「利益率50%のソフト会社にする」。こう意気込むのは、SCM(サプライチェーン管理)ソフトを開発・販売するフェアウェイソリューションズ(東京都中央区)の柴田隆介社長だ。システム販売会社ウッドランドの創業者でもある柴田氏が、なぜフェアウェイソリューションズを設立したのか。その背景を探るとソフト業界の課題と展望が見えてくる。

 柴田氏によると、パッケージをベースにしたカスタマイズのビジネスモデルでは、利益率の向上に限界があるという。事実、システム販売会社の営業利益率はせいぜい5%である。そこで、ウッドランド時代にシステム開発の生産性を高めるために、ソフトの部品化などに取り組んできた。だが、相手の要望を聞いて開発する方法は、「自分達の製造コストとなる工数から価格を決めるので、低い利益率から脱しきれない」のである。

 さらに、柴田氏は10年ほど前から会計や販売など事務処理系システムの構築に物足りなさを感じていた。「顧客企業は、在庫削減など業務の生産性を高めることで利益増やキャッシュフロー改善に役立つものを望んでいる」と予想した柴田氏はウッドランドの株式公開で得た自身のキャピタルゲインを開発資金に充て、4人の開発者を連れてオーストラリアに渡りSCMソフトの開発に取り組み始めた。

 ところが、開発を進めている段階で、米国で同じようなソフトを開発しているITベンダーの存在が分かった。「ある友人がオーストラリアに訪ねてきて、米企業の製品資料を見せてくれた。その内容は我々がやりたいこととほぼ同じなので、驚くとともに開発中止を考えた」(柴田氏)。だが、「米国のある展示会でそのソフトを見たら、自分達のほうがいいものだと思い、開発継続を決めた」(同)。それがSCMソフトのφ-Conductorである。

 97年から3年かけて初期バージョンの開発に成功したのを契機に、柴田氏は帰国し、SCM市場を熟知する大手ITベンダーの幹部にφ-Conductorを評価してもらった。「いいと褒めてくれる」「そんなものは世の中にいっぱいある」の二つの反応を想定したが、その幹部は「こんなものが欲しかった」と言ってくれた。そこで、ウッドランドからSCMソフトを買い取り、フェアウェイソリューションズを設立した。

導入効果ツールと要件定義ツールを開発

 だが、業務改革の伴うこうしたソフトを販売することは容易ではない。「企業のトップ10人に会えれば、9人はいいものだと評価してくれる自信はあったが、経営者に『御社の課題をこうして解決できます』と営業が説明できるとは思えなかった」(柴田氏)。そこで、導入効果ツールを開発した。ソフトを導入すると在庫削減につながることを示すものだ。要件定義を作成するツールも用意した。

 この要件定義作成ツールは、簡単に言えば数百の質問に三択から選んで回答していくことで、要件定義が完成するというもの。選択の中に「その他」の項目もあり、ここに特別な要求事項があれば書き込める。だが、その他が多くなればなるほどカスタマイズが増える。そうなれば、ソフトの品質にも影響を及ぼす可能性があるので、柴田氏はそれを避けるために、「カスタマイズより、パッケージの中身に応じて、こうした方が在庫削減できると提案する」(柴田氏)。フェアウェイソリューションズの社員は約30人しかいないということもあって、「ある顧客には『カスタマイズはできない』と断り、ソースコードを公開するから自分でやってくれとお願いしたこともある」(同)そうだ。

 ライセンス料も企業規模、つまり導入効果によって異なる設定にしたし、使い勝手も工夫を凝らした。オーストラリアで開発に携わったCTOの殷烽彦取締役は、「画面を見ながら、あたかもコントロールセンターから商品の受注から出荷までの状態、さらには需要に基づいた生産計画まで簡単に立案できるようにした」と語る。加えて、商品配送中なら、画面にトラックや飛行機を表示するなど、遊び心も取り入れた。

 フェアウェイソリューションズはその後、6年間かけて改善してきたφ-Conductorに累計で開発費10億円、マーケティング費約10億円の20億円を投入したという。既に約20社の企業に採用されているが、さらに顧客数を増やし、「単年度黒字化させ、数年以内に上場させたい」と、柴田氏は将来計画を語る。

 新しい製品を売り出すには、マーケティングにも新しい工夫が要る。他社と同じようなものは、営業には売りやすい製品かもしれないが、それでは価格競争に巻き込まれ、低い利益率に甘んじることになるだろう。それを回避するには、フェアウェイソリューションズが実行したような、様々な知恵が必要になってくるのだろう。

注)本コラムは日経ソリューションビジネス06年12月15日号「深層波」に加筆したものです。