前回に引き続き,いかに良い商品や良いサービスでも,売り方が下手だと売れるものも売れない,というお話しを続けます。

「誰に」売るのか

 「良さそう」と思わせるには,伝え方にコツがあると思います。まず,明確にするのは,「誰に」売るのかをきっちりと決めることです。マーケティングで言う「ターゲット」です。なぜならば,人は年齢や性別,世代,地域,収入などで,感じ方が違うからです。

 もちろん,すべての人がそれぞれ違うと言えば当然なのですが,同じような嗜好(しこう)や志向の部分もあるのです。その嗜好や志向に合わせた戦略を取らないと,伝わりにくくなってしまうのです。

 大阪と東京では,微妙に(おおいに?)広告のテイストや商品開発の企画が違いますし,高所得の若い女性と低所得の若い女性とでは,コピーやアプローチが違ってきます。つまりターゲットの人たちに「共感してもらう」表現をとるということが大切なのです。自社の商品が,誰をターゲットにしているものなのか,まず明確にしなければなりません。

 それは,商品開発の段階から決まっているように思われますが,広告や販促ツール(パンフレットやDMなど)に至っては,あやふやなアプローチも結構見受けられます。ホームページなどが良い例で,同じような型にはまったデザインがあふれています。デザインだけではなく,ターゲットを「そそる」言葉やボキャブラリも考慮に入れる必要があります。ここがあやふやだと,伝わりにくくなってしまうのです。

「どのように」売るのか

 ターゲットが明確になれば,「どのように」すれば伝わるのかも方法が絞れてきます。

 例えばSOHO業界で使われるソフトウエアの販売であれば,大企業と違うアプローチを取るのが良いかもしれませんし,統計を調べれば業界の平均年齢や平均収入などもわかるかもしれません。それらを考慮に入れて,どのように伝えればよいのかを考えることが大切です。

 しかし,ソフトウエアの特徴や機能と,製品名,価格しか伝えていないことになってしまう場合がよくあります。フリーのデータから作ったIT企業っぽいビジュアル,モニターのノイズやキーボード,プログラミングの文字,握手するビジネスマン,高層ビルと空,それらをコラージュして英文を薄くバックに敷いた画像…,ありがちですよね。こんなのでお茶を濁しているサイトやパンフレットが世の中にはごっそりあふれています。

 前回の良い商品やサービスに満ちあふれたオレンジ色の海の画像を思い出していただきたいのですが,この中で,自社の商品やサービスを印象づけるには,他社と差別化していかなくてはならないのです。

 ターゲットの嗜好や志向に合わせ,なおかつ他社との差別化を図る。これはとても難しい仕事だと思うのです。これには,高度な“言葉の力”と“見た目の力”が必要です。いわゆる,コピーとデザインです。しかし,中小企業の多くは,この部分を自分でやろうとしてしまいます。あるいは印刷会社に丸投げしてしまい,完成したよくあるビジュアルに「こんなものだよね」と満足してしまい,大事なお金を損してしまうのです。

 この部分こそ専門技術が必要になるところです。絵心があるから,文章がうまいからできることではありません。HTMLが組めればホームページが作れるということではないのと同じです。

販売はコミュニケーションである

 しかし,それでよしとしてしまうのはなぜなのでしょうか。「経営者のセンス」ということになると思いますが,それ以上に「販売はコミュニケーションである」ということをあまり理解されていないのではないかと思うのです。つまり,言いたいことをいかに言うかではなく,お客さんが知りたいことをいかに知らせるかが重要なのです。

 同じように聞こえるかもしれませんが,全く違います。自分が売る立場ではなく,買う立場になって考えてみればわかりやすいのではないでしょうか。前者は相手が見えておらず,後者は相手を意識したアプローチに立つのです。「うちの商品はこんなにいい部分がありますよ!料金はいくらですよ!今ならキャンペーン中でお得ですよ!買ってください!どうですか!以上!」荒っぽく表現するとこんな感じでしょうか。

 「どのように」という部分がうまくいけば,お客様は「買ってもいいかな,買おうかな」という気持ちになります。そうなってから,営業マンの出番です。お客様をそのような気持ちにさせる前に様々なクロージングやセールスのテクニックを駆使しても,テレアポのところで,電話を切られてしまうでしょう。

 上図のように,お客さんとスムーズなコミュニケーションができるのが理想の姿ですよね。しかし,現実はいくら「いいでしょう?」と語りかけても,遠くのほうで,冷たく「何が?」という反応,または無反応,または認知すらしてくれない状態なのではないでしょうか。

 「どのように」の部分は専門技術が必要になる部分です。会計士に頼むとお金がかかるからといって自分で帳簿をつけ,税務の書類を作成する経営者はいません。しかし,ビジネスで重要であるはずの販売の部分を専門のデザイン会社やデザイナーに発注する中小企業は非常に数が少ないのです。

 一方,大企業はこの部分を非常に重要に考えています。専門の部署を作り,ライバル会社と激しい競争をしています。なぜなら「販売はコミュニケーションである」ということを認識しているからだと思います。規模が大きくなると,社会とのかかわりや影響も大きくなってきます。それには,コミュニケーション力というものがいかに大切なのかを理解せざるを得ないのでしょう。

 どこにお金を投資すべきかを考え,組織を育て,成長させていくことが「経営」であり,そうでなければ,ただの「商売」です。商品力はもちろん大切ですが,どのようにその良い商品を社会に広めていけばよいのかをもう少し考えてみてみましょう。