デザインの4つのポイントを守れば,言いたいことを相手に伝えることができますが,それでは「言いたいこと」っていったい何なのでしょうか?

 「うちの商品は良い商品ですよ。良いサービスですよ。うちは他よりも安いよ。今だけ特典を付けますからうちの商品を買ってください」ということだけならば,言いたいことは伝わっても,買ってくれるところまでは行かないかもしれません。「良いのはわかった。でも買いたくない。よそから買う」となってしまいます。なぜでしょうか?

良いコミュニケーションはインフォメーションとは違う

 良いコミュニケーションはインフォメーションとは違うのです。これらは,面接の履歴書と同じで,コミュニケーションではありません。コミュニケーションというのは,相手のことを思いやる気持ちが重要で,一方的なインフォメーションではありません。

 「この商品は○○でお困りのあなたの問題をこういう風に解決できますよ。あなたの○○に役立ちますよ。あなたにとって,○○のメリットがありますよ。“良さそう”と思ったら買ってくださいね。あなたのことを助けたいと思っていますよ」という,相手の立場になって商売をすることが大切です。この気持ちが伝わらないと,相手は振り向いてくれません。このような気持ちを的確に伝える道具としてデザインが必要となってきます。

 例えば,相手のことを心底考えている営業マンがあなたのところにやってきたとします。言っていることは,こちらのことを真剣に考えてくれていてありがたいなあと思うのですが,彼の服装がだらしなくて,髪型がボサボサで,ネクタイの趣味もド派手で安っぽく,おまけに話し方にも知性が感じられなかったらどうでしょうか。

 「気持ちはわかった。商品も役に立ちそうだ。でも,しかし(…この人から買いたくないな)」という気持ちになってしまうのではないでしょうか。場合によったら,相手の話なんか聞く気も起きずに,帰っていただくかもしれません。いくら考え方が正しくても,それが伝わらないと効果がないのです。

 この営業マンはまず,話を聞いてもらえるような良い「印象」を与えるにはどうすべきかを考えるべきだったのです。相手のことを考えていたとしても,相手がどんな気持ちになるのかに鈍感であれば,それは,本当に相手のことを考えているとはいえないのではないでしょうか。

 企業のコミュニケーション活動にも,このことが当てはまります。商品開発,販売促進の課程において,消費者のことを第一に考えていても,この部分が鈍感であったり,お金をかける優先順位が低い企業がたくさん存在します。使いにくいホームページ,わかりにくいパンフレットやカタログ,ダサいデザインの販促ツール,読みにくい小さな文字,画質の汚い写真,古くさくて個性のないロゴマークなどがあふれています。

 企業がお客様に心を通わせる活動が,コミュニケーション活動であるべきだと思います。コミュニケーション活動の技術とは,伝える技術であり,それがグラフィックデザインなのです。そして,それは営業力を増大させる機能を持っています。質の低いクリエイティブでよしとしている企業,力を入れていない企業,あまり深く考えていない企業は,営業の武器となるデザインについて考察してみてください。

 相手のことを考えるのであれば,お客様に快くなっていただけたり,いい気分にさせるためにデザインが必要であることを企業は認識しなければなりません。

デザインは誰のためのものなのか?

 日本には「おもてなし(お持て成し)」という言葉があります。何かを持って(ごちそうや歓待など)ことを成す,ということで,その語源は「表裏なし」=表裏のない気持ちでお客様を迎えることという他利の精神です。

 本当にお客様のことを考えるのであれば,部屋をきれいに掃除し,玄関に花を生け,おしゃれをして,美味しいものを用意して,笑顔で迎えますよね。見苦しい格好で,散らかった部屋には案内しません。企業のコミュニケーション活動も同じです。私は,デザインを活用することによっておもてなしの心を表す必要があると思います。

 企業において自社の商品やサービスを売るのがデザインの目的ですが,それだけですと,デザインとは自分のためのものにあるということになってしまいます。デザインは,お客様のためにするものであって,その結果として商品が売れる,という流れが筋だと思うのです。

 ちなみに,自分のことばかりを考えているのを「我利我利亡者」といって,「他利の精神」の反対の意味になります。デザインをおろそかにしている企業,または鈍感な企業は「我利我利亡者」と見なされてしまわないよう,デザインの大切さを考えてみてください。