft CRM」
■「CRM-Defying the Limits」

 最後のDefying the Limitsという書籍のタイトルは,「CRMの限界診断書」というニュアンスらしい。

 これらの他にも,「Workflow in the 2007 Microsoft Office System」と題する書籍があり,Dynamics CRMについて触れている。

 書籍が刊行されているのは,SibelやDynamics CRMだけではない。Salesforce.comなどの各社製品についても様々な書籍が刊行されている。

 SAPのCRMアプリ,「MySAP CRM」についてAmazon.comで検索すると68冊見つかる(図1)。68冊すべてがCRMについて解説や論評を試みているわけではないだろうが,目次を確認すると、少なくとも11冊はCRMを中心の話題に据えているようだ。

 筆者が認識している主要なCRMアプリおよびそのベンダー社名を次に列挙しよう。

■Siebel
■MySAP CRM
■Oracle Sibel on Demand
■Oracle Sibel Professional Edition
■SAP's CRM suite
■Microsoft Dynamics CRM
■Salesforce.com
■RightNow Technologies
■NetSuite
■Entellium
■Maximizer
■SugarCRM
■Sage Sales Logix
■FrontRange Goldmine

 筆者はこれらの書籍とホワイトペーパーなどの総量を調べ,それらとCRMアプリのブランド認知度について考察してみるつもりだ(注:他にもあるとの指摘はご遠慮なく下のボタンからコメントをお寄せください)

ホワイトペーパーを組み合わせる

 書籍だけではない。米国のITベンダーは,ホワイトペーパーをマーケティング・コミュニケーションに多用している。

 その口火を切ったのは,筆者の認識ではSibel Systems社だった。同社は調査会社に依頼して,CRM市場の動向や,市場に出ている製品のレポートを頻繁に作成させた。それを,自社製品の特徴を説明するため,あるいは競合製品より優位であるという説得のために,顧客に向けて大量に配布した。

 ホワイトペーパーには,書籍では説明しきれない細々とした話題や,より細かい市場ごとの話題を掲載した。筆者が解釈するに,ホワイトペーパーは書籍の補足説明という位置づけである。

 ホワイトペーパーの配布は今ではインターネットにおける広告宣伝の中心的な活動項目になっている。自社Webサイトのほか,IT系の出版社が運営するWebサイトに掲載している。一方,日本のITベンダーはせいぜい報道発表資料を自社Webサイトに公開する程度である。

 米国のIT製品クチコミ・サイト「ITtoolbox」にある「CRM White Paper」ページを見ると,今年4月1日以降にアップされたホワイトペーパーは20件ある(図2)。

 これらをダウンロードしようとすると,住所,氏名,電子メール,等のプロフィール情報の入力が必要となる(図3)。これらの情報は,いわば見込み客のデータである。ホワイトペーパーを掲載(出稿)したITベンダー側にとっては特に重要なものだ。

 筆者は,内容がしっかりしたホワイトペーパーを作成し配布すれば,かなり有望な見込み顧客を獲得できると考えている。しかし現状,日本のWebサイトを見る限り,ホワイトペーパーも、それをきちんと読者に分かる形で配布しているメディア(媒体)も,ほとんど見かけない。

 先日筆者は,米RightNow Technologies社による「Zero Contact Resolution」というタイトルのホワイトペーパーをダウンロードした。この文章の総量は10ページで,「First Contact Resolution(一回のコンタクトで顧客の要望・要求を満たすこと)」をコンタクト・センターのマネジメント指標として採用する際の留意点,それからFirst Contact Resolutionに対するRightNowの取り組みを説明している(同社は5月にこのテーマでWebcastを使ったオンライン・ビデオ・カンファレンスを開催するそうだ)。

 よりよい内容の説得力のあるホワイトペーパーを用意するためには,いくつか条件がある。

 一つは,顧客視点(ユーザー視点)である。顧客の問題意識,課題意識を共有して,顧客とともに解決するという姿勢が欠かせない。「言うは易く行うは難し」という場合がよくある。

 二番目は,論理的であるということだ。米国でこうだから日本でもこうすべき,という非論理的な解説や説得は,賢い顧客には通じない。

 三番目は,文章を「読ませる」ための技術だ。読み手(見込み顧客)が理解しやすい言葉遣いや表現を心がけたい。「ベンダー用語」の羅列ばかりのホワイトペーパーは読まれない。日本語に翻訳された海外のホワイトペーパーで特に,このようなものを見かける。

 次回は,展示会出展とWebセミナーについて解説を試みる。