アマゾン ジャパン 書籍販売部長 古屋美佐子氏

 私は今,アマゾン ジャパンで書籍販売に関わる様々なマーケティング活動やサービス開発に携わっています。書籍部門の売り上げの責任者であると同時に,書籍を購入するお客様の満足度向上のための施策をいろいろと考え,実施しています。

 アマゾン ジャパンは,米国ワシントン州シアトルに本社を置くグローバル企業アマゾンの日本法人です。サービスの大枠はAmazon.comと同様ですが,Amazon.co.jp独自のサービスの開発も手掛けています。

 例えば携帯電話のショッピングサイトや,昨年10月に立ち上げた「お急ぎ便」などはAmazon.co.jpだけで実施されているサービスです。お急ぎ便とは,商品の詳細ページに表示された時間内に注文した場合,注文当日の夕方や夜(遅くても翌日中)に商品をお届けするというもの。「ネットで買うといつ商品がくるか分からない」という不安を持たれているお客様にお届け時間を約束することで,安心と満足を提供しています。現在は主に関東地方のお客様を対象にしたサービスですが,今後対象エリアを拡げていきたいです。

 お急ぎ便のサービスは,一見簡単なことのように思えますが,実は物流センターやカスタマーセンターなど,様々な関係各所を粘り強く説得し,調整を図ることでようやく実現したサービスです。逆に言えば,多くの関係者の協力がなければお客様にこのサービスを提供することはできませんでした。

 現在,私が携わっている仕事の内容を聞くと「どうしてITプロなの?」と不思議に思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし,インターネットでビジネスを展開するAmazon.co.jpのマーケティングは,IT業界で積み重ねてきたキャリアを存分に生かせる仕事だと思っています。

文学少女がITコンサルタントに?!

 「本の虫」と呼ばれるほど読書が大好きだった私は,大学では文学を専攻しました。ヘミングウェイやサリンジャー,シェイクスピア,ジョン・ダン,ウィリアム・ブレイク,夏目漱石などが好きな作家です。

 大学に入学した当初は「翻訳家になりたい」と考えていました。しかし,生粋の文学少女だった私が大学卒業後にまず入社した会社はアンダーセンコンサルティング(現・アクセンチュア)。ITコンサルタントがキャリアのスタートでした。

 大学を卒業した92年当時,コンピュータ・システムと通信が急速に発達,融合しつつあり,注目を集めていました。「これからはコンピュータと通信の時代。そこに英語というキーワードを加えて就職先を選ぼう」。こう考えた私は,アンダーセンの入社試験を受け,採用されました。面接の時に,「将来は自分でビジネスを切り開きたい」と語ったことを今でも覚えています。

 アンダーセンでの6年間は,仕事一色で大変なこともたくさんありましたが,非常にいい経験ができたと思います。入社して1カ月間の研修を終わるとすぐに,コンサルタントとしての仕事が待っていました。

 幾つものプロジェクトに参画しましたが、業務改革(BPR)プロジェクトの仕事が一番多かったです。システム開発のプロジェクトにも参画し、プロジェクト・マネジャーとしてプロジェクトを管理し,実行していきました。実際にプログラミングしたり,システムを構築したりするメンバーは,システム・インテグレータの方々です。皆さん,私よりも経験が長い方ばかり。システム関連の専門書を週末などに読み,他社の事例を調べたり,必死に勉強しました。しかし,若くて経験の少ない,しかも女性である私の言うことなど,なかなかすんなりとは聞いてもらえません。

 「なんとか打ち解けて,自分を認めていただこう」。こう考えた私は,仕事が終わった後,メンバーを食事に誘うなどして話し合う機会を設け,人間関係をしっかりと構築していくように心がけました。スキルや知識を身に付けることも大切ですが,人間関係やコミュニケーション力が,仕事をする上ではさらに重要なのだということを実感しました。

多様なメンバーを統率する難しさを知る

 アンダーセン時代にはコンサルタントとして働く以外にも,いろいろと面白い仕事に携わることができました。例えば2カ月間,シカゴで新入社員をトレーニングするという仕事を担当したことがあります。

 グローバル企業であるアンダーセンの新入社員研修には,様々な国や地域から入社したばかりの社員たちが集まります。私の担当したチームは,米国人,英国人,アルゼンチン人などで構成されていました。

 ある研修プログラムでは,顧客の要件を聞き,仕様を固めるという模擬プロジェクトを行いました。文化や風習などの違いから,チームの中で諍いが起きることもありました。研修をリードしていく中で,多様な背景を持つメンバーを統率していく難しさと面白さを知ると共に,相互に調整を図りながらプロジェクトをうまく遂行する勘所のようなものを習得することができました。このとき学んだ交渉力,対応力,統率力などのスキルは,その後,私がキャリアを築く上で非常に役立ったと実感しています。

 このほかにも,論理的に物事を考える思考力や分析力,計画立案力,プレゼンテーション力など,ビジネスのプロフェッショナルとして不可欠なスキルをアンダーセン時代に磨くことができました。コンサルタントの仕事は面白く,満足のいくものでしたが,6年が経った頃,私は次のステージを考えるようになりました。

自分の貢献が見える“実業”をやりたい

 コンサルタントが提案したシステムは,クライアントによって導入されるものもあれば,導入されない場合もあります。また導入されたとしても,システムがその会社のビジネスにどのように貢献したか,最終的な結果を見届けられないことが多いのです。やがて私は,「自分の手掛けた仕事が売り上げや利益にどう貢献したかがはっきりと見える仕事に就きたい」と思うようになり,“実業”への転職を考え始めました。

 もう一つ,私はキャリアを築く上で「5年後のプラン」を重要視しています。このときも「30歳ではこうなっていたい」という目標がありました。それは次のようなものでした。

1.プロジェクトリーダーになる
2.ビジネスプランを立案・作成して実行する
3.部下を持つ
4.海外で仕事をする

 この4つの目標のうち,2つ目の「ビジネスプランを立案・作成して実行する」ことは,コンサルタントを続けながら達成するのは難しいと思いました。

 そんなとき,通信ネットワーク業界で急成長を続けていたノーテルから,「固定無線アクセスという新ビジネスを日本で立ち上げる仕事をやらないか」という声がかかりました。私はいろいろ考えた結果,ノーテルへの転職を決意しました。

 次回では,ノーテルでの仕事,経営学修士(MBA)留学,ネットの世界企業になったアマゾンの戦略と私の役割などについてお話しします。

【古屋美佐子氏の略歴】

1992年 早稲田大学第一文学部卒業。同年,アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)入社。主に通信事業者向けBPRプロジェクトに従事。その後,ノーテルネットワークスを経て,2003年12月,アマゾン ジャパンに入社。書籍部門のプロダクト・マネージャーを担当。2005年10月より,書籍部門における書籍販売部長として,Amazon.co.jpのブックストアの企画・運営業務を担当。McGill大学経営学修士(MBA)