ファイル交換ソフト「Winny」の開発・公開をめぐる刑事裁判で,京都地裁は開発者の金子氏を有罪とした。ITpro Watcherでは小飼弾氏が皮肉を込めた感想を書いているが,私なりの意見も表明しておきたいと思う。

 判決では「技術自体は価値中立」としているものの,金子氏が著作権侵害を黙認していたことを有罪の根拠としている。しかし,金子氏が著作権侵害の蔓延を積極的に意図していたとは認められないとしている。ということは「権利侵害の黙認」が罪に問われたということか。誰にでも思想の自由があり,思うだけなら罪ではないと私は信じてきたのだが,そうではないということか。

 当初,暗号化技術は,軍事利用を前提に生まれた。そのため,米国政府は一定以上の強度を持つ暗号化技術の輸出を制限していた。現在でも「完全解禁」ではないと聞いている。3DESなど,強度の高い暗号化機能の規制緩和はWindows 2000の登場とほぼ同時期である。ただし,製造工程の問題から,日本で発売されたWindows 2000には弱い強度の暗号化機能しか備わっていなかった。そこで「高度暗号化パック」と呼ばれるフロッピーディスクが添付されていた。そのディスクを使うと,北米と同レベルの暗号化機能が使えるようになったのである。

 ところで,よく知られているように,アルカイダはテロ計画にインターネットと暗号化技術を使っていた。土屋大洋氏によると「(海外版の)Windows 2000は40ビット暗号化(おそらくDES)しか使えなかったので,暗号の専門家が解読に成功した」という(土屋氏による「暗号規制の行方-ソフトウェア化する暗号技術-」,括弧内は筆者の推定)。実は,DESもインターネットも米国政府の援助で開発されたものだ。

 さて,現在,米国政府は56ビットDESよりもさらに強力な3DESを海外版Windowsに搭載することを許可している。テロ組織がWindowsを使うことは当然想定しているはずだが,特別な禁止処置はとっていない。少なくとも日本語版には制限はないし,米国版は多くの国で自由に売られている。3DESの利用を黙認しているのである。さて,米国政府はテロ組織に協力したことになるだろうか。3DESだけでなく,最新のAESも規制対象ではない。そしてAESは3DESよりも強力である。

 Winnyが深刻な著作権侵害を行う機能があることは事実であろう。また,金子氏は,そうした状態をある程度予想していただろう。しかし,自分から積極的に著作権を侵害したわけでもなければ,直接・間接を問わず利益を得たわけでもない。これを「犯罪」とするのは納得できない。暗号化技術を開放した米国政府が「テロ組織に便宜を図った」と言えないのと同じことだ。

 金子氏は上告するという。金子氏の発言には同意できない部分もあるが,裁判にはぜひ勝っていただきたいものである。また,裁判を支援するために何ができるのかも考えていきたい。