BtoB(対企業顧客)分野のCRMを考える上で,究極の課題――つまり実現すべき理想の状態は二つあると筆者は考えている。一つは,「顧客の組織化」。もう一つは,「顧客間インタラクションの実現」だ。顧客との間で相互に援助し合うコミュニティを形成し,そのコミュニティの活動を拡大すること,と表現するのが適切だろう。

 顧客同士が相互に助け合ってくれるのだから,企業としては嬉しい限りである。だから,このようなコミュニティを形成しようという企業は数多い。ただし,はっきり言うと失敗している企業ばかりだ。コミュニティの形成は口で言うのは簡単だが,かなりの難題である。時間と費用をかければ実現が保証できるという代物ではない。なぜなら,そこには「顧客の参加」というとてつもなく高いハードルが横たわっているからだ。

 この難題を解決した企業が,米国に存在する。

顧客の組織化,その日米比較

 米Avayaという通信機器と関連ソフトを製造するITベンダーがある。日本法人は日本アバイアである。

 このAvayaで興味深いのは,複数のユーザー・グループを組織化した「InAAU(International Alliance of Avaya Users)」という組織があることだ。

 InAAUは,Avayaが米Lucent Technologiesからスピンアウトする前から存在していた。筆者は約3万人ほどが参加していると聞いている。会員の多くは,同社のPBX製品「DIFINITY」のユーザーである。製品研究や適用ノウハウの共有などを活発に実施している。

 日本でもユーザー会を組織して活動しているケースはある。しかし,InAAUは,それらのユーザー会とは少し趣(おもむき)が異なる。

 InAAUは正式名称にInc.と付く法人組織で,Avayaとはまた異なる。InAAUの会員が主体的に運営している。そして,原則,InAAUは個人の集まりである。つまり,自主的に個人が参加し,自主的にInAAUの運営に携わる。企業で会員となり,持ち回りで社員を送り込む日本とは少し様子が異なる。

 Avayaは毎年,同社の製品やサービスの評価をInAAUの会員に依頼する。いわゆる顧客調査である。アプローチは二つある。一つは製品の評価。もう一つは,顧客のニーズ調査である。リリース前の製品を貸し出し,新機能の使い勝手や必要性を答えてもらうのだ。筆者もその調査に携わる機会があったが,顧客のニーズを徹底的に汲み取るという姿勢は単なるリップ・サービスでないと感じた。

 日本のITベンダー各社はしばしば「ユーザー会」と言われるコミュニティを作り,ユーザーの組織化を試みている。しかし,こうした活動は古くからの大手ベンダーのユーザー会は別として,それほど活発ではない。日本ではなぜか,組織化の成功例を見つけ出すのが難しい。

 筆者が見る限り,InAAUは実に上手く機能している。筆者は,最も成功した顧客の組織化事例がInAAUだと思っている。

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