パッケージ・ベンダーのサイボウズがグループウエアを基盤とするサービス事業の強化に乗り出した。「ソフトの枠にとらわれないビジネスを展開していく」(青野慶久社長)ためで、「アップルのiチューンズストアのような様々なサービスを活用できる仕掛けを作り上げる」(同)考えだ。パッケージ・ベンダーの今後の方向を示す1つの動きといえる。日米ソフト会社の調査・研究を続けている米MIT(マサチューセッツ工科大学)のマイケル・クスマノ教授も「自前のパッケージを持ち、かつサービスで差別化を図る」ことが勝ち抜く条件だとしている。

 パッケージ・ベンダーからサービス会社への転換を目指す最大の理由は、グループウエア単体のビジネスで売り上げを大きく伸ばすことが困難な点にもある。事実、日本で年商100億円を超えるパッケージ・ベンダーはオービックビジネスコンサルタント、ワークスアプリケーションズなど数社しか存在しない。株式公開企業を含めても、多くのパッケージ・ベンダーは年商10億円から50億円程度にとどまっているのが実情だ。サイボウズも07年1月期に、売上高は100億円程度に到達する模様だが、経常利益は5%程度と低い。売り上げが伸びたのも、M&A(企業の買収・合併)によるところが大で、中核のグループウエア・ソフトの売り上げは約30億円である。

 青野氏によると、日本のグループウエア市場は約200億円で、「当社の売り上げ規模で(本数で)国内トップシェアである。なので、取れてもせいぜい100億円がいいところだ」。パッケージ・ベンダーが育たないのは、「IT産業のカスタマイズ主義にある。パッケージを活用してもカスタマイズが発生すれば、それに開発者がとられてしまう。当社の企業規模では何社かの顧客を獲得すれば、その後の受注が取れないことになる。これが、パッケージ・ベンダーの成長を止めている要因」と青野氏は考えている。

海外展開の強化

 とはいいものの、核とするグループウエアをより強固なものに仕立てていく必要がある。そこで、開発体制を強化する一方、海外展開を推し進めていく。実は5年前に米国に現地法人を設立しているが、黒字化できず05年に撤退するという苦い経験をした。「(IBMやマイクロソフトなどの)メジャープレーヤーと戦う基礎体力がなかった」(青野氏)からだ。十分な広告宣伝費を用意し、ローカライズするための技術者を確保するにはコストがかかるし、「マイクロソフトやIBMは、米国市場で決して負けないと強く思っているだろうから、そこでの戦いは泥沼化する恐れもある」(同)。

 この失敗経験から、青野氏はアジアに目を向ける。「アジアは、日本のブランドに好意的だし、高品質と思っている。07年中になんらかのアクションを起こす」(同)とし、販売網作りなどから着手する。「アジアはこれからの市場」ということもあり、帳票ソフトのウイングアーク テクノロジーズやSFAのソフトブレーンなど中堅・中小パッケージ・ベンダー10社強とMIJS(メイド・イン・ジャパン・ソフトウエア)と呼ぶコンソーシアムを立ち上げ、協業して市場開拓する計画もある。「これまでこつぶなソフト会社が海外にチャレンジしてきたというイメージがある。各社がバラバラに販売展開しても勝ち目はない。そこでMIJSに集まって海外にも出ていく。コンソーシマムは国内の弱者連合ではない」(青野氏)。

 開発体制面では、ベトナムと愛媛県松山市に開発拠点を設置する。ベトナムにはまず約10人を配置し、既存パッケージソフトの改善・改良にあたる。松山は08年4月に約10人でスタートする。両拠点とも人材確保という意味合いもある。

 その上に、提供するサービス内容を拡充させていく。その一環からブログソフトを開発するブログエンジン、モバイルサービス事業を展開するインフォニックスなどサービス会社の買収や資本参加をしてきた。例えば、グループウエアに登録したスケジュールを外出先から携帯電話で確認し、出張先のホテルや航空機などを予約・手配するといったサービスを提供する。SFA(営業支援システム)ソフトなどグループエアの周辺ソフトベンダーを傘下に取り込む一方、運用まで請け負うASPサービス事業も開始している。

 青野氏は「3年から5年以内に売上高300億円、経常利益率10%を実現させたい」とする。グループウエアの新規顧客を開拓し、付加価値の高いサービスを提供する。「グループで情報を共有する対象は、企業とは限らない。地域コミュニティや家庭にもグループが存在する」。そんな事業を展開していく考えだ。