少し前に「責任を取らないCIO」という話を聞いた。話してくれた人はCIOとして立派に責任を全うした人だが、彼によるとユーザー企業には「リスクを取らない、責任をITベンダーに押し付けるCIOもどき」が大勢いるらしい。そんな話を聞きながら、私は「これじゃ適正なSI料金なんか、夢のまた夢だなあ」と妙なことを考えていた。

 世間では、結果に責任を取る人のことをビジネスパーソンと言う。まして企業の役員・幹部となれば、なおさらである。しかし、ITのことになると話は別。昔から少し怪しかったが、今やすっかりIT部門が弱体化し、CIOやIT部門長の社内基盤を弱まっている。だから、新規開発案件なども自分たちの仕事なのに、明確なコミットメントを言えない人が増えているという。

 こういうCIOは経営会議なんかの席上で、「ITベンダーの○×システムズが責任を持ってやると言っています」などと他人事のように言う。普通、他の案件ならこんないい加減な報告・説明はあり得ないが、経営トップもITのことがよく分からないから、それで了承してしまう。そこには説明責任もなければ、結果責任への自覚もない。全くの無責任体制。これで、受注した○×システムズが下請けに丸投げした日には、もう悲惨である。

 ○×システムズが良識ある企業であっても、こんなユーザー企業が相手だとハッピーな結末は期待できない。何らかのトラブルが起こる。なんとかユーザー企業に承知してもらっても、「ITベンダーに騙された挙句、丸め込まれた」という悪評が立つ。責任の所在を巡ってもめると裁判沙汰。泣き寝入りをしてリソースを注ぎ込めば、自らの経営を揺るがす赤字プロジェクトの誕生である。

 さて、「適正なSI料金、夢のまた夢」の話だが、ユーザー企業に責任を取る人がいなければ、SI料金の適正化など不可能だ。責任を取る人はリスクを取る人のことである。リスクを取るためには、それなりの体制がいる。だから、きちんと責任の取れるCIO、あるいはIT部門長は、新規開発案件などでは必ずコスト面で“のりしろ”を用意する。リスクをコストに置き換える。これは金融をはじめ、すべてのビジネスの常識である。

 つまり、責任が取れるCIOのいるユーザー企業は、適正なIT予算を持つ。だから要求は厳しくとも、ITベンダーのリスク分を加味した適正な料金を払ってくれる。一方、責任を取らない人はリスクを取らないから、IT予算にリスク・プレミアムなど要らない。ITベンダーに支払う料金は安ければ安いほどよいと思っているから、SE不足でサプライサイドのリソースが逼迫している今でさえ、買い叩こうとする。

 そんな責任を取らないCIOやIT部門長が増えているとなると、ITベンダーはどう対処するればよいのだろうか。まあ顧客選別、取引しないことが一番いいのだろうけど、そうもいかないのなら経営トップ、つまりITも含めすべての責任から逃れられない人と直接やり取りするしかない。

 いま多くのITベンダーが「コンサルティング能力を充実させて“超上流”領域からやりましょう」とか、「ユーザー企業のCIO機能を自分たちで代替しましょう」とかいう話を盛んにしているが、その問題意識は極めて正しいことになる。ただ、そのITベンダーがユーザー企業のCIOに代わり、責任を取れる存在になれるかというと、それはまた違う話なのだが。