企業のブログ活用を考えると,本来,大企業の方が有利な場合も多いはずです。なにしろ,全事業所,全部門,全社員でブログを毎日書いたら,その情報発信量は圧倒的です。検索エンジン対策には更新の頻度や量が重要になる(関連記事「RFMを極めたブログが検索エンジンに勝つ」)という観点からも,全社員によるブログ更新は大変効果的なのです。

 しかし,多くの大企業経営者や広報担当者は,社員に好き勝手にブログを書かせることにリスクを感じているようで,まだ踏み切れていないようです。

 そんな中,カメラのキタムラでは560店舗の各店にひとつずつブログを用意して,積極的な情報発信を続けています。そこで,そのブログ効果を検証しつつ,同社のチャレンジ精神にエールを送る意味でさらなる活性化案を考えてみます。

Googleで「カメラ」と検索すると2位(2007/1/13現在)

 560店舗ブログの効果で,最も顕著なものは,主要キーワードで検索した時の表示順位でしょう。

 カメラのキタムラの場合,最も重要なキーワードはもちろん「カメラ」です。2007年1月13日現在,Googleでカメラと入力して検索をしますと,なんと1億3100万件ものサイトがヒットして驚きます。この超過当競争キーワードの中で,カメラのキタムラは見事2位に表示されています。

 1位が価格比較サイト「カカクコム」というのは,生活者主導のネット社会を象徴する現象で,やむを得ないと思います。しかし,カメラのキタムラが,数あるカメラ量販店,著名ネットショッピング・モールはもちろん,世界に冠たるカメラ・メーカーを抑えて,堂々と2位に表示されているのは立派でしょう。

 同様にデジタルカメラ,デジタルカメラプリントと入力して検索してみますと,やはりカメラのキタムラのWebサイトは,それぞれ558万件中11位,141万件中1位に表示されます。こちらも検索エンジン対策万全の立派な結果です。

3つの主要キーワードで何人集客できたか

 こうした検索結果が,インターネット上でどのような広告効果を持っているのか,キーワードアドバイスツールプラスを使って詳しく検証してみましょう。キーワードアドバイスツールプラスは,ある月に,どのようなキーワードでそれぞれ何回検索されたかを無料で調べてくれるサイトです。このツールを使えば,どのようなキーワードで広告を出せば効果的か,どのようなキーワードを盛り込んでWebサイトやブログを構築したら良いかを知ることができます。

 キーワードアドバイスツールにカメラと入力して検索した結果を合わせてご覧ください。

 2007年1月13日現在,カメラというキーワードで検索された月間の回数は,7万4251回となっています。同様に,デジタルカメラは23万6538回,デジタルカメラプリントは9万6070回という月間検索回数になっています。おそらく,この3つの主要検索キーワードで検索した方は,上位表示された「カメラのキタムラ」のサイトに注目したでしょう。そして,同社の名前を知っていた人も知らなかった人も,かなりの割合でサイトを訪れたのではないでしょうか。

カメラのキタムラで検索する人も多い

 キーワードアドバイスツールプラスの結果で,さらに驚いたことがあります。

 カメラに関連して,よく検索されたキーワードの上位を見ますと,ヨドバシカメラ,デジタルカメラに続く第3位が「カメラ キタムラ」だったのです。実に12万4457 回も検索されていて,カメラの7万4251回,デジタルカメラプリントの9万6070回を上回っています。

 もちろん,全国に展開している一大チェーン店ですから,もともと認知度は高かったでしょう。しかし,ここまで回数が多いということは,ネットで同店を検索すれば何か良い情報が見つかる,と考えている人が多いことを意味します。

 おそらく560店舗のブログ効果は,単に主要キーワードに対する検索エンジン対策になっているだけではないのでしょう。店名での検索回数の多さを見ても,常連客ばかりか,新規客,見込み客をネットに集客しつつあると思われます。

トップページから全店舗共通書式のブログへ

 それでは,さっそくカメラのキタムラWebサイトと店舗ブログを見てみましょう。

 Webサイトのトップページ右上の目立つ位置に,「キタムラ店舗情報」のコーナーが設置されています。そこには「全国560店の店舗ブログ(住所・電話番号・地図はこちら)」と明記されリンクされているのが特徴です。

 通常ならば,こうした店舗案内は,各店舗の住所・連絡先・地図が明記された程度で済まされがちです。しかし,カメラのキタムラでは,各店舗がブログ形式のWebサイトをそれぞれ持っているのです。

 地図や検索をたどって,各店のブログを訪ねれば分かる通り,どの店舗ブログも共通のメニュー構成になっています。このメニューは,店舗ブログのカテゴリーを全店共通で設定したもので,「店舗トップ」の他は,「お知らせ」「セール・キャンペーン」「撮影会・教室」「中古カメラ」「写真展」「地域情報」「全国トップ」「県トップ」と続きます。この共通メニュー(カテゴリー)のおかげで,読者は情報を探しやすく,店舗スタッフは記事を書きやすくなっています。

 また,各県のトップページに行けば,同じ県内の全ブログの中から,メニュー別に情報を一覧で探せて便利です。例えば県内の「セール・キャンペーン」「撮影会・教室」情報をまとめて一覧することもできるわけです。この機能のおかげで,最寄りのお店以外にも,求めるサービスがある近くの店舗に出向くといった使い方ができるでしょう。

店別・ブロガー別の個性が見えるようにもう一工夫を

 ただし共通書式で全店ブログを作った場合,欠点が無いわけではありません。カメラのキタムラの各店舗は,もともとチェーン店ということもあり,どの店も同じような店,同じブログに見えてしまうと感じたのは私だけではないでしょう。

 そこで,店舗ブログの「地図・営業時間を見る」アイコン付近に,店舗の写真,地元の風景や名物の写真,店長やスタッフ一同の写真などを掲げるのはいかがでしょう。

 なかでも重要なのは店長かブログ責任者の写真でしょう。私はオールアバウトのTシャツガイドを勤めておりますが,この人気ネットサービスにおいても,各ガイドの顔写真が信頼・親しみ・印象を強める意味で欠かせないものになっています。

 合わせて,店長やスタッフのプロフィールもあれば,ブログを読む楽しみが増すはずです。店舗の中で複数のスタッフがブログを書いている場合もあるでしょうが,そんな場合も全員のプロフィールを知りたいものです。

 さらに,毎回のブログ記事の最後には,その記事を書いた担当者の署名とプロフィールへのリンクも欲しいところです。できれば署名に小さな顔写真を入れても親しみがわくかもしれません。

写真展や地域情報の情報量・質の充実を

 店舗ブログは,商品や店舗の写真もうまく使い,色違いテキストも多用した読みやすい記事が大半です。

 おそらく本部からも,記事の元になる画像やテキストを提供しているのでしょう。しかし,その影響もあってか,チラシの延長線上にある商品情報ばかりなのが少し残念です。

 ネットで情報を積極的に集めるお客様方は,写真用品のみならず,写真を撮る楽しさや経験も合わせて提供しなければ,感動してくださいません。それこそ,カカクコム的な価格競争の世界に巻き込まれてしまいます。

 ハーレーダビッドソンのバイクに乗る愛好家が,旅行を楽しみながら全国のハーレーショップを回って結束感を強め,ブロンドロイヤリティを高めているように,カメラのキタムラも写真愛好家のいわば巡礼の拠点になる必要があると考えます。

 おそらく,同社の経営陣もそれを考えて,店舗ブログの共通メニューに「撮影会・教室」「中古カメラ」「写真展」「地域情報」などを入れたのでしょう。しかし,そこに情報がひとつもない店舗も目立つなど,今ひとつ活性化されていません。

 2007年問題は,裏返せば同社にとってはチャンスです。被写体を求めて全国をわたり歩くシニアが,観光案内所や交流サロン代わりにカメラのキタムラを訪ねたくなるような仕組みを,ブログ連動で考えれば良いのです。

 各店舗の周辺で最も美しく写真が撮影できる「秘密のおすすめスポット」や,そのお手本となるお客様の作品の額装やファイルを,店舗の一角で紹介するだけでも効果があるはずです。合わせて,こうした地域情報やお客様作品の一部を各店の店舗ブログで公開していけば,「撮影旅行のスタートは,まずカメラのキタムラのブログと店舗から」と思っていただけるかもしれません。

 一歩進めて,店舗発-店舗解散のご当地撮影ツアーを企画しても良いでしょう。こうしたミニオフ会では,もちろん,地元の人しか知らない「とっておきの美味しいお店」での食事や,日帰り温泉での乾杯を盛り込みます。何しろ,こうした小旅行やオフ会の情報ほどブログで盛り上がって,相互にコメントやトラックバックの縁が広がることはないのです。

 ぜひとも,ブログ道の「ブログ三分法」に習って,商品販売情報1/3,ご当地撮影お役立ち情報1/3,ご当地飲み食い風呂宿泊情報1/3で,バランスよく発信していただきたいものです(関連記事)。そうすれば,ブログ効果で,オン・オフ問わず「カメラのキタムラ愛好コミュニティ」が育っていくでしょう。

トップページに最新更新記事を自動表示

 カメラのキタムラWebサイトのトップページには,最新のブログ更新記事が表示されていて目を惹きます。

 おそらく自動表示されていますから,各店が平等に表示されることはありません。情報発信に熱心な店舗の記事タイトルが集中的に表示されるでしょう。

 しかし,これは会社にとってもお客様にとっても悪いことではありません。店舗立地の違いこそあれ,取扱商品・セール商品や旬のテーマも似通っていますから,自宅から遠く離れたお店の情報でも大抵は役立つからです。

 ざっと見回してみましても,各店のブログ更新頻度や記事の質にはバラツキがあるようです。しかしながら,結果としては,一番情報発信に長けたお店の情報が,頻繁にお客様に届くことになります。検索エンジンを通じて初めてキタムラのWebサイトを訪れた人も,社内で一番新鮮な現場情報に触れることができるわけです。

ブログの月間MVSとMVPを表彰したい

 ここで,私が興味を持ちますのは,ブログ記事の量が多く質が高いお店,さらには顧客からのアクセスが多いお店が,社内でどのような評価を受けているかという点です。

 熱心なお店の熱心なスタッフには,特別なインセンティブがあるのでしょうか。ひょっとしたら,各店舗を指導するスーパーバイザーが,担当する店舗のブログを熟読して,地域別に月間の最優秀ブログ店舗(MVS)と最優秀ブロガー(MVP)を選んでいるかもしれません。さらに,その中から,経営者や営業企画・宣伝広報担当のキーマンが,月間の最優秀ブログ店舗と最優秀ブロガーを選んで,社長表彰までしていたら素晴らしいと思います。

 この時,金一封やボーナス評価に加えるといったお金のインセンティブも必要かもしれませんが,もっと重要なのは名誉でしょう。

 月間最優秀ブロガーは,Webサイトや店舗入り口などでお客様にも顔写真入りで公表することは最低限必要です。あとは,ソムリエのように胸に飾ってお客様の目を惹く「最優秀ブロガーバッジも欲しいところです。1回受賞でブロンズ,3回受賞でシルバー,5回受賞でゴールドといったステイタスがあれば,なお盛り上がるでしょう。

 それを目指す店長やスタッフが多ければ多いほど,カメラのキタムラ店舗ブログはもちろん,Webサイトや店舗も繁盛することでしょう。

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 カメラのキタムラのように数百店単位で,各店舗ブログを持って積極発信する大企業が現れたことは素晴らしいことです。しかしながら,現状では,検索エンジン対策に長けた販促チラシのイメージが強いもので,各店舗での量質両面のバラツキもあるようです。

 今後,お客様志向の「個性あふれる地元お役立ち情報」の発信ができれば,きっとカメラ愛好家のコミュニティが店舗単位で形成されていくでしょう。これからの展開に大いに期待しています。