2月5日に「じょうとうIT経営大賞」受賞企業が発表され「表彰式と記念セミナー」が開催されました。

 この「じょうとうIT経営大賞」は,東京都の城東地域(江東区,墨田区,江戸川区,葛飾区)において,『自社の経営革新に,戦略的にITを活用して,元気いっぱいである中小企業』を発掘・選出して表彰するものです。

 私も,その表彰式とパネルディスカッションに参加させていただきました。その後の懇親会では,受賞企業の経営者・担当者のスピーチを伺う好機もありました。そして,Webサイトだけでは計り知れない受賞企業のITと人材の活用についても垣間見ることができたのです。

 だからこそ,もったいないと感じざるを得ませんでした。受賞企業の方々がスピーチで発表していた「お客様満足につながるIT活用法」を,もっとブログで発信すれば良いのにと感じたのです。受賞10企業の中では,わずかに,最優秀賞の竹内工業株式会社と優秀賞の株式会社浜野製作所がブログを積極的に活用していました。驚くことに,両社とも,対法人向けのB to Bビジネスを展開する企業でした。

竹内工業に学ぶ自社技術情報発信の意思

 最優秀賞を受賞した竹内工業は,口紅などの化粧品容器製造で独自の地位を築くメーカーです。早くからシステムの自社開発体制を整えて,生産管理等にITを活用してきました。

 大手化粧品メーカーの陰で,日夜,高度な要求に応えてきた結果,今の地位を築かれた「知る人ぞ知るものづくり企業」です。

 普通ならば,大手化粧品メーカーとの一業種一社のパートナーシップという安定的な関係があると,そこに安住してしまいそうです。下請型中小メーカーの習いで,新規開拓も諦(あきら)めてしまうかもしれません。

 一般的に,個人向け商品を扱うB to C型の企業に比べて,法人向け販売や委託加工を行うB to B型の企業は,情報発信がおろそかになりがちです。とりわけ,寡占化が進む業界で一定以上の地位を築いている企業の方が,新規顧客開拓のための情報発信を疎んじている場合が多いでしょう。

 しかし,どんな安定的な関係であれ永続するとは限りません。中小メーカーにとっては,売上高トップの販売先への依存度を,総売上高の2割未満に抑えることが経営課題の1つでしょう。販売先1社あたりの依存度を下げながら,異業種異業態にも幅広く取引のご縁を広げていくことが,企業存続のために欠かせないのです。

 そのためには,自社の優れた技術や商品について,安価で検索にも強いブログを中心に広くPRを続け,常に新規開拓を続けることが重要になります。

 竹内工業のホームページを見れば,明らかに現状に対して健全な危機意識を持ちながら,情報発信を始めていることがわかります。この販売先拡大への強い意志こそが,中小企業がブログを活用するために最も大切な必要条件なのです。

竹内工業ではホームページ自体をブログで作成

 竹内工業のホームページは,よく見慣れたB to B型の企業のホームページとは似て非なるものです。「化粧品容器工房」は,まさに現場からの日常的な情報発信を志向しているように見えるのです。

 私は毎年,金型関係では日本最大の中小企業電子市場「エヌシーネットワーク」主催のホームページ大賞で審査委員を務めています。それらの入賞サイトと比べても,竹内工業のホームページは,かなり先進的な試みがされています。

 まずは,ブログベースで作られていることが,竹内工業のWebサイトの特長です。

 B to B型メーカーや加工業者の場合,保有する機械設備や技術情報を中心に,ひとたびホームページを作成してしまうと,情報の更新はおろそかになりがちです。いわば,会社案内を印刷したら,しばらくそのまま配布するのと似た活用法です。

 しかし,ブログの仕組みに基づいてWebサイトを作ることで,より役立つ情報を,大量に,頻繁に,安価に,しかも自前で情報発信することが可能になります。ホームページの更新を,いちいちIT担当者や外注業者に依頼しなくとも,その業務に最も精通し思い入れが一番強い担当者が,いわばセルフサービスで情報発信できるからです。

 昨今は,コンプライアンスや内部統制が話題ですが,統制のルールを作ることと合わせて,現場担当者ブログで「顔が見える」ようになることも社内のモラルアップにつながると考えています。

 ひょっとしたら,現場担当者ブログを放任すると,内部告発が増えるのではと心配される経営者もいらっしゃるかもしれません。しかし,トラックの後ろにドライバーの名前を掲示するだけで運転がていねいになるように,顔が見えるブログを社員に用意することは「仕事への誇りと責任を生む」一助になるのです。

情報発信を問い合わせや受注に結び付ける3メニュー

 竹内工業のブログ型ホームページは,以下の3つのメニューで構成されています。そのユニークなメニュー名と説明文を読めば,お固い製造業者のホームページとは違う印象を持たれるはずです。


1.Trend Research「チョット気になるあの商品」
  容器から見た「紅・トレンドリサーチ」。弊社独自の分析による推定部分のブレはご容赦下さい。

「新製品トピックス」期間内に発売された気になる口紅容器の分析。「製品傾向」時系列に特定項目を追跡。「アーカイブス」過去の口紅容器の分析表など。

2.Takeuchi Collection「こんなのできちゃった」
  新作表面処理画像を見たり,サンプル見本へのご応募が出来ます。

「特徴・コンセプト」制作過程で何を考えていたのか。「多方面評価」物性・コスト・デザイン限界などの利欠点。「サンプル応募」現品の見本を差し上げます。

3.Needs Index「カラクリ瓦版」
  ニーズ分析・考察,アイデアに関する事をまとめています。

「ニーズ対応構想」スリム化・紅の生産性・リサイクルなど。「新ニーズ募集」メカでお困りの方はご覧下さい。


 いずれのメニューも,これまで社内に蓄積してきた情報を無理なく有効活用しながら,見込み客の興味も惹きそうな内容ばかりです。実は,ブログに書くべき情報をは,特別に「新規生産」しなくても良いことがわかります。自社の「当たり前情報」が,実は異業種の新しいお客様の「驚き情報」となって感動を生むことも多いのです。

 こうして社内に埋もれていた情報を,各社員が肩の力を抜いて発信することで,いずれ新たな問い合わせや受注につながることでしょう。

 そればかりか,現場担当者が代表者として「ネットの表」に出ることで,自らの仕事に誇りと責任を持って臨むようにもなるはずです。より積極的に自己研鑽(さん)や商品・サービス・技術開発に取り組む社員も増えましょう。

 誰もが発信できるブログベースのホームページと,機密漏洩のためのルールをいくつか整備して徹底するだけで,販売促進と社内活性化が同時に実現できそうです。

浜野製作所は2つの外部ブログを有効活用

 もう1つのブログ活用企業,浜野製作所は,板金,レーザー,プレス,金型のエキスパート集団です。超短納期で試作1個から量産まで可能にしています。

 同社のホームページはオーソドックスなWebサイトですが,その目立つところに2つのブログへのリンクバナーがあります。

 1つは,2007年1月に始まった社長ブログ「墨田の板金屋社長の駄話」です。駄話と謙遜しつつも,開口一番,尊敬する松下幸之助翁,稲盛和夫氏の言葉を引用しながら,さりげなく経営理念について書いています。また,最近のブログ記事は,ディズニーランドのイマジニアの話です。

 始まったばかりでまだ記事の数は少ないのですが,家族の話題であれ,IT大賞の授賞式であれ,どんな話題を書いても,経営の話題に結びつくところが,中小企業の社長ブログの特長でしょう。社長のパーソナリティが企業の個性や信用に結びつきやすい中小企業では,こうした社長ブログは情報発信の1つとして大切だと考えます。

 もう1つは,既に80件もの記事が蓄積されている「墨田の板金屋の一日」です。

 ブログのプロフィールには「墨田の精密板金屋の事件だらけの日々をお送りしたいと思います」とあります。記事を読みますと,社長以下,幹部,社員が持ち回りで記事を書いているようです。いわば社員発信ブログでしょう。

 既にブログに親しんでいる社員が多いのか,社長と同様に熱い内容が多くて驚きました。

社員共用ブログには署名と顔写真を入れよう

 竹内工業も浜野製作所も,現場社員を主人公にしてブログで情報発信をしよう,併せて社内を活性化しようという試みです。

 しかしながら,少々残念に思えますのは,両社ともブログ記事に「書いた社員の署名」がないことです。「顔が見えるブログ」にして,社員のプロ意識を高めるためには「顔写真入りの署名記事」にしていく必要があるでしょう。

 社員それぞれが顔写真入りのブログ署名を作ることは,技術的にも予算的にも決して難しくはありません。顔写真は,デジカメで笑顔の写真を撮リ合って,あらかじめ画像をブログの画像データベースに登録しておけば良いでしょう。あとはリンクするHTMLタグを書けば毎回の手間は省けます。

 また,個人プロフィールへのリンクも用意したいところです。1つの会社ブログに複数のプロフィールを登録するのが難しいようでしたら,各人がmixiなど個人SNSにプロフィールを作成してリンクすれば良いでしょう。

 こうして,ブログ責任者が「顔写真表示リンク」「プロフィールURLリンク入りの社員名」「ホームページURLリンク入の会社名」をHTMLタグで加えた標準署名テキストを作って,社員に配布すれば良いのです。各社員は,そのテキストをデスクトップに保存して,あとは記事を書いた文末にコピー&ペーストすれば簡単です。

 例えば,私の場合でしたら,さまざまなホームページ素材を活用して

<IMG SRC="http://img.allabout.co.jp/pts/gd_photo/tshirt_l.gif" align="left">
<a href="http://t-galaxy.com/" target=_blank>久米繊維工業</a>
<a href="http://kume.keikai.topblog.jp/" target=_blank>代表取締役</a>
<a href="http://blog.canpan.info/meiji_venture/profile"
 target=_blank>久米 信行</a>

と記述したテキストを保存しておくことになるでしょう。そして,毎回,記事を書いた後で,このテキストを文末にコピー&ペーストするだけで,以下のような署名付きの記事が完成するわけです。

 久米繊維工業 代表取締役 久米 信行

 たかが顔写真と名前と侮るなかれ。私もオールアバウトのTシャツガイドを務めておりますが,同社によれば,やはり顔写真が信頼の決め手になるのだそうです。

ホームページのブログ化と,社長ブログ/社員ブログ連携

 竹内工業と浜野製作所のブログ活用事例をうまく掛け合わせると,中小企業のホームページの目指すべき姿が見えてくるでしょう。

 まずは竹内工業に習って,単なる会社案内のホームページから脱皮して,日々社内情報を発信するブログ的なホームページに刷新します。

 さらに,ホームページから社長ブログと,社員共用ブログを独立させて,相互にリンクし合います。その後,社員ブログも,いずれは共用から各人独立のブログへと進化させましょう。

 どちらかと言えば地味な法人向け中小メーカーである2社でも,こうしてブログ発信を始めています。業種や業態を問わず,企業規模も問わず,今から全社ブログを展望した情報発信を始めれば,きっと新たなビジネスパートナーとのご縁が広がることでしょう。そして,社員の自己実現と企業の調和的発展が一致する,オーケストラ経営の端緒になるでしょう。