デザインは「情報の価値」を高めるものということで,前回は私がクルマを購入するお話しを書きました。「機能の価値」よりも「情報の価値」のほうが大切だと言うことではなく,機能に大きな差がない場合,「情報の価値」が購買の決め手になる,時には機能的には低くても「情報の価値」のほうが勝る場合がある,ということでした。

 ユニクロ(ファーストリテイリング)の柳井正会長兼社長は,あるビジネス雑誌で「商品の品質開発に力を入れずにパッケージや広告にばかり力を入れるのは,経営者として失格である」とおっしゃっています。その通りだと私も思います。当然ですね。しかし,さらに言えば「商品の品質開発ばかりに力を入れて,パッケージや広告に力を入れない経営者も失格である」とも思うのです。つまり,両方に力を入れる企業が伸びていく,という時代ではないでしょうか。

 企業活動のあらゆる場面でデザインが発生しています。これらを上手にマネジメントして,経営の武器にすることを「デザイン・マネジメント」と呼びます。

 企業が行うコミュニケーション活動を挙げていくと,下図のように分類できます。業種や会社の規模によっては全部は必要ないかもしれませんが,かなり広範囲に及んでいます。経営者が一人ですべてのチェックをすることはもちろん無理です。しかし,担当者を設けてマネジメントしていく対策を立てるべきでしょう。

経営戦略・企画・広報

 この部分は企業イメージを構築していく非常に重要な部分で,企業の顔といえるでしょう。最近では,ホームページのクオリティが企業のイメージを左右する重要なアイテムになってきています。

製品・サービスの開発

 商品の形,それに伴うパッケージ,ネーミングなどの商品自体のデザインは大変重要です。お客様はこれに対してお金を支払うのですから。サービス業の場合は,説明のパンフレットやホームページがこれに当たります。もちろん,商品の品質があってのデザインです。品質が悪いのに,デザインの見栄えだけが良いというのは,消費者に対して嘘をついている行為と見られかねません。

販売促進活動

 商品やサービスを広く告知し,認識させるためのツールです。ここでも,ホームページの重要性は大きくなっています。これらのツールのデザイン自体も大切ですが,いかに活用していくか,というマーケティングの戦略がなければ,ツールという武器は効果を発揮しません。

環境創造,展示活動

 環境に関するデザインです。体を取り囲んでいるすべての要素,照明,香り,音,建材の素材感などが五感を通して情報を受け取りますので,販促ツールなどで視覚で感じる以上に潜在意識に深く入り込んでいきます。私がフォルクスワーゲンの美しい工場を見学して来たことがクルマの購買の一役になっているのも,このためです。小売店は店舗のデザインが非常に重要になってくることは言うまでもありません。

 展示会も自社のアピールをする非常に重要な場です。しかし上手にアピールできている企業は少ないように感じられます。

なぜデザイン・マネジメントが必要なのか

 経営の要素として,「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」が挙げられます。いかに優れた人材がいて,設備や資金がそれなりにあったとしても,会社のコミュニケーション活動における各ツールやアイテム,つまり,上図にあるような会社のロゴマーク,名刺,広告,ホームページなどのデザインが自社のクライアントにとって訴求しない,クオリティの低いものであったとしたら,それは経営的に足かせになりかねません。

 経営の要素としての「情報」は,ビジネスに有効な情報を「受信」するという意味で使われていますが,自社に関しての「情報の価値」を高め,それを「発信」していくという考え方も必要なのです(図の中の緑色の丸印のツールやアイテムをもう一度見直してみてください。ライバル会社のツールを集めて比較してみてください。そして,もし不安があれば,私の会社にお問い合わせください。リ・デザインさせていただきますよ)。

 自社に関しての「情報の価値」を高める,つまりデザインのクオリティを上げていくためにはデザイン・マネジメントが必要です。

 今までデザインはマーケティングの一環として語られることはありましたが,デザイン・マネジメントは,MBAでも経営学部でも教えていません。しかし,最近ではデザインがわかる(作れるではなく)経営者を育てるために,一部の大学でデザイン・マネジメントという科目として登場してきています。経営にとってデザインの重要さが見直されてきているということだと思います。

 それと同時に,経営がわかるデザイナーの育成も急務です。

 デザインは,アートではなく,アート性を伴ったビジネスの武器だと考えます。ビジネスに関して疎いデザイナーがビジネスの武器としてのデザインを作ることがはたしてできるのか。私を含めて,デザイナーも考えるべきことだと感じています。これからは経営者とデザイナーとが共通言語を持ち,一緒になってプロジェクトを運んでいくことがビジネスの成功には必要だと思うのです。