多くの大手企業が2008年春の新卒採用人数をさらに増やすそうである。対象となる学生はホクホク顔。“就職氷河期”に遭遇した先輩たちに比べ、わずか数年生まれるのが遅かっただけで大きなアドバンテージを得ることになる。人の世の不条理を感じてしまうが、そんなことより、どうするITサービス業界。人が生命線のこの業界、その人材採用がますます悲惨になるのは必至である。

 12月14日付の日本経済新聞にリクルートの調査「就職白書2006」の記事が載っていたが、2008年春の新卒採用を2007年春に比べて増やすとした企業は19.7%で、減らすとした企業は3.4%にすぎないという。富士通は2007年春よりさらに増やして600~700人の採用を目指し、金融機関も理系の学生を引き続き大量採用するそうだ。なんか、あの“懐かしい”バブル期の風景が再現されたかのようだ。

 ただ、バブル期とは似て非なるものだ。バブル期にはIT関連は若者に人気の職種だったが、今やその人気は急速に衰え、ITサービス業に至っては不人気業界になってしまった。金融機関の理系(IT系)学生の大量採用の件は、バブル期にも「優秀な学生を持っていかれる」と問題になったが、その後のバブル崩壊で尻すぼみに。ただ今回は、負の遺産を清算した金融機関が商品開発力の向上を目指し、継続的に理系学生を採用し続けるのは確実である。

 こりゃITサービス業界は、しばらくの間“採用氷河期”を覚悟しなければならない。人手不足は加速しており、さてどうする、である。またぞろ、相当いい加減な人集めも横行し始めたらしいが、昔と同じようなことをやっていては評判を落とす。私はこの前、「SE不足の折、やるべきことは人集めですか?」で、安易な人材採用などやめて事業転換などを図るべきだと書いた。ここは規模を追う明確な戦略を持たないのなら、機会損失であっても辛抱すべき時だと思う。

 そう言えば、あるITサービス会社のトップが「不景気の時こそ優秀な人材を採用するチャンスなのだから、こんな状況になる前に人材の積極採用ができていなくてはいけないのだが」と悔やんでいたのを思い出した。原則、まさにその通りだろう。景気が下り坂の時はさすがに無理だが、先行きに明るさが見え始めた時、他業種に先駆けて積極採用に動き優秀な人材を確保し、そして教育して来るべき需要拡大期に備える----まさに人への投資である。

 もちろん、現実には難しい。社員に支払う給料は当然として、教育費も費用である。財務会計上は投資としては認められない。従って事業環境が悪い時に、人材の積極採用に踏み切れば利益率は大きく下がる。今やITサービス業界も上場企業だらけで、そうなる当然株価も下がる。そんなことはできない。結局、景気の悪いときはリストラで利益率を追求し、景気の良いときは甘あまの採用に走る。これじゃ、ITサービス会社のトップが大好きな言葉“人財”が現実のものになるわけがない。

 人財活用企業を目指すなら、いっそのこと上場廃止にしてはどうだろうか。ファンドと組んでMBOして上場廃止。最近流行りの手法だが、そうすれば短期的な収益しか興味がない投機家なんぞは相手にする必要はなく、腰を据えて事業の構造改革と“人財”投資に取り組める。うまくいったら再上場して、ファンドにはお引き取り願えばよい。ネームバリューのない企業は上場廃止で人材採用が一層難しくなる可能があるが、そこそこ名の通った会社なら検討してよい選択肢だろう。

 ドラスティックなことが不可能なら、これは誰かが言っていたことだが、せめて『人財会計』でも考えてみてはいかがか。研修中などで無稼働の技術者への給料、教育研修費などは投資とみなして資産化し、平均就業年数や技術の陳腐化度合いなど加味して減価償却する。退職者が出れば減損処理すればよい。この人財会計、手間はかかるが、なんとか作れそうだ。その数字を指標に経営し、株主や金融機関、そして求職者に説明すれば、真の人財活用企業として明るい未来が見えてきそうだが。