4月になり新入社員らしい姿がそこかしこに見られます。新たに社会人になられた方、これから仕事をするのは楽しみですか? ベテランITプロフェッショナルの皆さんは、ご自身の仕事に楽しさや醍醐味を感じておられますか? 「仕事は遊びじゃないんだから、楽しいわけがない」という声もあるかもしれませんね。本当にそうでしょうか。

プログラミングの高揚感

 楽しさは遊びにしかなく仕事には無いとしたら、そんな仕事生活が始まるのは憂うつですね。確かに最近は、ITプロの仕事は3Kなどと言われることもあります。キツイとか帰れないというのは、どうみても楽しくはなく、健康や私生活への影響も大きいですから改善が急がれます。給料が安いのも決して喜ばしいことではありませんが、高給でさえあればハッピーというわけでもなさそうです。ベテランのITプロに、仕事のなかの楽しいことを思い出してもらうと、どのようなことがあるでしょうか。昇給や昇進という方もおられるでしょう。これらは仕事のプロセスにおける苦楽とは別に嬉しいものですね。他にはどうでしょう。工夫を重ねたプログラムがうまく動いたとき、難解なシステムトラブルを解決したとき、厳しい顧客からやっと受注したときなどもありそうです。特に、プログラムを組んでいる最中や、トラブルを解決しているその瞬間こそが、最も高揚感があり、楽しく夢中になれるときだという方もおられるのではないでしょうか。

 夢中になって我を忘れるほど没入する状態は「フロー」といわれ(*)、わたしたちが楽しいと感じるときには、このような感覚が含まれています。フロー経験として思い当たるのは・・・ギターやドラムなど楽器を演奏しているとき、スノーボードで滑り降りる瞬間、将棋を指しているとき、手のこんだ料理をつくっているとき、鬼ごっこや草野球など子供の頃の遊びを思い浮かべる方もおられるかもしれませんね。こんなふうに夢中になれる瞬間が仕事の中にもたくさんあるといいですよね。

仕事から得られるもの

 ところで、仕事を通して得られるrewardには2種類あるとされています。まず、その行為をしていること自体の楽しさや、能力を活かしていることの喜びなど本人の行動に内在するものを内発的報酬といいます。フローのような状態はこれにあたります。次に、金銭や地位や権力など他者から与えられるものを外発的報酬といいます。褒められるなどのフィードバックも含め、外発的報酬は生活していくうえで無視できません。しかし、誰にとってもイキイキできそうなのは内発的報酬ではないかと思います。自己満足というと悪く捉えられがちですが、自分自身や自分の行為に満ち足りた感覚をもつとか、自己効力感をもつことは、元気よく生きていくうえで重要です。そこで停滞してしまうと問題ですが、このような形の報酬によって、もっとやってみたいという気持ちにもなれます。また外発的報酬は他者からの評価に依存するものであり、限られた報酬(金銭やポスト)を奪い合うことになりますが、内発的報酬は自分次第で手に入れることができるという点も見逃せません。

 その行為自体を楽しむとか能力を活かす喜びなどといっても、今ひとつピンとこない方もおられるかもしれませんね。例えば、広場で輪投げをするところを想像してみましょう。輪を投げる位置は、どの辺りに設定するでしょうか。投げても全く届かないような何十メートルも先にはしないでしょうし、手を伸ばすだけで簡単に届くような位置にもしないでしょう。頑張ったら、あるいはちょっと練習したら、輪がうまく棒に引っかかるかどうかという微妙な位置に設定しますよね。時には利き手でないほうで輪を投げてみたりもしそうです。もしこれが小学生であっても、同じようにするのではないでしょうか。このように、わたしたちは自然に、ちょっぴり難しそうなことをして、身体を使う楽しみや、できる喜びを得ようとしています。(ここでの楽しさは、快楽や耽溺とはまた異なります)。

楽しいことの共通点

 内発的報酬であるフロー体験の調査によると、行っていること自体が楽しいという経験には共通する要素がみられます(ギターやスノーボードを思い浮かべてください)。身体的・感覚的・知的な技能を駆使すること、創造的な発見、挑戦や困難の解決、対象と調和し自らが統御している感覚、技能を新たな次元へと拡大することなどです。先にお話した、プログラミングやトラブルシューティングの最中の高揚感にも共通点があるのではないでしょうか。挑戦が新しい能力の発展を刺激するような状況において、自分の能力をフルに発揮して行動することが、人間の楽しみとして重要で、それは仕事か遊びかという区別なく、どちらにも存在するということが明らかにされています()。「仕事=為すべきこと=楽しくないもの」「遊び=為すべきでないこと=楽しいもの」というのではなく、仕事のなかにも遊びと同じような質の楽しさがあるということです。

 そういうわけで、社会人スタートの方はどうぞ仕事の楽しさに期待してください。少し手強そうな仕事にこそ、楽しさが潜んでいそうです。そして、ベテランやミドルのITプロフェッショナルの方々も、他者からの評価に依存してパイを奪い合うような外発的報酬ばかりに執心するのでなく、自分自身の行動に内在する内発的報酬にこれまで以上に関心を向けられてはいかがでしょうか。それらを大切にすることによって、仕事本来の楽しさをより感受したいものです。

 それでは、今日もイキイキ☆お元気に。

M.チクセントミハイによって述べられています。『楽しみの社会学』『フロー体験 喜びの現象学』など。

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