今回は、日本ユニシスでCTO(最高技術責任者)を務める保科剛氏に、「SIerに求められる2010年の技術」を聞いた。同社は06年に米ユニシスとの関係を見直したこともあり、自身で新しい技術を探し出し、開発に取り組む必要性が出てきた。そのため研究開発を成長に向けた柱の一つに位置付け、年間100億円近い投資を続ける考えだ。

 そうした中で、日本ユニシスの保科氏は社会プラットフォーム化を強調する。60年代から70年代にかけて企業のIT化が進んだ。ただし、高価だったので、金融や鉄鋼など大企業中心のものだったが、80年代から90年代にパソコンやインターネットの急速な普及で個人のIT化が進む。100万円したパソコンが10万円以下で手に入るようになったことが典型。ITのコモディティ化だ。そして、次の段階で社会のIT化が起きる。生活の中にITが入ってくるユビキタス化で、「2010年、2020年に向けて、これが進んでいく」と、保科氏は予想する。

 そこでは、社会のIT化を支える礎となる社会プラットフォームが重要になる。サーバーやパソコン、組み込みソフトまでもが一体化され、ネットワークにつながるものが急速に拡大していくことになるからだ。個人のまわりのネットワーク化はこれから本格化する。とはいうものの、個人は数GBのiPodを持ち、通信機能を備えた携帯電話を持ち、さらにスイカなどICカードを持ち歩いている。ICタグの活用も活発化してくるだろう。これらが企業のITシステムにもつながるようになれば、ITは企業内から個人へと広がり、社会プラットフォームが必要になる。

 保科氏が考える社会プラットフォームとはネットワーク、ハードウエア、OS、ミドルウエアで構成されるITプラットフォームと、その上で稼働するアプリケーションなどから構成されている。そこには様々な技術が融合されるので、SIer(システムインテグレータ)はその社会プラットフォームを支える技術や商品を開発することが役割になる。

SIを変える仮想化、可視化、情報管理

 具体的には仮想化、可視化、情報管理(データベース)などの技術になる。サーバーやストレージ、CPU、OSなどの仮想化もあるが、アプリケーションの仮想化もある。企業の枠を越えて、アプリケーションを共有する技術として、保科氏はSOA(サービス指向アーキテクチャ)に着目している。仮想化され、複雑化する社会プラットフォームをどう動かすかという問題を解決する技術も重要になる。

 この動きは、SI(システム・インテグレーション)のやり方を変わる。「全体のアーキテクチャをどうするのかを考える力が求められる」(保科氏)からだ。ITベンダー各社ごとに製品体系はあるが、それはメーカー固有の話。これら固有製品を物理的につなぐのではなく、仮想化技術でつなぐことになる。仮想化されたコンポーネットをつなぐようになれば、ハードやソフトにアプリケーションやサービスが依存しなくなり、ITベンダーは再びハードウエアの自由な競争状態に戻れるかもしれない。「当社はハードベンダーからITサービスとなったが、再びハードベンダーに戻るという感覚もある。メインフレームはOSを含めて基盤を提供してきたという意味で、いわば原点回帰だ」(保科氏)。アプリケーションも、「これはクラスAのアプリケーションだ」とか、評価されていくことにもなる。

 可視化とは、例えばセンサーから入ってきたデータをどう見せるかだ。「大量のデータ、多様化するデータを見える形、どう表現するかだ」(保科氏)。例えば、電子カルテのデータがどんどん集まれば、そこからどんなことを見いだせるかだ。それには、意味のある処理をする必要がある。データをどう集めて、格納し、どう分析するのか、つまりデータが入ってくるところから出て行くまでの処理だ。経済産業省が推進する検索エンジン「情報大航海プロジェクト」は、その流れから出ているという見方もできる。品質の可視化もいる。

信頼性と安全性の技術

 日本ユニシスはITシステムの信頼性と安全性も重要テーマに掲げる。ただし現状は、「ソフトの品質問題は開発プロセスのところに収斂してしまった」(保科氏)。開発プロセスしか見えなければ、「ソフトという商品の抜き打ち検査はできない。いいのか悪いのかの判断もできない」(同)。そこで、成果物を客観的に評価する仕組みが要る。開発がどう進んでいるかを計測することも要る。

 こうしてプロジェクトを評価できるようになれば、「いつでも建設のように抜き打ち検査が可能になる」と保科氏は期待し、「成果物を評価するメカニズムの研究開発をしていく」(同)考えだ。経産省が信頼性を重要視した施策を打ち出している背景には、ITシステムの信頼性が社会に大きなダメージを与える恐れがあるからで、「1ケタ、2ケタの高い品質を目指す」(同)とする。成果物の評価は、オフシェアのときにも重要な技術になる。納品物の評価だ。

 こうしたことがSIerの産業構造を変えることにもなる。「建築のように抜き打ちができれば、SIerは監理設計会社と工事施工会社に分かれるだろう」と、保科氏は予想する。だが、社会プラットフォームは、ITベンダーだけが提供するものではない。ユーザーが提供する社会プラットフォームも登場するだろう。「当初、Eコマースがクリティカルではないところから始まり、その後、リアルビジネスの企業がだんだんEコマースを始めた。こうしたラージEを手掛ける企業が自分たちのプラットフォームを社会プラットフォームに仕立てる可能性もある」(保科氏)。

 このほか例えば、グーグルが情報共有の社会プラットフォームからより広範囲をカバーする社会プラットフォームになると見ることも考えられる。もちろん、日本ユニシスも社会プラットフォーム・ベンダーに名乗りを上げたいとする。