芦屋広太です。いつも,当コラムをお読みいただきありがとうございます。

 先週私が当サイトに寄稿した「言うことを聞かない自信過剰な部下」については,「許しがたい行為という強い不快感を伴ったご批判」をいただいた一方,「大変参考になったという好意的な意見」も寄せられました。12月12日時点のITproの記事評価では,「参考になった」という評価が約半数を占めているという,賛否両論の結果となっております。

 とは言うものの,多くの方々に「不快な思い」をさせてしまった事実を重く受け止め,この場を借りてお詫びいたします。そして,なぜ,不快な思いをさせてしまったのか,私は何をお伝えしたかったのかを,この記事のコンセプトを踏まえ,ご説明させていただきたいと思います。

 まず最初に,坂本君の話をさせていただきます。彼のことを心配していただいた方が多かったと思いますが,彼は今,攻撃的な性格は影をひそめ,人が嫌がる面倒な仕事を積極的に行うことで周囲の人間から感謝されるようになりました。周りと強調して問題を解決できる,影響力のある優秀な人材に成長し元気に仕事をしています。

「5分で人を育てる技術」のコンセプト

 「5分で人を育てる技術」は,ケーススタディの会話型コラムとして,実際にあったプロジェクト上で発生した「人の成長に関するエピソード」をほぼ忠実に再現する形で書き進めてきました。

 今まで登場したのは,部下である岡田(第2話,第4話に登場)と坂本(第5話・・・言うことを聞かない自信過剰な部下に登場)の2名です。岡田はコラムで紹介したとおり「新しいことに手が出ないやや受身型の人間」,一方坂本は「頭はよいが,攻撃的で周囲からうとまれる人間」です。

 このコラムでは,この性格の異なる2名と私の成長,さらに,この部下の2名とも異なる新しいメンバー2名の5名で,プロジェクトに発生する諸問題を解決しながら,現場で「どうやって人が成長していくか」を5分間の会話で再現しながら描く予定としておりました。

「部下をせめる」表現方法について

 「5分で人を育てる技術」では,2名の性格の異なる人の成長を描き,人がどのように変わっていくかをレポートするものだったため,私が現実に彼らに接した通り,「まず,2人のマインドを揺り動かすために厳しく接した状況」をそのまま再現しました。

 通常,コラムでは「著者自身が,自分を上司として部下を厳しく指導する状況」を表現するのは,読者からの反発が多いため避けることが普通です。私が2年半の間寄稿していた日経コンピュータ誌の連載や書籍でも,そういう表現はできるだけ避けていました。

 しかし今回は,実話を忠実に再現したかったため,批判が出るかと悩みましたが,結局そのまま再現しました。これが「部下をせめるテクニックを紹介している」というご批判につながってしまいました。状況の説明が不足していたため,読者の皆様に大きな誤解を与えたことは,大きな反省材料であります。

部下の坂本について

 今回,多くの方から「坂本をいじめた,パワハラではないのか」と批判を受けましたが,それは正しくありません。坂本は,私の部下になる前に「問題がある」と会社で相当厳しい評価を受けており,どこかで,誰かに「つぶされる状況」にありました。このまま歳をとれば,この欠点は致命的です。若いからまだ許されるけれども,管理職になればそうはいきません。結局苦労するのは坂本本人です。

 坂本には,いろいろ話をしましたが,彼の気持ちはあまり変わりませんでした。そこで,最後の手段と思い,彼を矯正することにしました。

 彼の矯正をすることに躊躇はありませんでした。なぜなら,私自身がかつて坂本のような人間であり,上司に矯正された経験を持つからです。私はその上司に感謝しています。この話はこのコラムの「他人を説得するための文章術(最終回)彼はなぜ,文章力が向上したのか」に紹介していますので,よろしければご覧ください。

 そして,坂本については前回のエピソード(第5話)と次回に予定していたエピソード(第6話)で,彼が過去に受けた上司からの仕打ちが明らかになり,「私と坂本の約束」によって信頼関係を築いた過程をご紹介する予定でした。

5分で人を育てる技術の今後について

 先ほど説明したとおり,当初予定では第6話目に坂本の2回目のエピソードを紹介し,坂本の心がどう変わっていくのか,私とどのように信頼関係を築いていくのか表現することを最後に「人の心を変えるという重いエピソード」を終え,その後は,新たなフェーズとして「問題解決の過程をご紹介する」予定でありました。具体的に予定していたのは,われわれ3人が知恵を絞って考えて実行してきたエピソードです。

 このように当コラムは長期的な連載を意識して,一回一回の読後感が微妙に異なるものに仕上げていくコンセプトとなっております。今回,多くの方々に不快な思いをさせてしまったことは,私の不徳の致すところではございますが,このようなコラムを必要としている現場で悩むマネージャーの方々(好意的コメントをいただいた方々,「参考になった」と回答いただいた方々)がいることも踏まえ,お許しいただきたく存じます。

芦屋広太