新年,明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 前回に続き,サイボウズのグループウエアが誕生するまでのお話をさせていただきたいと思います。私が最初の会社,松下電工株式会社に入社した1994年当時,社内ではまだパソコンは普及していませんでした。私が所属していたオフィスには,100名に対して,たった3台のMacintoshが置かれていただけでした。ワープロをするときはワープロ専用機,図表を描くのは専用CADを使っていました。平均的な企業よりは,ずいぶん情報化が進んでいたと思いますが,まだまだホストコンピュータ全盛の時代です。パソコンを使う人はほとんどいませんでした。

 パソコンなしでは生きていけない私としては,自分の分だけはどうにかしたいと思い,個人でパソコンを購入する暴挙に出ます。入社から1カ月も経たないときでしたが,「PowerBook520」というAppleのノートパソコンと「クラリスワークス」という統合ソフトを買います。

 合計で20数万円余りだったでしょうか。いきなり大赤字です。学生時代に貯めた,なけなしの貯金が減っていきます。直後のゴールデンウィークに帰省するために乗ったフェリーでは,ゲームセンターコーナーに立ち寄るお金もなく,ただ横になって朝が来るのを待ちました。でも,私にとってパソコンは,それほど大事な文具でした。

 このとき,面白いソフトに出会います。クラリスワークスについていたデータベース・ソフトです。大学で習ったデータベースは,専門のコマンドを駆使して,DatabaseやTABLEを作り,データを登録し,必要なデータを出力するデータ解析ソフトでした。しかし,この付属ソフトには感動しました。なにしろ,コマンドを覚えなくても,適当にフィールドを作ったり消したり,並べ替えたりしながらデータを登録できる。このときの体験が,今の「サイボウズ デヂエ」につながっていくのですが,その話はまた今度。

 その後,会社ではパソコンを導入しようという気運が高まっていきました。図表入りの報告書を書くには,Macのドローツールが快適だとわかり,使う人が増えていったのでした。しかし,たくさんのパソコンに導入するには,ソフトをインストールしたり,困ったときに助けてくれる「システム管理者」が必要です。ただでさえ忙しい会社員にとって,そんな余計な仕事を増やすのは自滅行為です。私にその仕事が回ってきたのは自然の流れでした。

「新入社員に,自分のパソコンを持ち込んでる変人がいるらしいよ(笑)」
「じゃ,そいつに手伝わせたら?」

 そんな感じだったのかも知れませんが,私にとってはとてもラッキーでした。IT化が進んでいく企業の実態を,自分の体験として経験できたのですから。そして,会社ではパソコンが普及していきました。

 このお話,もうしばらく続きます。次回をお楽しみに。