「最近どうですか?」「仕事は問題なくやっていますけど、イキイキ感はありませんねぇ」と浮かない表情のMさん。周囲からの期待に充分に応え、その仕事ぶりを誰からも認められ大評判だというのに、どうしたのでしょうか。

できるように、がんばっています

 現在の仕事に就いた当初、コツをつかむためにMさんは相当頑張られたと聞いています。必要なスキルを身につけたり、そもそも何を期待されているのか深く考えたり。Mさんに限らず、仕事の目標を期毎に上司と共有してその達成へと活動し、成果を確認しあうようなことが、多くの職場で行われていますよね。また、「入社して○年目ぐらいには、○○ができるように」といった基準に向けて、○○ができるように努力しているひともおられるでしょう。

 これらは、「すべきこと(must)」と「できること(can)」のギャップを埋めていく行為で、絵でみますと、「mustの輪」に「canの輪」を近づけて、重ねていくことですね。重なっている部分が大きくなるほど、周囲の期待に応えられていることになるため、評判も良くなり、本人も「できる自分」を実感することができます。できなかったことができるようになるという、素朴な喜びもありますね。

できるけど、楽しくありません

 相手の要求に忠実に応えることに、やりがいを感じるタイプのひとは、上司の指示を仰ぎ、その意向に沿う行動をすることに馴染みやすく、むしろ指示されたとおりに力一杯働くことが生き甲斐といえるかもしれません。このような場合は、とりあえずは幸せかもしれませんね。(とりあえずというのは、あらゆる要求に応えようとして破綻するとか、途中で環境や方針が変わったときに「裏切られた」気持ちに陥ることがあるかもしれないからです)

 でもMさんの場合は、それだけでは、やりがいを感じられないようです。すべきことができて、周囲からも認められていれば幸せじゃないかという声もあるかもしれませんが、Mさんにとってはそうではないのです。「できる」という事柄のなかにも、好きでしたいことと、できるけどしたくないことがあります。要求されたからといって、或いはできるからといって、自分にとって意味や価値の見出せないことをしつづけたくないし、そのことで褒められても嬉しくないとうわけです。Mさんは真面目に仕事をされていますが、いまひとつイキイキしていないのは、自分のこだわりや信念を発揮できていないためだったのです。

自分にとっての意味や価値

 「すべき」と「できる」のほかに、「したい」という要素がとても大事です。「したい」というのは、個別具体的な業務内容というよりも、どんなときにも大事にしているこだわり、譲れないこと、自分にとっての意味や価値、信条というイメージです。例えば、前例のないことへの挑戦、仕上がりの美しさ、自分にしかできないこと、とにかく1番であること、使い手にとっての便利さ、などなど様々にあるでしょう。同じアプリケーションエンジニアであっても、エンドユーザーの喜ぶ顔を見るのが嬉しいひとや、これまでにない画期的な仕組みを提供することにワクワクするひとや、手を動かしている最中に我を忘れるほど夢中になれるひとなど、大事にしていることや意志(will)が各々にありますよね。これを「willの輪」で示しますと、「mustの輪」「canの輪」「willの輪」が重なっていると、そしてその重なりが大きいほど、やりがいを感じられますし、イキイキと働くことができますよね。

 Mさんの場合は、willがはっきりしているため、上司とも相談して、(ハードルがあったとしても)担当業務にそれらの要素が含まれるようにアレンジしようということになりました。周囲の方々にもwillの重要性が理解されることをわたくしも願っています。(will・・・意志、望み、願い、欲するところ など)

何が大事かわからなくなってしまった

 ところで、「自分自身のwillがわからない」というひともおられます。明確なものではなくても、或いは、途中で変わることもあるかもしれませんが、「こんなことをしたい」とか「こんなことが好きだ」などのwillは本来は誰にもあるでしょう。しかし、仕事を続けていくなかで、「mustの輪」と「canの輪」を重ねることにエネルギーを費やしている間に、willが置き去りにされてしまうことがあります。重症になると、mustのことを、willだと思い込んでしまうこともあるようです。mustをcanにすることに精力を使い果たし、willに目をむけないようにしているひともおられるかもしれません。

 「どうせ仕事なんてこんなものだ」と開き直ったり、流してかかったりすると、心のモヤモヤは感じなくて済むかもしれませんが、自分を小さく収めてしまい、仕事の楽しさや果ては生き甲斐まで押さえ込んでしまうのではないでしょうか。これほど長い時間を仕事に費やしているのに、やりがいや楽しいことは全て仕事以外のところにあるというのでは、虚しいです。逆に、自分にとって大事なことやこだわりがはっきりしていると、困難な状況や‘あちらを立てればこちらが立たず’といった迷える場面でも、一貫性のある自分らしい行動をとることができるでしょうし、後悔も少ないでしょう。

ミドルこそwillを大切に

 若いうちから開き直って過ごすのは全くもったいないことですが、これまで「mustの輪」に「canの輪」を重ねることによって生き伸びてきた、ミドル世代こそ、一度立ち止まって自分のwillを再確認したいものです。20歳前後から60歳代まで働くとしてその真ん中あたり、仕事生活や人生の折り返し地点が近づく頃に、これからの仕事生活で「mustの輪」と「canの輪」と「willの輪」を近づけ、大きく重ね合わせていけるように、自分のなかでの再スタートをできると、幸せなキャリアにしていけるのではないかと思われます。なにも転職するとか離婚するとか山に籠もるとかいう大袈裟なことではなく、自分の心の内で、考え方を新たにするということです。

 わたくし自身も、なかなかすんなりとはいきませんが、仕事柄キャリア研修のような場に居合わせることが多く、セッションのなかで、これまでの仕事を振り返って、ワクワクした、嬉しかった、逆につまらなかったなどの経験から、自分自身のwillを思い起こしたりします。実際の生活では、「mustの輪」が「willの輪」と逆方向へと広がるように感じる場面もあり苦戦していますが、それでも、自分の行動次第で「willの輪」と重ねていけると心に刻んで、一日一日を過ごしています。なぜなら、mustを果たせなければ辛い目にあうという、不安や恐怖をきっかけとした頑張りばかりでは、暗いし疲れてしまいますから。長期に亘って明るく前進しつづけるには、willつまり希望や夢を見出せないと、やっていかれないと実感しています。仕事に追われてばかりというあなたも、どうぞwillを思い出して、mustやcanと少しでも重ねていかれますように。

 それでは、今日もイキイキ☆お元気に。