もうすぐ2007年である。先週、ある大手ITサービス会社のトップと歓談する機会があり、どうやって団塊の世代から後進に情報システムの“バトン”を引き継ぐかという話で盛り上がった。いわゆる2007年問題を意識しての話だが、それとはちょっと違う。2007年問題は雇用延長で対応しても、別の時間切れが迫っている。さて、どうするか・・・そんな話だ。

 話の前提として、まず2007年問題について。2007年から大量リタイアが始まる団塊の世代の技術者は、まさに日本のコンピュータリゼーションの先頭を走った人たちだ。この人たち知見・ノウハウの類で失われては困るものは何か。どうも2007年問題の巷の話では、メインフレームやオフコンのようなレガシー資産のお守りのようなことに矮小化されてしまっているが、本質はそこではない。失われて困るものとは、自社あるいはユーザー企業の業務プロセスに対する知見である。

 どんな企業でも最初にIT化を推進した際には、その企業の技術者やITベンダーの技術者が徹底的に業務プロセスを洗い出して分析し、IT化すべきプロセスを特定する作業を行った。その結果、技術者は“業務が分かる人”となり、ユーザー企業のIT部門はそれまでの事務管理部門に取って代わり、経営の中枢に関わる存在になった。団塊の世代の技術者は、そうしたITやIT部門の“栄光の時代”を体現した人たちなのだ。

 さて、時は流れてIT化の範囲は広がり、システムは細分化した。だが多くの企業で、基幹の業務プロセスはレガシーシステムにそのまま残り、“業務が分かる人”もそのままレガシーシステム担当のままで、ここまで来た。さすがに基幹業務システム以外はオープン系で構築され、若い世代の技術者がそれを担当した。従って若い世代の技術者はオープン系の技術は分かっても、“業務が分かる人”ではない。そうしているうちに、“業務が分かる人”の大量退職が始まる。これが2007年問題の基本構図である。

 こうした2007年問題への対症療法は、冒頭でも書いたように雇用を延長して団塊の世代の技術者にもう少し働いてもらうことである。また“業務が分かる人”は何も団塊の世代だけではないから、しばらくは大丈夫という企業も多いだろう。だから実は、IT部門の人員のうち半分以上が50歳台という一部の企業を除いて、まだ当分は何とかなる。しかし、別のタイムリミットが迫っている。そちらの方が厳しい。

 で、別のタイムリミットとは何かだが、単純明快、「いつまでもあると思うな、そのハード」である。今いったい、どれくらいの数の“レガシーなハード”がユーザー企業のもとで動いているのだろうか。メーカーが開発・製造を続けるメインフレームはもちろん、製造を止めたオフコンも、まだものすごい数が現役だ。メーカーは製造中止のオフコンについても、供給責任から部品を提供し続けているが、もうそろそろ限界。メインフレームだって一部を除き経済的合理性を失いつつあり、フェードアウトは時間の問題だ。

 こう書くと、「そんなことは百も承知」と言われそうだ。これは、いわゆるレガシーマイグレーションの話だからだ。ただ、これまで多くのITサービス会社がレガシーマイグレーションの商談を仕掛けたが、必ずしもうまくいかなかった理由は何か。冒頭のITサービス会社のトップとの話の中でも出てきたが、「レガシーマイグレーションには移行元と移行先の2チームがいる」ということが、理由として大きい。

 いまだにレガシーシステムを抱え込むユーザー企業がレガシーマイグレーションを行おうとした場合、レガシーシステムを担当する技術者がオープン系の担当に簡単に移行できるわけではない。そうなると、レガシーマイグレーションでは“レガシーな人”から“オープンな人”に基幹業務システムのバトンを渡さなければならない。つまり、引き渡す側と受け継ぐ側の2チームがいることになる。

 “レガシーな人”はバトンを引き渡せば、基本的にお役御免だ。一方“オープンな人”は基幹業務システムに対象化されている業務プロセスがよく分からないにも関わらず、大役だけど退屈な仕事を引き受けなければならない。これでは、レガシーマイグレーションは難しい。誰もが「オープン系のような信頼性のないシステムの上で、基幹の業務プロセスを動かせるか」と型通りに反対するのは必定である。

 さて、2007年問題。“レガシーな人”が定年を迎える。しばらくは雇用延長で働いてもらうとしても、もはや彼らはお役御免となることを恐れはしない。レガシーマイグレーションの好機到来である。あとは業務プロセスが分からない“オープンな人”が基幹業務システムを引き継げるかだが、実は彼らには基幹の業務プロセスに対する知見を得る絶好の機会が訪れている。日本版SOX法の施行・適用である。

 日本版SOX法では、財務報告にミスや不正が入るリスクを特定するために、業務プロセスを分析して文書化しなければならない。その作業の大変さばかりが強調されているが、この作業をIT部門や、運用を請け負うITサービス会社が積極的に担えば彼らに大きなメリットをもたらす。つまり、団塊の世代と同様の“業務の分かる人”になれる機会が訪れているのだ。理屈の上では、これで鬼に金棒、もう基幹業務システムのオープン系への移行には問題なしである。

 だが、日常業務に忙殺されるIT部門などに、そんなことをする余裕がない場合はどうするのか。それこそERPなど業務パッケージの出来合いの業務プロセスで置き換えるしかない。では、リストラを重ねたりすることでIT部門に“オープンな人”がほとんどいない場合はどうするのか。これはもう、誰かがその代替を務めるかしかない。そこにはITサービス会社の新しいビジネスがあることだろう。