今年もインターネット上では,ブログサイトが増殖を続けるでしょう。個人法人を問わず,ブログ活用とWebサイトのブログ化は粛々と進むはずです。それに合わせて,個人の情報収集と購買のスタイルはもちろんのこと,企業のマーケティングの方法論も,知らず知らずのうちに大きな影響を受けていくはずです。

 そこで,私が社外役員を勤める株式会社カレン広報室長で,ブログマーケティングの第一人者である四家正紀さんとの議論も参考にして,今年の展望を10項目にまとめてみました。

1.概略は文字で,詳細は動画と音声で

 最近,YouTubeなどの動画発信サイトのリンクを張った動画付きブログをよく見るようになりました(関連記事)。一目見ればおわかりの通り,動画つきブログのわかりやすさは,文字だけのブログとは比になりません。

 もちろん貼り付ける動画は,きちんとビデオ撮影して編集を施すのに越したことはありません。しかし,通常のブログ用でしたら,携帯電話のカメラで撮るだけでもかまいません。写真や文章は発信者の技量で伝達力に大きな差が出ますが,生々しい動画が撮れれば,撮影技術や文章技法が少々稚拙であっても,それを補って余りある訴求力があるはずです。

 今後,多くのブログ記事は,冒頭で5W1Hに触れた概略を文字を使って紹介し,詳細は動画や音声で伝えることになるでしょう。新聞の見出しやリードを見て面白そうだったら,詳しいことをテレビニュースで見るような新感覚です。

2.新聞雑誌・テレビ・webサイトをブログが即時補完

 新聞雑誌やテレビでわからないことがあったら,いつしか「検索エンジンでキーワード検索する」新習慣が身に付いてしまった方も多いはずです。さらに詳しく知りたかったら,情報元や専門家が作った信頼できるWebサイトを調べればよいのです。

 しかし,これまではそんな頼れるWebサイトが少ないため苦労しました。例えば,ある会社の新聞やテレビの報道や広告を通じて最新情報を知りたくなった時,まずネット検索をしたくなるでしょう。そんな時,Webサイトに十分な詳細情報が無かったり,更新スピードが遅いため,まだ掲載されていないこともあったのです。また,公式サイトにはないけれど一番知りたいユーザーの意見や,立場の異なる識者の意見を見つけるのも大変でした。

 ところが,ブログに代表される簡単Web管理システムのおかげで,法人も個人も,自力で,しかもほぼリアルタイムで情報発信できるようになりました。さらに,Googleに代表される検索エンジンとの相乗効果で,マスメディアと企業の見解とを見比べたり,ユーザーや関係者の生の声で裏付けを取ったりすることが,どんどん簡単になりつつあります。

3.物語性のある商品はすべて専用ブログで裏情報まで発信

 こうして全方向から情報発信が進み,プロジェクトXよろしく,これまで見えなかった裏事情まで見えてくると,自ずとお客様の行動も変わります。生活者は,物語性のある本物商品に価値を見いだし,その商品の「隠れた神話」をどんどん知りたくなります。

 そうなると,物語性のある特別な商品については,以前ご紹介したザ・プレミアム・モルツのように,商品別のWebサイトだけではなく,専用ブログも合わせて用意する必要があるでしょう。カタログやWebサイトでは語りきれない舞台裏の情報や,関係者の生の声を紹介するサイトには,Webサイトよりも,オープンかつゆるいルールですばやく運営されるブログの方が,むしろ適しているのです。

 商品専用ブログをうまく運営するためには,社内に専用の取りまとめ役兼お客様ガイドたるブログジョッキーを養成する必要があるでしょう。広報スタッフにこだわらず,その商品を誰よりも愛し,誰からも愛される人が適任です。商品開発に関わったデザイナー,技術者,職人から,その商品を愛用するホットユーザーまで,うまく巻きこみ盛り上げつつ,ブログで商品の背景にある世界を浮かび上がらせるのがブログジョッキーの使命です。

4.ブログコミュニティと会員向けメルマガは両輪

 ブログは,お客様データベースを大量に持っていない企業でも,お客様が特定のテーマ(キーワード)で検索した時に目立たせたり,公式Webサイトとうまく連動することで集客を図ることができます。またリンク集やコメント/トラックバックのおかげで,関係者ブログ,お客様ブログとつながりながらコミュニティを形成する力があります。

 ただしブログコミュニティは,これまでの会員向けデータベースを活用したメールマガジンを否定するものではありません。むしろ,この2つのメディアはお客様とつながるマーケティング手段の両輪であり,それぞれの長所をうまく生かしてこそ相乗効果が上がります。

 ブログコミュニティを通じて発信された,これまで以上にお客様に身近でかゆいところに手が届く情報を,会員向けメルマガに概略とURLつきでご紹介すれば良いのです。先日,他社の個人情報漏えいのニュースを受けてメルマガ配信を自粛した,ある殊勝なネットマーケティング先進企業の方が,メルマガの配信停止でWebサイトのアクセスが落ちたと嘆かれていました。ですから「体感」した情報をブログで集めて編集し,広く「共感」していただくためにはメルマガで知らしめ続けるサイクルが必要だと思うのです。

5.プレス発表会とブロガー発表会を同時開催

 最近,日産自動車が新型スカイラインを発表した時に,画期的な試みをされていました。マスメディアの記者向けに行われたプレス発表会の後に,同会場でブロガー向けの発表会を行ったのです。おそらく,そこに招待された先進的なブロガーたちは感激したのではないでしょうか?

 これはまさに,企業マーケターが,新聞・雑誌の広告や記事を見ない層・信じない層や,マスメディア情報だけでは満足できない層が増えていることに気づいての選択でしょう。そうした新しい潜在顧客に,きちんとメッセージを届けるためには,新たな情報チャネルが必要なのです。
 
 自らの意思で納得した商品だけを,納得した表現で伝えるブロガーとつきあうのは,ある意味でマスメディアの記者に対応する以上に気を使うかもしれません。しかし,彼らのネットコミで新たなヒット商品が生まれるかもしれないのです。

6.建前の法人ブログを,本音の個人ブログが圧倒し補完

 なぜ,そこまで企業が個人ブロガーを重用すべきかというと,法人のWebやブログには建前や美辞麗句ばかりが並びがちなことをブロガーたちは知ってしまったからです。一方で,個人ブログは,ユーザー視点から自分の言葉で熱く語られており,読み応え十分です。

 もちろん企業の代弁者や,悪意のクレーマーもブログで情報発信していますが,それらの意見を重視せずに,総合的に判断する知恵を身に付けたニュートラルな生活者も増え続けるでしょう。企業ブログについても,悪い意見が何も書かれていない管理過剰のブログよりも,悪い意見も含めて堂々と公開して受け止めているブログの方が好感を持たれる時代になりそうです。

 そして,進歩的な企業マーケターは,他社との比較や細かい使い勝手など,自分たちでは言えない意見を,個人がブログで発信してくれる恩恵に気づくはずです。地道に経営品質や顧客満足度を高めている企業ならば,自由闊達な風評が個人ブログで流通することが,むしろブランド構築につながることを実感することでしょう。

7.アルファブロガーより相思相愛ブロガー

 だからこそ,企業のマーケティング担当者や広告代理店やPR会社のスタッフは,“アルファブロガー”と呼ばれる人気の高いブロガーをますます重要視する傾向にあるようです。アルファブロガーのネットコミ力は絶大です。サンプル試用などで良好な関係を築く必要があるでしょう。

 しかし,もっと重要視すべきは,自社が提供する商品ジャンルに対する見識に富み,自社の商品を自腹で購入して自ら愛用し,さらに自社とその商品とを高めようという愛情に満ちた「相思相愛のお客樣」です。そんなお客樣方は,必ずしもアルファブロガーほど雄弁ではないでしょう。ブロガーでさえないかもしれません。

 ですから,まずは「相思相愛のお客様」と実際にお会いして,できれば企業のトップや開発責任者が礼を尽くしてご意見に耳を傾けたいものです。そして,親交を深めた上で,「ブログで情報発信していただければ,いつも拝見すること,商品開発に生かしたいこと」を伝えます。そして,企業とお客様をつなぐ大切な窓口「相思相愛ブロガー」になっていただくのです。

8.記者ブログと公益ブログと連携したPRとCSR活動

 個人の情報発信の隆盛に刺激されて始まった産経iZa(イザ!)日経BPネットに代表される新聞/雑誌メディアの一部ブログ化は,記者ブロガーと読者との交流はもちろん,企業との情報交流も変える可能性が高いはずです(関連記事)。記者ブログを熟読してコメント・トラックバックで親交を深める一方で,企業広報ブログも読んでいただける新しい関係構築が必要でしょう。

 同時に,公益性と信頼性の高いNPO/NGOのブログとの連携も欠かせないはずです(関連記事)。企業のコンプライアンスが重視される昨今,官公庁や国際認証のお墨付き以上に,NPO/NGOやその関係者の公益ブログで推奨されることが信用につながるからです。

 ネットを通じた交流はもちろんのこと,プレス発表会と並行して行われるブロガー発表会にご招待したり,個別にミーティングを持つなどの,新しい関係構築が重要でしょう。企業のブログポータルに,定期的に寄稿いただいたり,先方のブログに投稿するといった活動も始まると考えます。

9.ユニバーサルデザインブログで美しく便利に

 これまで,大企業はそれぞれ独自にWebデザインを競い合ってきました。その結果,美しいけれども,使い勝手がバラバラのサイトが林立しました。また中小企業はWebデザインに予算がかけられず,見かけにも使い勝手にも難点がありました。

 しかし,シニア層や障害者にまで配慮したユニバーサルデザインのニーズが高まりつつあることと,操作を標準化しやすいブログベースのWeb製作ツールが広まることで,この問題が解決されつつあります。

 これからは,ユニバーサルデザインが施されたブログ,ホームページ製作,EC構築サービスが広まるでしょう。どんなサイトを見ても,デザインが美しく,操作性や表示ルールがある程度統一された使いやすいものになるでしょう。

10.ブログ経由の買い物が増え,システムも一体化

 最近は,電子商店のトップページや商品紹介ページをたどって買い物するよりも,店長ブログはもちろん,検索後に目にしたユーザーブログや,信頼できる友人のブログを読んで買い物をする機会が増えました。

 今後,ブログビッグバン以降のwebサイト増殖がいっそう進めば,この傾向はますます高まるでしょう。またブログ紹介でちょっとした手数料収入が得られるアフィリエイトサービスが普及することで,商品紹介記事が加速するはずです。

 そこで,こうした傾向をふまえた先進的なブログ活用企業では,友好的なユーザー向けのブログコミュニティを用意することが一般化するでしょう。また一方で,ブログベースの簡単な電子商店構築システムも進化していきます(関連記事)。そこには,アフィリエイト機能付きの買い物カゴを簡単に貼付けられる仕組みも提供されて,ユーザーブログと企業の電子商店との垣根がなくなるはずです。

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 ここで挙げた10の将来展望は,ブログツールそのものが起こした進化ではありません。いずれも,生活者の情報収集力・判断力と,生活者の代弁者である個人ブロガーの情報発信力・影響力が高まるという新潮流による進化です。企業は,これまでの「一方通行で中央集権型の情報発信」を改め,エンドユーザーをはじめとする全ステークホルダーと協働した「双方向で自律分散型の情報受発信体制づくり」を求められているのです。