写真1 北京の公園で出会ったコスプレ少女
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写真2 海龍大厦内のある店では多数のフィギュアが販売されていた
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写真3 “萌え”やコスプレ関連の書籍も登場
写真3 “萌え”やコスプレ関連の書籍も登場
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写真4 最高学府・北京大学のキャンパスで撮影。日本風のイラストでマナー向上を訴えている
写真4 最高学府・北京大学のキャンパスで撮影。日本風のイラストでマナー向上を訴えている
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 中国のネット・ユーザーの一部を指す言葉として,「憤青」(フェンチン)があります。憤青は「憤怒青年」の略で,ネット掲示板などに過激な民族主義的内容の書き込みをすることで知られています。彼らの言動を批判する意味を込めて「糞青」(同じくフェンチンと発音)と表記する場合もあります。

 北京の大学のキャンパスには,日本の大学でおなじみの(?)学生運動風看板はまったくありません。これは政府の締め付けが厳しいからだと思います。多感な若者の不満のはけ口は必然的にネット掲示板に向かいます。

 4月3日,台湾の人気タレントで「哈日族」(親日家の意味)としても有名な楊丞琳(レイニー・ヤン)さんが北京で謝罪記者会見を開きました。ことの経緯は,4年ほど前の台湾のバラエティ番組内で,抗日戦争に関するクイズに間違え,出題者の突っ込みに“ボケ”で返したために中国大陸でテレビを見ていた憤青の怒りを買ったことに始まります。以来,楊さんは中国の掲示板で批判にさらされてきました。謝罪会見はその事態を収拾するためのものでした。

 日本がらみの発言や行動で憤青の攻撃対象となった人は他にもいます。映画「少林サッカー」のヒロイン役,趙薇(ヴィッキー・チャオ)さんや,「頭文字D」に出演した台湾の有名歌手,周杰倫(ジェイ・チョウ)さんなどもかつて攻撃を受けました。

 しかし中国大陸に住む中国人は13億人。しかも日本人と比べて個人主義的傾向が強いと言われます。東に反日青年がいれば,西には日本のサブカルチャーが大好きな若者がいるのです。

 北京の西側にある「紫竹院公園」を散歩していたときのことでした。園内を通る運河の橋を渡ろうとしたところ,前方から紅白の服を着た女の子が歩いてきます。「え?中国に巫女さん?」(写真1)。一瞬,目を疑いましたが,許可を得て撮影しました。

 どうやらその巫女さんは「コスプレ」のようです。コスプレの衣装を着た6人の少女たちがデジタルカメラを持って撮影会をしています。冗談で「あなたたちは日本人なの?(イ尓イ門是不是日本人?)」と中国語で声をかけてみると,「YES!」と明るく答えが返ってきました。

中関村にもオタク・ショップ出現

 さて近年,日本の秋葉原は電気街からアニメやコスプレの街へと変容しているようです。実は「中国の秋葉原」と呼ばれる中関村でも,まだ小規模ですが“オタク・グッズ”を扱う店が出現しています。例えば,中関村にあるションピング・ビル「海龍大厦」の一角には日本のゲームやフィギュアなどを販売する店があります(写真2)。商品は日本から輸入しているようで,値段は日本とほぼ同じです。

 数は多くありませんが,“萌え”やコスプレに関する書籍も中関村の書店で売られています(写真3)。最近では中国で初となるコスプレ専門の月刊誌「COSER盛典」が創刊されたというニュースも流れました。

 メイドやコスプレなどの言葉を始め,“猫耳”などの用語も使われています。もちろん,「萌」の語も台湾や香港を経由して大陸へ伝わり,そのまま使われています。一方,メイドは中国語で女性使用人を表す「女仆(女僕)」(発音は「にゅーぷぅ」に近い)といいます。コスプレはなぜか「COS」とアルファベットで表記されることが多いようです。

一人っ子政策が萌え市場を拡大させる?

 また,日本発の“萌え画像”を収集することがネット世代の若者たちのお金のかからない趣味になっています。かわいいタッチの絵は中国の大学生からも支持を受けています(写真4)。

 さらに今後は,有名な一人っ子政策が萌え市場を拡大させるのではないかと,筆者は予想しています。一人っ子政策は弊害が出ており,2005年のデータでは新生児の男女比率が約120:100という非常にアンバランスな状況です。一人しか子供を作れない状況で女の子が生まれると家系が続かなくなるとの理由から,妊娠中に女の子であることが分かると堕胎してしまうことが少なくありません(これは社会問題になっています)。

 男性の出生率が2割高ければ,将来,2割の若い男性が「あぶれる」結果となります。経済発展が続き,金銭的余裕が拡大する中で,萌え市場は交際相手の見付からない男性の需要に応える形で中国でも大きく成長するかもしれません。