インディペンデント・コントラクター(Independent Contractor)という言葉は、すでにお馴染みでしょうか。企業に雇用されず独立して、専門性を発揮しながら様々な企業の仕事を(業務委託契約などで)するひとのことをそんなふうに呼びますね。Hさんもそのひとりで、SI企業でシステムエンジニアとして10数年間勤務された後に、独立されました。

 突然ですが、あなたはチャンスがあればインディペンデント・コントラクター(以降IC)として仕事をしてみたいと思われますか?今あなたがICになったとしたら、専門性を発揮して次々に様々な企業で活躍できそうですか。「○○という企業の社員」という修飾が無い状態で、自分の身体ひとつで、世間でやっていけそうですか。Hさんは独立してから数年経ちますが、次々にやりがいのある仕事をしながら、ハッピーなキャリアを歩んでおられるようです。いくつもの企業がHさんに仕事をして欲しがる理由はどのあたりにあるのでしょうか。わたくしなりに考えてみました。

専門性の旨みと鮮度

 企業からみたHさんの魅力として、まず専門性の高さがあげられます。HさんはSI企業に勤務されているときに、金融機関のシステムを担当されていました。金融商品そのものや販売や事務の流れはもちろんのこと、業界のトレンドから歴史、背景などにもとても詳しくていらっしゃいます。ITの専門家ですが、金融業界の方々とごくスムーズに深く込み入った議論をし提案もされます。このような専門性は、何といってもICの特徴ですよね。専門性を提供することによって、企業に雇用されずに働くひとたちというと、従来は弁護士や会計士などの専門職がイメージされたかと存じますが、広い意味でのこのような領域に、ITプロフェッショナルが参入しだしたともいえるかもしれませんね。

 ただ専門性といっても、‘昔とった杵柄‘だけで、Hさんがその後何年も活躍されているわけではありません。様々な企業の仕事に誠実に取り組み、それぞれの企業の方々や協力会社、他のICの方々と真剣にお付き合いをするなかで、常に新しい知識や技術を磨いておられることがうかがえます。企業では、雇用している社員に対する、様々な形で教育の機会が設けられますが、独立しているICの方々は、自分で自分に時間とお金をかけて、ブラッシュアップをし続ける必要がありますよね。しかも、トレーニングしている間に別の人が仕事をしてくれるわけではありませんから、仕事をしながら、或いは仕事を請ける期間(請けない期間)を調整して、自分を磨き続けておられるとのだ思われます。

組織文化への適応

 またHさんは、担当される業界や企業の文化や、そこで働くひとたちの価値観などを深く理解して仕事をしておられます。もとよりSI企業に所属されていた頃から、上司や先輩から可愛がられ、後輩から慕われるといった人望のあるHさんでした。しかし、ICという外部者の立場で各企業に入り込んで、その企業のメンバーと共にハイレベルな仕事をしていくには、短期間でそこの文化を理解したうえで、信頼を得られる言動をされているのではないかと想像されます。文化というのは、独特の用語や言葉遣い、挨拶の仕方から会議の進め方等などの暗黙の了解のようなものですね。本人がそれを意識的にされているかどうかは別として、そのような要素は重要だと考えられます。というのは、いかに分業が進んでも、システム開発はチームとしてのワークであり、そこでより効果的に価値を生み出せないと、‘代替可能な労働力’になってしまうからです。代替可能だったら「ぜひHさんに頼みたい」とは言われないですよね。

ネットワーキング

 ICとして優れているといっても、自宅で黙ってじっとしていては、ビジネスになりそうもありません。Hさんは、自分という商品の魅力は何か、それをどこにどのように提供するのが効果的か、条件はどうか、収益はどうかなどを自分で考えて決断し、各企業との仕事を成立させておられるのでしょう。自分が自分の社長であり、営業をし、経理も人事もするという感じでしょうか。まさにIndependent な(独立している)Contractor(契約者)ですね。それができないと、ビジネスとして継続していかれないでしょう。

 仕事探しと交渉や、税金・保健などの事務をしてくれるエージェントもあるようですが、自ら仕事を選び取っていくには、ネットワーキングが欠かせないと思われます。特定企業だけでなく、幅広い領域で魅力的な仕事に出会い続けるひとは、様々な人々と繋がりがあり、業界やその周辺で「できる人」として名前があがる程の評判を得ておられます。組織の人間関係が苦手でフリーランスに憧れる方もおられるかもしれませんが、独立して仕事をするには、人とのつながりが一層重要になります。

ICとして働く魅力

 ICとして仕事をする魅力について、「自ら仕事を選んでいる、と思うことができる」ことだとお聞きしたことがあります。この「~と思うことができる」というところが重要なポイントだと思います。Hさんの場合も、わがままや自分勝手な都合だけで仕事を選んだり、投入するエネルギーを変えたりはされていません。担当する企業のためになるような、真にいい仕事をしたいという信念をもって、時には深夜や休日も厭わず、打ち込んでおられます。だからこそ、信頼もされ継続して仕事を得られているのかもしれません。しかし、ここぞという場面では、自分にとっての価値基準で仕事を選ぶ(断る)ことができるところが、充実感や安心感につながっているように思われます。

 一般にICのなかには、金銭的報酬や時間、勤務場所、職場環境など、自分にとっての価値を重視して、仕事を選びたいというひとが多いようです。企業に雇用されることによって、業務内容も勤務場所も労働時間も働く仲間も、自らの意志では決められないことを、とても不自由に感じているひとにとって(守られている側面もあるはずですが)、「選べる」というのは大きな魅力ですよね。だからこそ、一目置かれる仕事振りを発揮し、ネットワーキングや自分磨きを不断に行っておられるのでしょう。

企業内のITプロフェッショナル

 独立して仕事をする専門家としてのICについてお話してきましたが、このようなプロフェッショナルの登場によって、企業に雇用されているITプロフェッショナルにも似た要素がでてくるように思われます。専門性で価値をうむ、自らを磨き続ける、知識・技術だけでなく組織の文化に敏感である、ヒューマンネットワークを築く、自分をプロテュースするなどの要素は、企業内のITプロにも、自分らしくイキイキと仕事を続けていくうえで、今後ますます必要になってくるでしょう。

 また、ITプロを雇用する側の企業も、この動きに鈍感ではいられませんね。優れた自社要員が流出し、コアコンピタンスにあたる業務まで外部に頼らざるを得ないような空洞化が起きないとも限りませんから。魅力ある企業であるには、3Kといわれる環境の改善はもとより、組織ビジョンの不明瞭さや、エンジニアの努力や心情を理解しない上司など、社員のやる気を損なう要因にも手を打つ必要があるでしょう。また、社員が自分らしい仕事や働き方を選択できるように、そしてその選択をしても不利益を被らないという安心感をもてるように、ハード(制度など)ソフト(企業文化など)両面の充実が、本格的に期待されます。

 それでは、今日もイキイキ☆お元気に。