昨日の地味なニュース「中堅企業を直接営業でも開拓、日本HPがPCサーバーで新施策」が面白かった。別に、日本ヒューレット・パッカードの執行役員が紋付袴で登場したからではない。ライバル企業すらお手本とみなす中堅・中小企業開拓に向けた“米国流”の施策をHP自らが修正した、そこにちょっとしたサプライズがあったからだ。

 日本HPのx86サーバーでの新施策とは、主に販売パートナーに任せていた中堅企業に対して直接営業を本格展開するというものだ。HPと言えば、コモディティ化したx86サーバーのマーケティングでは、今やベンチマークされる存在。直販のデルに対抗して、いわゆる「ディストリビュータ-インフルエンサ」モデルで成功を収め、日本でも着々と中堅・中小企業市場に浸透しつつあるはずだった。

 ここで言うインフルエンサとは、ユーザー企業に対して強い影響力のある存在のことで、具体的には地域に根を生やした販社やITサービス会社を指す。大手ディストリビュータ(卸)をフル活用して物流を徹底的に効率化し、こうしたインフルエンサに対して価格競争力のある商材を機会損失することなく提供し、同時に導入支援ツールなどでインフルエンサを支援する。インフルエンサは中堅・中小企業と強いリレーションがあるから、直販モデルにも打ち勝つことができる----これがHPも含め外資系企業の間で定式化された間接販売の“成功モデル”である。

 ただ日本の場合、国産メーカーの強力な販売網に阻まれて、外資系企業が米国流の間接販売施策を持ち込むのは難しかった。そんな中、日本HPが初めて“成功”させた。日本IBMやシスコの人たちなんかと中堅・中小企業開拓の話をすると、必ずHPの名前が出てくるから、私もなんとなくうまくいっていると思っていた。ただ言われてみると、HPのx86サーバーの国内シェアは大企業向けで築いたものであり、中堅・中小企業向けでは大したことはない。だから、失敗ではないが成功したとも言えないというのが、順当なところだろう。

 結局、国産メーカーの販売網の壁は厚かったか。このモデルはインフルエンサ、つまり顧客の側に立ち経済合理性を働かせて最適の製品をチョイスする企業が、多数存在することが前提だ。特定のメーカーの“一の子分”であることにこだわる販社ばかりだと、このモデルは成り立たない。日本HPの軌道修正を単純に見ると、日本のIT市場の古い体質が依然として残されていることの反映と言えなくもない。

 ただ別の見方もできる。コモディティとは粗雑に言えば、どこから買っても同じ製品のことだ。その場合、買う側には二つの製品選択パターンがある。一つは、価格面などで一番メリットのあるところから買うというもの。そして、もう一つは「どうせ、どこから買っても同じなのだから、付き合いのある企業から買う」というパターンだ。

 「付き合いのある企業から買う」というのは、必ずしも“古いやり方”ではない。ユーザー企業から言うと、強いリレーションのある企業から買うことで、何かあった時に対する安心も買うことができる。米国でも、中堅・中小企業はリレーションのあるインフルエンサに依存する。日本の場合、ユーザー企業と販社/ITサービス会社の間だけでなく、販社/ITサービス会社とメーカーの間にも強いリレーションがある。だから、そんじょそこらのメリットでは、販社は“新参者”の製品を扱いはしない。

 まあ、インフルエンサの考え方から言えば、これは邪道。ただ、コモディティであっても、むしろコモディティゆえに、強いリレーションが必要と考えたから、日本HPも顧客や販売パートナーとの新たなリレーション作りを模索し始めたのだろう。やや強引だが、このことは、SaaSとかなんとか言ってコモディティ化が進むITサービスに対しても、ある種の示唆を与える。「営業なんかいらなくなる」との議論もあるが、そんなことはないだろう。