会社へのパソコンの導入作業は着々と進みます。その後,決裁書を書いて,事業部にMacを導入しました。1000万円を超える大きな決裁を書いたのは生まれて初めてのことでした。最初は課長以上,そして全員へ。最終的には120台ほど導入しました。

 私は興奮していました。ワープロ専用機しかなかった事業部に,そしてコンピュータやネットワークの素晴らしさをわかっていないメンバーに,パソコンを配って文明開化させる。その使命感に燃えていました。

 統合ソフトのクラリスインパクトを配布して事業部内の文書を電子化し,電子メールの環境を作りました。「電子メールを導入したら,フェーストゥフェースのコミュニケーションが減ってしまう」などと反対を受けることもありましたが,自分の信じる道を進むだけです。

 当時は,CC-MailやMS-Mailなど独自仕様のメールを使う会社も多かったですが,ソフトが無料のE-mailが一番。事業部にSolarisのサーバーがあったので,そこにsendmailで環境を構築しました。自分でできないところは,情報システム部門に頭を下げて手伝ってもらいました。助けてくれたのは,なんとサイボウズ初代社長の高須賀さんです。2万人の社員数を誇る松下電工の中でも,高須賀さんは優秀なエンジニアとして有名でした。共同作業ができたのは個人的には感動の仕事でした。

 メールクライアントは,当時フリーだったEudora。「青野は金をかけずに上手くシステムを作る」と褒められたり,「無謀で勝手なことばかりする」と非難されたりしながら導入完了。メンバーに一通り使い方を教育し,1カ月後には当たり前のように使いこなしていくのを見て,私は自分が進めてきたことの正しさを確信しました。

管理者が楽をできるソフトが欲しい

 そして興奮したまま,暴走していきます。どんどん新しいシステムを導入していきました。まず,ファイルメーカーProサーバー 2.0。案件管理のデータベースを事業部と営業部で共有できるようにしました。しかし,動作が遅く,評判が悪い。次にファイルサーバー。Windows NT 3.5 Serverを導入して,WindowsとMacでファイル共有できるようにしました。ところがバグが多く,毎日のようにサーバーダウン。管理者の私に対しては非難轟々(ごうごう)でした。何かトラブルがあるたびに責められました。

 この経験を通じて,企業内にシステムを導入することの難しさを体感していました。これが,サイボウズのグループウエアの原点につながります。「ソフトの品質が悪いと,導入してくれた管理者が辛い思いをすることになる。みんなのためにやっているのに。手間ひまかけて導入してくれたのに。それなのに,世の中のソフトはバグばっかりだ。企業内のシステムは,もっとシンプルで,もっと安定して動作しないといけない。機能は二の次だ。管理者が楽をできないといけない」。強くそう思うようになりました。