オフショア活用というと少なくとも、大本の基本設計やマネジメントは日本国内でやるものだと思っていた。中国やインドのソフト開発会社を使っても、国内の大手ITサービス会社、あるいはユーザー企業自身が仕事を発注し、進捗などを管理する。だから、オフショアリングによって仕事がなくなるのは下流工程、それが常識だった。でもそれは、どうやら間違っていたらしい。

 日経ソリューションビジネス1月15日号の特集で、海運会社のCIOのインタビューが載っているが、その中で「海運業務システムの領域では日本のSIerの出る余地はないし、必要もない」と彼は語る。しかも、システムの開発は米国で行い、その運用はインド企業に任せるという。この運用のオフショアリングのマネジメントは米国で行う。つまり、システムの開発から運用まで日本のITサービス会社に出る幕がないだけでなく、ユーザー企業のIT部門の機能も海外だ。

 第一感では「せめてオフショアリングのマネジメントぐらいは、日本国内に残しておいた方がよいのでは」と思ったが、よく考えると、これはとても良いやり方かもしれない。日本企業のオフショア活用は、ユーザー企業はもちろん、多少経験を積んだITサービス会社もまだまだ苦手。そうであるならば、オフショア活用で一日の長があり、多くの経験・ノウハウを溜め込んだ米国でマネジメントをやらせた方がよい。

 今後、こうした事例が増えてくるのだろうな。海運会社といえば最もグローバル化した業種だが、製造業も中堅・中小を含めどんどんグローバル化している。あのドメスティック・カンパニーの“雄”である銀行も、最近では猛烈な勢いでグローバル化を急いでいる。そうなると、海運業務システムといった現場の業務に直結するシステムは、日本で作り、運用する必然性はなくなる。最適の場所で開発・運用・マネジメントを行えばよい。

 ただ、そうなると日本のITサービス業の“空洞化”もどんどん進展してしまう。この海運会社のCIOは「本社機能のブラッシュアップに関する提案は、日本のSIerに期待している」と話している。でもそれって、単なるリップサービスかもしれない。グローバル企業の経営システムについて、どうやったらドメスティックなITサービス会社がソリューションを提案できるのだろう。

 このままでは、グローバル企業である外資のITサービス会社に日本市場をどんどん侵食されていくだろう。何もIBMだけの話をしているわけではない。最近では、カラオケで『あの素晴しい愛をもう一度』を完璧に歌いこなせるインド人の営業が、日本の大手ユーザー企業を訪問しているらしい。日本のITサービス会社も、何が何でも海外に出て行くしかない。それは国内市場を守る道でもある。