私は,これまで20年間に何度かの転職と兼職を経験して,数種類の名刺を使わせていただく貴重な体験をしました。創業間もないベンチャー,誰もが知っている大手金融機関,地元と業界でだけ著名な老舗中小メーカー,ネットメディアのライター,大学の講師,NPO(非営利組織)法人や商工会議所の役員…。

 私個人は何も変わっていないのに,名刺ひとつで待遇が随分と変わった経験を味わったことも少なくありません。総じて,所属団体が著名で大きいほど,そして役職が高位であるほど,相手の態度が一変するケースが多いようです(仕事柄,いつも私がTシャツ姿なので軽んじられていることもありましょうが)。

 しかし,メール時代,ブログ時代になって,名刺交換から始まるおつきあいは減りつつあります。昔のように「名刺の力=会社+役職の力」だけで貴重な出会いが生まれたり,良好なコミュニケーションが育まれたりすることが難しくなりつつあります。そこでは,むしろ「ブログの力=個人の魅力」の方が重要になると考えています。

メール全盛で,会社名より個人名が重要に

 会社名よりも個人名の方が重視されるようになったことは,メールがあふれる受信箱を前にするとわかります。

 今や,ちゃんとメールを活用しているビジネスパーソンでしたら,1日100通以上のメールを受け取っているはずです。もちろん,大半は迷惑メールや企業発のメールマガジンでしょう。ですから,かつてのように「読まないメール」を削除するのではなく,「読むべきメール」だけを拾い読みすることで対応しているはずです。時間は一定,メールが増え続ける中で,もはや「メールを読まないのが普通」という厳しい状況になっているのです。

 そんな中で,どんなメールを拾い読みしているか,思い出してみてください。

 まず,発信者名が個人名でなく,企業名だけだったとしたら,広告メールのたぐいと思われて削除されても仕方がないでしょう。いくら有名な企業からであろうと,自分のニーズに合わない会社発行のメールは,迷惑メールなのです。かといって,個人名でも,あやしいスパムメールに見えてしまう可能性があります。名前を見るだけで顔が浮かぶような親しい間柄の方以外は,メールを開かないものです。つまり,会社名よりも個人名の方が,しかも「すぐ思い浮かぶ個人名」こそが,メールでは着目されているのです。

 だとすると,「初めて出すメール」「まだ会ったばかりの方に出すメール」の時には,よほど工夫しないと読んでくれないことになります。やむなく,メールの題名に「○○○○株式会社の久米です」と書き込んで関心を惹こうという方もいらっしゃいます。しかし,「メールを開かずにも内容がわかる具体的な題名」をつけてこそ「知恵と思いやりのあるビジネスパーソン」です。いつでも同じ自己紹介のようなメール表題は,相手にも迷惑だと心得るべきでしょう。

 だからこそ悩みは深いのです。初めての相手,まだおつきあいが浅い相手に対して出すメールでも,古くからの友人のように親しく感じられ,共感を呼ぶあいさつができなくては,と常に考えているのです。

会社のWebサイトを見ても感動は湧かない

 すなわち,メール冒頭の自己紹介が重要になりますが,ここで長々と自己紹介をしていては,それこそ迷惑メールになってしまいます。そこで,Webサイトのリンクを上手に活用することになります。そうすれば,簡単な説明をメールで,詳しい説明を関連サイトでと,使い分けることができるからです。

 この時,会社案内を差し出すかわりにホームページへリンクをする心配りは,もちろん大切でしょう。しかし,それだけではご自身の名前を覚えていただくことは難しそうです。会社は立派だと分かっても,そこに勤めている人が誰しも魅力的とは限りません。むしろ似たタイプが多くて,個人名が覚えづらい場合の方が多いかもしれません。

 そんな時,名刺代わりに大変有効な自己PRツールになるのが個人ブログです。今や,メールを返信する前や,お会いする前には,まずブログを見ることが「新しいビジネス常識」ではないかとさえ思います。

 私が日々メールを親しく交わしているビジネスパーソンの多くは,社長であれ新入社員であれ,個人ブログをお持ちです。今となっては,個人ブログがない人から初めてメールが来た時や,お会いする予定の方の名前でGoogle検索をした時に,どのようにコミュニケーションをして良いかわからないほどなのです。

 ですから,名刺代わりにブログを持つことが,ブロガーの間では,いつしか当たり前になりつつあります。

トップセールスの手書きプロフィールに学ぶ

 お互いに親しく交流をする前に,個人ブログをチェックする場合,真っ先に見るのはプロフィールでしょう。ブログのプロフィールを眺めながら,「なにか共通点が無いか」と探すのです。そこで,プロフィールの書き方が重要になります。しかし,多くの人は,就職や転職の時の履歴書以来,自分のプロフィールを書き慣れていないはずです。

 コミュニケーションを育むプロフィールを考える時,私が真っ先に思い浮かべるのは,かつて何人かのトップセールスからいただいた「手書きの詳しいプロフィール」です。トップセールスが初対面の相手に有効活用するのは,会社が用意した名刺でも会社案内でもカタログでもありません。自分のプロフィールや信念を手書きで綴(つづ)った「自己紹介チラシ」なのです。

 そこには,地縁「生まれ育った場所」,血縁「両親の郷里や職業」,学縁「出身校,クラブ・サークル活動」,社縁「勤務した会社や職歴」に加えて,網縁「好きなもの・こと・ひと」が書きつらねられています。そして,プロフィールの中から,何かひとつでも共通点が見つかれば,そこから話が膨らみ,親しくなれることを,トップセールスは体験的に知っているのです。彼らは,会社でも商品でもなく,自分自身が最大のセールスポイントであり,共通の話題こそが関係づくりの基本だということを,何より理解しているのです。

ブログのプロフィールの質と信用は正比例する

 だからこそ,ブログのプロフィールも「何か共通点を見つけるために」なるべく詳しく書く必要があります。愛読書であれ,好きな映画であれ,幅広いジャンルにわたって,一つでも多く書きたいものです。かといって,ブログのプロフィールは単に話題づくりのためにあるのではありません。新入社員ならともかく,中堅以上の社員であれば,そこにビジネスパーソンとしての年輪が刻まれていなければなりません。そこに,ただ,社内でジョブローテションした職歴だけが書かれていても,個人としての信用は高まらないのです。

 プロフェッショナルとして重要な資格の数々を取得したことや,第三者からの表彰や受賞を受けたことなどは,プロフィールに特記すべき「信用の証」です。また,関連する社外の業界団体,勉強会,学会などで活躍していれば,それらもぜひ記述しましょう。そこでの,発表,論文,投稿記事・コラムなども重要な特記事項です。

 さらには,仕事以外の社会的な活動にも熱心ならば,それも書きましょう。忙しい仕事をこなしながらも,地域活動やNPO活動などで貢献している人は「信頼できる人」だと多くの人は感じてくださるでしょう。もちろん,個人で文化,芸能,スポーツに関する道を極めているのであれば,プロフィールに誇りをもって書き加えます。趣味を極めるブログがあれば,それも個人の魅力となるはずです。いわゆる「ブランド人材」のブログやプロフィールには,オンリーワンの趣きがあります。そして,そこからは人一倍,人生を楽しもう極めようという努力の姿勢が伝わってくるものです。

 こうして,年々,ブログのプロフィールに書き足す特記事項ができる人,ブログ記事が量と質の両面で充実していく人こそが,今後ますます活躍していくでしょう。ブログでの情報発信を契機に,次々妙縁に恵まれ,仕事と人生の質を高めていけるのが,Web2.0時代だと考えます。

電子署名に必ず個人ブログへのリンクを書く

 日々新たな気持ちで一日一日を大切にして,ブログを更新することができれば,自らの力でブログ縁をさらに広げ深めていくことは,さほど難しくありません。それに伴い,会社の名刺に頼る場面は,少なくなっていきます。

 まず,簡単な方法の一つは,メールの最後に添える電子署名に,必ず個人ブログへのリンクを書き加えることでしょう。電子署名には,名前を覚えていただくために,会社名よりも先に個人名を明記します。同様に,会社のホームページURLよりも,個人ブログのURLの方が大切ですから,目立つように一番上に明記したいものです。

 私たちの会社でも,ブロガー社員には,この「個人・ブログ優先表記法」を勧めています。まず「自分自身=ブログ」が売れなければ,商品も会社も売れないと考えているからです。可能であれば,最新ブログ記事の題名も電子署名に添えましょう。そうすれば,メールの署名を見て,ブログ記事を読んでくださる方が増えるはずです。毎日5分の手間で,ブログ読者=あなたのファンを増やすことができるのです。

初めてメールとお礼メールで個人ブログを活用

 自分が輝いてみえるような個人ブログができれば,初対面の方にメールを出す時にも簡便に,しかも堂々と自己紹介をすることができます。


 貴社の素晴らしいWebサイトを拝見してはじめてメールを差し上げます。オーガニック食品の専門商社○○○○株式会社 広報部長の久米 信行と申します。
http://www.......(会社のホームページのURL)

 地球環境に配慮したオーガニック食品を広めることを公私共々ライフワークにいたしております。
http://www.......(個人ブログのプロフィールのURL)
http://www.......(参加しているNPO法人のURL)

 こうしたメール冒頭の短い自己紹介でも,個人ブログを合わせて参照してくだされば,より詳しい情報やメッセージが伝わります。そして,はじめてのメールであっても,深い心の交流ができるはずです。

 もちろん,実際の面談の後で「お礼メール」という形で「初めてのメール」を差し上げる時にも,このブログ連動のメールは有効です。


 昨日は,お忙しい中,○○様にお目にかかれて素晴らしいお話の数々を伺うことができました。貴社の地球環境問題への取り組みについて深く感銘を受け,より多くの方に知っていただこうと,微力ながら,私のブログにも書かせていただきました。
http://www.......(個人ブログの該当記事のURL)

 ブログのプロフィールにも明記しておりますが,私も地球環境に配慮したオーガニック食品を広めることを公私共々ライフワークにいたしております。
http://www.......(個人ブログのプロフィールのURL)
http://www.......(参加しているNPO法人のURL)

 面談の時には伝えきれなかったメッセージを,お礼メールとブログで補うことができるのです。

名刺に個人ブログのURLを大書しよう

 とはいえ,私も名刺そのものを否定しているわけではありません。むしろ,名刺と個人ブログを併用することで,さらに深いコミュニケーションができると考えております。

 本来であれば,会社支給の名刺に,個人ブログのURLを大きく書きたいところですが,管理の厳しい大企業では難しいかもしれません。そこで,もし名刺の裏が白紙であれば,そこに個人ブログのURLを印刷する方法が考えられます。私は,現在,この方法を使って,ブログとネット連載のURLを紹介しています。

 もし,もっと積極的にブログをPRしたいのであれば,会社の名刺をお渡しした後に,もう一枚,自作のブログ専用名刺を渡しましょう。たとえ自腹であっても,自己プロデュースとネットワークづくりの投資だと考えれば安いものでしょう。拙著「ブログ道」でも紹介しましたが,いまだに,日本財団 笹川陽平会長の名刺以上にインパクトのあるメッセージを見たことがありません。「笹川陽平のブログを覗いてみてください」というメッセージと,ブログアドレスしか書かれていない名刺は,当面,最も強力な自己PR手法でしょう。

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 2007年問題が話題ですが,生涯現役でいたいと願うなら,「大企業の部長しかできない(ヘッドハンター用語)」非プロフェッショナル人材,非ブランド人材に陥るわけにはいきません。今日から「会社の威を借りる気質」を改めて「個人を輝かせるブログ」を書き始めたいものです。そのブログに,日々の営みを刻みつつ,少しずつ縁を広げ深めて,オンリーワンの価値を高める「人物」になりたいと,私も心しています。