今年もIT業界に,SEを目指す多くの新入社員が入ってきた。きっと新人SEの方々は「さあ,頑張ってSEになるぞ!」と希望に燃え心も弾んでいると思う。

 そんな人生のスタート台に立った若者たちへ,SEの世界で長年生きてきた先輩として「これだけは言っておきたい」ことをメッセージとして贈りたい。

(1)人間は自分の職業に誇りを持つことが重要である。

 人間は自分の職業に誇りを持たなければ,決してよい仕事はできない。これはSEという職業でも同じである。従って,新人の方々はぜひSEという職業を十分理解し自分の仕事に誇りを持って,これらかの人生を歩んでほしいと思う。

 きっと新人の皆さんは既に,「SEとは何か,どんな仕事か」などについて,学校の先生やマスコミや先輩や上司などから色々と聞いていると思うが,筆者はSEという職業は「社会システムの変革の担い手である」と思っている。

 具体的に述べると次のとおりである。約40年前に作られた新幹線のシステムをはじめ,どこの銀行からでも入出金できる銀行システム,自動車などの高品質な生産管理システム,生活に便利な宅配便システム,インターネットによる在宅勤務や電子商取引システムなどなど,数多くのシステムが現在の日本社会のインフラになっている。

 これらは社会を変え,企業を変え,世の中を変えてきた。そして日本の産業を発展させ,国民生活を豊かにしてきた。こうしたシステムはすべて,コンピュータ抜きには実現できなかった。

 そして,これらのシステム作りの中心の役割を担ったのがSEである。即ち,SEは企業,団体,社会や国家などの仕事や物の流れ・仕組みをITを使って変革する,ITに付加価値をつけてお客様に納める,それが仕事である。決して単純なシステム開発やプログラム作りだと捉えてはならない。俗に言うシステム開発やプログラム作りは,手段であって目的ではない。

 新人SEの方々はこのことを認識し,誇りを持って堂々と仕事をしてほしい。そして企業や社会に貢献する,よいシステムを作ってほしい。

 日本の産業は情報化抜きでは伸びない,といわれて久しい。だが,日本の情報化は,未だに先進国の中では相当遅れている。国際競争力も落ちてきている。そんな状況下の日本の産業や社会は,できるSEを求めている。SEの活躍の場は無限である。最近SEと言う職業は“3K”だと評する視野の狭い人がいるが,SEを目指す若者はそんな言葉には負けないで明日の日本のために頑張ってほしい。

(2)SEは必ず寝る前にマニュアルを1ページ読んでほしい。

 IT技術力はSEにとって不可欠である。そしてITに弱いSEはろくな仕事ができない。きっとこんな言葉を新人の方は先輩から聞いている思う。そして多くの新人SEが「自分は大丈夫だろうか?どうすればITに強くなれるのだろうか?」と不安や悩みを抱いていると思う。特に文系を卒業した方ほどその傾向は強いと思う。

 筆者のSEマネジャ時代のことだが,筆者は毎年新入社員に「酔っ払って帰っても寝る前に必ずマニュアルを1ページ読め!。それを20代の間続ければ,間違いなく1.5流以上のSEにはなれる」と言っていた。そしてそれを日頃徹底指導していた。

 それは筆者の経験から「IT技術はマニュアルを読んでマシンを使えば必ず分る。人によっては理解するのに時間がかかる人がいるかもしれないが,そんな人も努力していればいずれ必ず分る」と言う信念があったからだ。筆者はそう考えて新人SEにはマニュアルを読むことを要請しそれをSE人生の習慣にする様指導していた。

 SEにとってマニュアルは技術に強くなる宝である。SEがマニュアルを読む習慣があるかどうかはSE人生を大きく左右するといっても過言ではない。SEの中にはマニュアルを自分から読む努力もしないでIT技術は会社が教えてくれるもんだ考えているように見えるSEがいるが,そんなSEは技術進歩の激しいIT業界では決して生き残れない。そのためには「寝る前にマニュアルを1ページ読む」,その習慣を若い時から持つことが重要だ。

 なお,言うまでもないが,新人教育ではその日に習ったことは必ず復習をすることだ。ITは復習しないで分るほど簡単な代物ではない。復習して分らなければ,講師や先輩に尋ねたり,マニュアルなどで調べることが肝要だ。

 その日にならったことを理解していかないとどんどん分らなくなるから要注意である。学生時代はそれでも良かったかもしれないがビジネス社会では許されない。教育期間中は勉強するのが仕事である。

 読者の方はご存知だと思うが,文中の「マニュアル」とは,メーカー提供の製品などの解説書である。それには,その製品の機能や,使い方や,導入の仕方やカスタマイズの仕方などが載っている。昔流の紙のマニュアルもあるが,現在は電子マニュアルが主流である。

 教育などのテキストは所詮マニュアルの抜粋であり,その内容は製品にもよるが,せいぜいマニュアルの30%~70%しか載っていないと思った方がよい。製品の主要機能などを効率よく勉強するにはよいが,それで実務をやるには無理がある。

(3)ITが重要だからと言っても,過剰に重視してはならない。

 SEの中には,過度にITを重視する技術偏重のSEがいるが,それは厳禁だ。即ち「ITをよく知っている=優秀なSE」と思わないことが肝要である。SEという職業はITに詳しいだけでは半人前くらいだと考えることだ。

 例えば,PMになれば数十人,数百人のSEを統率しなければならない。またテクニカルSEもベテランになれば数人,数十人のSEをまとめて高度な技術的な仕事をしなければならない。その上,対顧客ではアプリケーションなどのヒアリングや様々な交渉ごともある。

 こう考えると,とても技術力だけでSEの仕事ができるものではない。プレゼン能力や美しい資料作り,チームワーク,政治力,リーダーシップ,対人関係力,闘争心などなど,SEにはIT以外の能力も欠かせない。

 往々にして新人SEや若手SEは,自分が同僚よりITに詳しいとある種の優越感に浸り,自分はできると錯覚しやすいから要注意である。IT以外の面を軽視していては,いかにITに強くても決して一流のSEにはなれない。それはこれまでの多くの先輩が証明している。

 従って,新入社員の方は学生時代の英語や数学などの偏差値指向から早く脱皮した方がよい。そして「ITとIT以外の両方が必要である」ということを肝に銘じて,両方のことを身に付ける努力をすることだ。

 以上,SE人生の出発点で特に重要と思われる3つの点について述べたが,最後に新人の方々に「皆さんの会社も顧客企業も,今回述べたようなSEを求めているんだ」と言いたい()。これが今日の一言である。

 なお,参考のために述べるが,中国の企業は日本企業のようなSEの新人教育はやっていない。それは,大学で既に全員がその程度の技術力は身に付けているからだ。従って,中国と日本の新入社員同士を比べると,中国の新入社員は給料は1/7か1/8だが,能力は遥かに高い。このことを新入社員の方々は自覚し,より一層努力してIT技術を早期に修得し,早く一人前のSEを目指してほしい。

Watcherから新人へ送るメッセージ