2010年、システムインテグレータ(SIer)に求められる技術は何か。SIサービスにおける品質と生産性という2大問題を解決しながら、次世代のビジネスモデルを築くためだ。そこで、先端技術動向を調査・研究する専門部署を抱えているNTTデータ、日本ユニシス、野村総合研究所(NRI)、新日鉄ソリューションズ(NSSol)の技術担当責任者らに、「SIerに求められる2010年の技術」を聞いた。第1回はNTTデータである。
同社の松本隆明技術開発本部長は「今後のシステムやサービスの方向性を考える上でのキーワードは、所有から利用への流れ」と予想する。所有から利用へと進む背景に、技術革新の速さがある。自社だけで対応したシステムやサービスは直ぐに陳腐化してしまう恐れがあるので、世の中にあるものを活用していく方向に進む。ネットワークのブロードバンド化やTCO(所有総コスト)削減、オープン化の加速、ハードウエアの継続的な性能向上なども利用への流れを加速させる要因だ。
所有から利用へには、3つ流れがある。1つ目は、ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)のようなシステムの共同利用、つまりアプリケーションの共同利用型である。2つ目は、Web2.0を活用したサービスの利用で、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)がその代表例である。そして、3つ目が、ユーザー自身が情報発信するCGM(消費者発信型メディア、Consumer Generated Media)などのコンテンツの利用になる。オンライン百科事典の「Wikipedia」が代表的なケースで、自分だけで情報を作るのではなく、他人からも情報提供してもらいながら完成させていく仕組みだ。
IT投資の質的変革を促す
こうした中での「SIerの技術開発の方向性には3つある」と、松本氏は考えている。1つは、IT投資の質的変革を促す技術である。企業内に閉じたシステムから、外部のサービスを利用するために必要な技術で、TCO削減にもつながる。
ここに関連する技術で、NTTデータが最も注目するのがEA(エンタープライズ・アーキテクチャ)である。「EAは当初の期待ほど受け入れられていない」という声もあるが、「システム部門の最適化しか考えず、何のために全体最適化するのかという経営の視点が欠けていたからだ」(松本氏)。そこで、NTTデータはEAに経営の視点を取り入れたEA2.0のフレームワーク作りを着手した。EAの各階層に経営の視点を取り込みながら、経営者とIT部門で交わされる用語も統一していく。
同時に、ソフトウエア価値の定義化が求められる。「今は何Kストップなので、何人を必要する」という人月の議論になっていた。だからこそ、サービスを利用する価値の評価が必要になる。ソフトそのものの価値を評価するには、例えばFP(ファンクション・ポイント)法で機能の数を数え、さらに性能や品質、使いやすさなどを含めて価値を評価する方法が考えられる。ユーザーの視点、つまりサービスがユーザーにどれだけ役立つのかで評価する方法もある。コスト削減はその1つだろう。現在、NTTデータ社内で議論を重ねており、価値評価が見えてくれば、システムやサービスの値段も明確にいえるようになり、ユーザーの投資金額に見合う提案も可能になるという。
IT投資の質的変革を促す技術に、知識流通に関する技術も重要である。「IT投資効果が上がらないという声がある。例えば、営業データが財務や将来計画に生かされていないことに問題がある。こうしたことに関連する技術にも手をつける」(松本氏)。
インフラやサービス形態の変化への対応
技術開発の2つ目の方向性は、インフラやサービス形態の変化に対応する技術だ。NTTデータはNGN(次世代ネットワーク)時代に向けて、FMC(移動と固定の融合)や放送と通信の融合に対応する技術が求められてくると読む。例えば、誰でもが映像などのコンテンツを利用可能になる時代におけるコンテンツの著作権管理や課金、決済、認証の技術などだ。
複数のサービスを統合し利用するサービスインテグレーションの基盤作りに、SaaSやSOA(サービス指向アーキテクチャ)に関わる技術も必要になるだろう。「問題はどんな技術が必要なのかだ」(松本氏)。NTTデータはNTT時代の20年以上前に中小企業向けにダイヤルアップで共同利用するDRESS、DEMOSと呼ぶASPサービスを手掛けたことがあり、それとどう違う技術が必要になるかだ。
「情報大爆発時代の技術も重要」(松本氏)。ブログをはじめ個人が情報発信するサイトが爆発的に増えてくれば、欲しい情報を見つけるのがますます難しくなる。そこで、インテリジェンスな検索・分析の技術に注目している。「グーグルは文字で検索しているが、意味で検索することを考えている」(同)。同じような意味を持つ情報を探し出せれば、例えば経営につながる課題を抽出、分析することにも使えるという。
開発スタイルの改革
技術開発の3つ目の方向性は、ソフトの開発スタイルを改革する技術になる。1つは開発プロセスを、経営者やユーザー部門など関与する人にも分かるようにする見える化の技術だ。各社で異なる開発という製造工程そのものを見直す必要も出てくるという。
仕様書の見える化も要る。ユーザーとSIerの間での要求仕様はドキュメントで取り交わしているが、ユーザーはドキュメントの内容をみてもよく分からないことがある。「家の建築のように、図面だけではなく、模型を作る。3次元でこんな家で、顧客は仮想空間を歩き、間取りの状態を分かるようにする」(松本氏)。図面に相当する細かい仕様書をみても、ユーザーはなかなか理解できないからだ。解決するには上流工程で分かりやすくすること。06年4月にNTTデータや富士通、NECなど6社が発表した仕様の記述方法の検討はその一環からスタートしたもので、07年2月にまず画面周りの第1版を出す。
NTTデータは次世代開発手法の検討も進めている。リファクタリング手法が1つだ。大規模システムの場合、一から作るよりも、今のシステムを更改するケースが多いので、一度使ったコンポーネントを次回に再利用できるようコンポーネントを効率よく管理する手法である。ソフトの仕様を論理形式で表す形式手法もある。予め仕様書の段階で、合致しているのかをチェックする手法で、プログラムを作る前段階、仕様のところでバグをなくすことに主眼を置いている。
SI全体に通じるものに、セキュリティ技術がある。システム全体のセキュリティ対策を考えるには、蓄積した情報の価値をまず評価することが必要になる。情報漏洩などにより、どれだけのリスクがあるのかを決め、情報価値の高いところからガードするという作り方をする。「今は個別のセキュリティ対策になっている。その時々に認証はパスワードだ、指紋だとかで、システム全体での認証をどうするのかが欠けている」(松本氏)からだ。
暗号を破られるという意味の暗号危殆化対策技術も欠かせないという。「RSAは124ビットだったが、一部の報道ではすでに破られたという。3重化を施すDESも危ないという。DESの標準化団体が『2010年には使わないほうがいい』といっており、他の技術を考える必要がある」(松本氏)。端末に情報を持たせないシンクライアントも、情報漏洩などに威力を発揮する点から技術動向を見極めている。
これらSIerに求められる技術の中で、松本氏はとくにEA2.0に力を入れているという。EA2.0をコンサルティングのツールとして活用し、よりよい提案ができれば差別化の材料にも使えるからだ。インテリジェンスな検索・分析や見える化技術も優先課題に挙げる。