商品やサービスの良さを上手に伝えることができると,お客様に「良さそうだなあ」と思っていたくことができる,というお話しをしてきました。企業は広告やPR,宣伝,イベント,展示会など,いろいろとあの手この手でマーケティング活動を行います。その目的は購買してもらうことですが,第1関門は,「良さそう」と思ってもらえることです。この関門を通過しないと,購買に至ることはありません。

あなたの会社の販促ツールを見直してみよう

 そこで,自社の販促ツールやホームページを集めてじっくり見てください。あなたの会社の商品やサービスは「良さそう」に感じますか? きっと「まんざらではない」と思われるのではないでしょうか。

 なぜなら,ご自分でだめだと思っていたら,それは印刷されることはなかったはずだからです。「これでばっちり売れる!」もしくは,少なくとも「まあ,いいか」と思ったので,制作にGoがかかったのです。ですから,じっくり見てもらうのは,社内の人間ではなく,ましてや担当者でもなく,外部の人がよいでしょう。

 リサーチ会社に依頼して調査するほどのお金も時間もないのが普通だと思いますので,社内の若い人を集めて感想を聞いてみるのはどうでしょうか? 実はこれ,やりがちな間違った評価方法なのです。

 これをしますと,皆さん,自分の好き嫌いで感想を述べて収拾がつかなくなります。場合によっては上下関係が影響し,声の大きい人の意見に引きずられたり,人の目を気にしたりして正しい評価ができにくいのです。

 この場合,プロのグラフィックデザイナーに依頼して,評価をしてもらうのが良いでしょう。なぜならプロのデザイナーは,「良さそうに見えるビジュアルは何なのか,人を惹きつけるデザインは何なのか」をいつも考えているからです。

 あなたの会社の販促ツールが,すでにグラフィックデザイナーに依頼して作成されているのならば再検討する必要はないかもしれませんが,印刷会社などにデザインを依頼している場合は要注意です。一概には言えませんが,印刷会社はデザインのクオリティよりも,ましてやクライアントの売り上げにどれだけデザインが貢献するのかなどと言うことよりも,輪転機をどれだけ回せたかに一番の関心を持っているのです(もう一度言いますが,一概には言えません。でも,これってけっこう普通なのです。印刷会社の人にそーっと聞いてみてください。だからこそデザイン料も安く抑えられているのです!)。

販促ツールのここをチェック!

 プロのデザイナーに知り合いがいない場合は,どうしたら良いでしょうか。「自分ではうちの商品,良さそうに見えるのだがなあ」という方は,次の項目をチェックしてみてください。以前もお話ししましたが,とても大切なのでもう一度詳しくご説明します。

(1) 伝えたい情報が伝わっているか
 商品,サービスの特徴,特性,価格が記載されていればよし,ということではありません。それだけでは,どこの企業もやっていることです。わかりやすい文章,理解しやすい構成は当然のことで,ポイントは企業側が言いたいことではなくてお客様の知りたいことがどう書かれてあるのかという切り口やアプローチの仕方が大切なのです。

 この部分は,プランナーやコピーライターといった,編集と言葉のプロが腕をふるう部分です。いわゆる,コンテンツのクオリティです。説得力あるコンテンツや魅力的な内容であるかどうかが重要で,この部分が薄いとたとえデザインがかっこよくてもあまり意味がありません。プロのコピーライターでなくても,商品を売りたいという熱意が強い人(経営者など)が考えたほうが良いコンテンツになる場合もあります。

(2) 伝えたい世界観が伝わっているか
 「世界観」とは,その企業が持っている「イメージ感」と言っていいでしょう。お客様に,どのように見られたいのか,どのように思われたいのか,「先進的」と見てもらいたいのか,「親しみやすい」と思われたいのか,「クール」なのか,「伝統的」なのか…。

 この部分は,色や形のデザインが作るビジュアルなクオリティに左右されます。「やさしさ」をイメージさせたいのに,かっこよくても冷たい感じがしてしまえば,それは的をはずしたデザインです。わざとかっこ悪くしたほうが親しみを醸し出すのならばそうするべきなのです。ここは,緻密な計算と,デザイナーの持つイマジネーションが必要になります。

(3) アイデンティティ,オリジナリティがあるか
 (2)の「伝えたい世界観」と重なる部分はありますが,ロゴマークを差し替えると別の会社の製品カタログに化けてしまうようなデザインは,オリジナリティが弱いと言えます。

 例えば,IT関連の会社案内などは「先進性」「信頼感」「現代性」のイメージを伝えたいケースが多いのですが,IT企業が五つあったら,どれも同じテーマでデザインすると,五つともよく似たデザインになってしまいがちです。いかに,他の四つのIT企業との差別化を図るのか,その企業の個性は何なのか,それが表現されたうえで「先進性」「信頼感」「現代性」のイメージを表さないといけません。他社との差別化は,ブランディングの重要な要素です。

(4) 美しさ,造形的センス
 美しいと思うかどうかの感じ方は人それぞれ違いがあります。しかし,最大公約数的に,多くの人がきれいだとかアンバランスだとか感じる造形も存在します。訓練を重ねたデザイナーはこの感覚が鋭く,常にある規準以上のものをつくることができます。人は美しいものに惹かれる本能を持っています。美しいものに対しては,心を開き,心を動かされるのです。この原理を応用するのが,デザインです。

 以上,4つのポイントから自社の販促ツールをチェックしてみてください。「このデザインは美しいのか,どうなのか,よくわからない」といったこともあるでしょう,ここは,訓練を積んだデザイナーという職業の人に見てもらうほうが良いと思います。

 こればかりは,頭でいくら考えても,本を読んでもわからないことです。そのほかはチェックできるのではないでしょうか。この4つの車輪によって,伝えたいことや伝えたい気持ちがお客様に向かって運ばれるのです。一つでも欠けていたり,4つの大きさが極端にバラバラだったりすると,そんなクルマはスピードが出ません。お客様に伝わる速度が遅くなりますし,あらぬ方向へ進んで伝えたいことを届けることもできなくなるかもしれません。

法人と個人は同じ見方で評価される?

 考えてみると,企業がどう見られてしまうのかは,個人がどう見られてしまうのかという場合と非常によく似ています。

 新入社員を面接する場合を例にとって考えてみます。あなたはどんな要因で採用するでしょうか? どんな考えを持っていてどんなことができるのか,どんな経歴があるのか,といったことは履歴書を見れば理解できることです。他の大勢の応募者とあまり能力の差がない場合,何が採用の要因となるでしょうか。

 実は,イメージの力が大きいのです。

 いわゆる「良さそう」と思った人を採用するわけです。そう思う要因としては,見た目が大きく影響するのです。服装,身だしなみはもちろん,しゃべり方,言葉遣い,声の調子,姿勢,目つき,目の光,ネクタイのセンス,表情,熱意などなど…。

 ビジュアルという見た目も大切なのですが,面接のやりとりにおけるコミュニケーションから受ける印象が,その人のイメージを決めていきます。このコミュニケーションがうまくいくと,「良さそう」と思ってもらえるのです。

 最初の図の4つのポイントはまさに,コミュニケーションするためのデザインのポイントなのです。あなたの会社は履歴書みたいなホームページやパンフレットを作ってはいませんか?